(6)

 ある朝、ドラゴンが目を覚ますと、洞窟の入り口に少年が立っていた。

 いつもと様子が違う。

 体をわなわなと震わせて、泣いていた。


「ごめんなさい」

「どうしたんだい?」

「もう、ここには来られない」

「なぜ?」

「僕、約束を破ってしまった」

「約束を?」

「おじさんに、僕たちのことをしゃべってしまったんだ。そうしたら、もうここに来てはいけないって……」

 ドラゴンは少し狼狽した。

 けれど、すぐに落ち着きを取り戻した。こうなることは、ずっと前から分かっていたような気がする。

「ああ。いいんだよ」

 少年を苦しめているものが罪の意識であるとドラゴンはすぐに気づいた。

 そのトゲを抜いてやらなければならない。


「気にしなくていい」

 とドラゴンは言った。


「おじさんたちがドラゴンを殺しに来るかも知れない」

 少年は泣きながら叫んだ。

「逃げて、ドラゴン」

「いいんだ。殺されても。僕はもう十分に生きたから」

 本当にそう思っていた。

 けれど、人間たちはきっと自分を殺せないだろうとも思った。

「もう泣かないで」

 ドラゴンは、しっぽの先で少年の頭を優しくなでた。


 少年はいつまでも泣き続けた。


 そして、ドラゴンはまたひとりぼっちになった。


 時々、少年の夢を見る。少年を背中に乗せて草原を散歩する夢、湖を一緒に泳ぐ夢、少年がとってくれた甘い果物を食べる夢……。

 けれど、目が覚めると、ドラゴンはやっぱりひとりぼっちだった。

 散歩をするのが楽しいのも、泳ぐことが気持ちいいのも、食べ物をおいしく感じるのも、それを分かち合える誰かがいるからだった。

 希望とは、明日を楽しみに待てる心だった。その灯りが、彼の中でまた静かに消えていく。

 ドラゴンは元のひきこもりに戻った。

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