(3)
ドラゴンはもう、水浴びをすることも億劫だった。
体中に生えた苔の上に土が積もり、日が当たるおしりの方の土(ドラゴンは洞窟の奥に頭を突っ込んで寝る習慣だった)には、植物の種が飛んできて、芽が出て、花が咲いた。それが枯れて、また土になる。
そうして、さらに百年が過ぎた。
ある日、ドラゴンが目を覚ますと、目の前に人間の少年が立っていた。
不思議なものを見るような顔で見つめている。
「君は……」
とドラゴンは言った。
「僕が怖くないのかい?」
「どうして怖いの?」
「人間はみんな、僕を見て怖がるよ」
「怖くないよ。だって、たくさんの花が咲いているもの」
もっと不思議なことがある。
「君はどうして、僕の言葉が分かるんだい?」
「どうして分からないと思うの?」
「人間はみんな、僕の言葉が分からないし、僕も人間の言葉が分からない」
「でも、僕の言葉は分かるでしょう」
そういえば、そうだった。
「僕は山羊とも話せるし、鳥とだって話せる」
と少年は言った。
「人間はみんな、山羊や鳥と話せるのかい?」
「分からない」
ところで、と少年は聞いた。
「君は何者なの?」
「僕は……」
と言いかけて、ドラゴンは考えてしまった。
僕は一体、何者なのだろう。
ひとりぼっちで、体中から苔や花を生やし、何もせず、洞窟の中で寝ているだけの生きもの。
それでも、人間でも山羊でも鳥でもないから、
「僕はドラゴン」
と言った。
「君の友達はどこにいるの?」
「いないよ。みんな死んでしまった」
「一人も?」
「ああ、一人もいない」
すると、少年は思いがけないことを言った。
「僕が友達になってもいい?」
「君が、僕の友達に?」
「うん」
ドラゴンの心に温かいものが宿った。
何百年ぶりかで味わう気持ちだった。
「ああ、いいとも」
「やった」
「でも、一つだけ約束してほしいことがある」
「何でも約束する」
「僕がここにいることを誰にも話さないでほしいんだ。お父さんにも、お母さんにも、友達にもね。怖がるといけないから」
「分かった。秘密にする」
「ああ、秘密だ」
こうして、ドラゴンと少年は友達になった。
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