(10)

 どしーん


 ボヌム人たちの姿がすっかり見えなくなると、轟音を立てて、ドラゴンはその場に倒れた。

 にわかに降り出した雨が、ドラゴンの体でくすぶる炎を消し、血を洗い流していく。その雨はまた、家々を焼く火も消してくれた。


 良かった


 とドラゴンは思った。

 意識が遠のいていく。もう呼吸をしているのがやっとだった。


「死なないで」

 という声が聞こえた。少年の声だった。


 ドラゴンは目を開けた。

 左目も、ほとんど見えなくなっていた。

 けれど、少年が泣いていることは分かった。ドラゴンの首にしがみついて泣きじゃくっている。

「死なないで、ドラゴン」


 無事で良かった


 とドラゴンは安心した。

 そして、最後の気力をふりしぼり、少年に語りかけた。口からは血があふれるばかりだったけれど、声は直接、少年の心に響いた。


 泣かなくていいんだよ。


「だって、だって、ドラゴンが死んじゃう」


 これで良かったんだ。


「嫌だ、嫌だ、死んじゃ嫌だよ」


 僕は少し長く生きすぎてしまった。


「ずっと、ずっと、一緒にいたいよ」


 命あるものは、いつか死ななければならないんだ。

 植物も動物も人間も、僕たちドラゴンもね。


 本当のことを言えば……


 僕はずっと死にたかったんだ。

 でも、生きていて良かった。



 最後に、君と会えたから。



 息を引き取る直前、ドラゴンは夢を見た。

 少年を背中に乗せて、空を飛ぶ夢だった。


 森を越え、山脈を越え、草原を越えて、海に出る。

 茜色に染まる夕焼けの空を、光がさざめき合う星の海を、ドラゴンは少年と飛んだ。

 海から昇る大きな朝日、雨の後にかかる鮮やかな虹、珊瑚礁でできた島、雷が轟く火山島、雲よりも高くそびえる雪山……。少年に見せたかったものをすべて見せた。

 そして、少年を村まで送り届け、別れを告げると、天を見上げた。

 空の彼方で、先に死んだ仲間たちが待っている。


 その仲間たちのところへ。


 ドラゴンは大きな翼を広げ、舞い上がった。

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