(8)

 ぎぇぇぇえええぁぁぁあああおおおぅぅぅ


 ドラゴンは吠えた。


 その恐ろしい姿と声に、ボヌム人たちはひるんだ。

 しかし、すぐに戦意を取り戻した。

 伝説の中で、ドラゴンは山のように大きい、と聞かされていたけれど、今目の前にいる怪物は、ゾウよりも少し大きい程度だった。彼らは東方に遠征したとき、ゾウを率いる民族とも戦ったことがあったのだ。

「放てーッ」

 という号令によって一斉に矢が放たれ、ドラゴンの上に降り注ぐ。

 しかし、そんなものは効かない。

 硬い鱗がはじき返した。

 ドラゴンは、矢が飛んできた方向を睨みつけると、そちらへ向かって前進を開始した。

 自分が向かっていけば、人間は逃げ散ると思っていた。


 ところが、彼が眠っていた百年の間に、人間は進化していた。

 戦いの仕方が変わっている。

 ぐわん

 と何か重いものがドラゴンの頭に命中した。砲弾だった。

 これは効いた。意識が飛びそうになる。

 さらにいくつもの砲弾が飛んできて、ドラゴンの肩、背中、脚に次々と命中した。

 鱗がはじけ飛ぶ。

 骨がきしむ。

 続いて、騎兵隊がやってきた。

 彼らは、ドラゴンの鱗がはがれたところをめがけて、力いっぱい槍を刺したり、鉄製の矢を放ったりした。

 痛い、痛い。

 ドラゴンの体から血が流れた。


 群がる兵をしっぽでなぎ払おうとした。

 けれど、装甲兵たちが重い盾で防いだ。


 右目に何かが刺さった、と感じた。

 それは毒だった。

 ドラゴンは右目が見えなくなった。

 工兵が取り囲み、油をかけて火を放つ。

 ドラゴンは炎に包まれた。

 熱い、熱い。

 それでも、前に進む。

 昔は駆けることができた。けれど、今の彼は駆けるには歳をとりすぎていたし、ひきこもっている間に、脚の筋力は衰えてしまっている。


 ドーンッ


 お腹の下で何かが炸裂した。

 仕掛けられていた火薬が爆発したのだ。

 お腹は硬い鱗で覆われていない、ドラゴンの弱点だった。

 内蔵が潰れた。

 気を失いそうになるほど苦しい。

 痛い。

 飛ぼうとした。

 もう飛べなかった。翼はボロボロになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る