(2)

 時々、人間の旅人が洞窟の前を通りかかる。

 そして、仰天した。

 巨大なドラゴンが、洞窟にひそんでいる。

 彼らは自分の村に帰ると、その恐ろしさを大げさに話すのだった。

 ある旅人は、ドラゴンの鼻息で仲間が木の上まで吹き飛ばされたと言い、またある旅人は、生き血をしたたらせながら獣を食べているところを見たと言った。

 さらに噂に尾ひれがついて、ある王国に伝わったときには、ドラゴンは山のように大きく、街を襲い、人間を食べる怪物ということになっていた。

 その噂を聞いた王国の戦士が、馬にまたがり、剣を持って、洞窟の前にやってきた。

「やぁやぁ。我こそは王国一の戦士。出でよ、ドラゴン。我と戦え」

 ドラゴンは目を覚ました。

 暗闇の中で黄色い目がギロリと光る。その恐ろしさに、戦士は縮み上がったけれど、従者が見ているから、逃げ出すことはできない。

「臆したかドラゴン」

 精一杯の勇気をふりしぼって叫んだ。

 ドラゴンは人間が何を言っているのか分からなかったけれど、とりあえず起きることにした。

 のっそりと洞窟の外に出ると、


 ぶぁぁぁあああぉぉぉおおお


 とあくびをした。

 その声の恐ろしさに、戦士はあっさりと逃げ出してしまった。

 逃げるとき、従者が落ちていた鱗を一枚拾って帰った。


 王国に戻ると、戦士は宮殿で国王陛下に報告した。


「はい。とても凶暴なやつでした。口からは炎を吐きます。二つの森が焼けこげになりました。もっと危険なのはしっぽです。一撃で山を粉々にするのですから」

「それは恐ろしい」

「ですが、ご安心ください、国王陛下。私が、この剣で心臓を三度突いてやりました。きやつは不死身ですから、死んではいないでしょう。けれど、もう人間を襲うことはないと思います。また悪さをしたら、私がこらしめてやりましょう」


 証拠としてドラゴンの鱗をさし出すと、国王陛下は満足した。

 戦士は勇者と呼ばれ、騎士団長にとりたてられた。

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