⑥「進路希望調査に『異世界で勇者』と書いたら通った件」 作:ハル

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885530667


※個人的な見解が入っているため、参考程度に。また、ストーリー的にはまだ序盤~中盤前半といったところのようで、伏線などを区別できないままに批評してしまうかもしれせんので、ご容赦いただけたらと。


【進路希望調査に『異世界で勇者』と書いたら通った件】(作:ハルさん 以下作者さん) 全エピソード読了。


 異世界転移(あるいは、VRMMO系)のストーリー。特筆すべきは、現実世界と異世界が地続きである、という設定。タイトルにあるように、進路希望調査に『異世界で勇者』と書いたら異世界に行ってしまった内容。しかし、タイトルそのままのストーリー展開ではあるが、異世界転移というジャンルにおいては、もはや説明不要な部分に敢えて説得力を持たせるストーリーの流れと文章は実に丁寧であり、読んでいて大きなストレスは感じ取れませんでした。ストーリーライン、文章については指摘するべき部分は見受けられませんでした。

 ただ、作者さんが疑問に思っている「ストーリーに興味を持てるか?」という部分については少し弱いと感じました。理由としては、物語(あるいは作品内の世界)や主人公に「問題」が発生していないからですね。


 以下、項目に分けて批評させていただきます。


(1)問題があまり発生していない


 現時点で17話公開されている訳ですが、物語の中で「問題」が発生していない、というのは少しストーリーの速度としては遅いと思われます。

物語である以上どうしても求められる条件として、主人公の成長や、問題解決、というものがあります。コメディを主軸に置いていない以上、何かしらの作品の目的が無ければいけません。極端な例を挙げれば、地球滅亡や、隣人の危機、自分の生死、などと言った「解決しなければいけない事柄」ですね。


①主人公の目的が、かなり個人的で小規模なもの


 作品内では、主人公はフェリスに会いたい、ということとアヴァロンがほしい、という目的で異世界へと転送されます(一応は2億円という報酬もありますが、敢えて除外します)。主人公の心情で考えれば重大な目的かもしれませんが、読者側から見れば重大なものとして捉えることは難しいと思います。

 また、オペレーションを遂行している側の者たちも、研究をしたい、消息不明者を探してきてほしい、という目的がありますが、それらは主人公(あるいは、読者)から縁遠いものであることは否めません。なぜなら、研究が停滞しようとも、消息不明者が帰らぬ人になっても、主人公に影響は無いからです。

 おまけに、主人公が正義感の強い人物ではなく、そして異世界へ行く目的としてもオペレーション側の思惑を主人公は強く考えていません。そのため、作品内で発生している「問題」が主人公の極端で個人的な(しかも、読者に対して強い印象を与えるようなものではない)ものとなっています。そして途中(第12~13話)から、主人公はただ帰るだけを目的としますが、つまり主人公の目的が『アヴァロンがほしい』の一点に集約されてしまった訳で、極端な見方をすれば、物語としての「問題」が消えたと同じ状態になってしまっているものですね。

 特に大きな使命や目的もなく異世界に行くという作品はありますが、多くの作品は異世界ですぐに「問題」に直面し、自分から使命や目的を生み出します。こちらの作品ではフェリスが死んでいた事実を知ってから5話分(第14~18話)まで、問題らしい問題が発生しないままであり、流石にストーリーの速度が遅くなっていると思われてしまう可能性があります。


②最初から主人公に目的がほしいかも


 主人公が異世界に行くまでの文章は、個人的にはどれ一つとっても無駄なものは無いように思えます。というのも(第2~10話)、主人公が『進路希望調査に異世界で勇者になりたい』と書いてから本当に異世界に行くまでの過程に、説得力を持たせるのに十分な機能を果たしているからですね。国家機密を扱っている以上、概要だけを軽く書いてしまえばチープに見えてしまいますし、フェリスに会いたいというのもアヴァロンの出来が良いから、とそれぞれに理由がはっきりとありますので。また、伏線らしきものもあるようで、やはり文章を削るのは難しいと思います。特に、主人公の環境が変わっていく様は半ばホラー小説でも読んでいるようなワクワク感とゾクゾク感がありました

 だからこそなのか、序盤のストーリーはゆっくり(あるいは、じっくり)になってしまっていますね。しかし、この遅さは問題ないかと。問題なのは、ストーリーを急激に加速させる要因を主人公が持ち合わせていない事です。

 序盤のストーリーがゆっくりとなってしまうのは仕方がありませが、ある程度の世界観や経緯の説明が出来たら(言うなれば、舞台のセッティングが完了してから)、一気にストーリーを推し進めないといけません。

 しかし主人公の目的は非積極的で、そして途中からその目的が殆ど消えてしまいます。そのため読者は「まだ話しが進まないのか」という誤解を持つようになってしまい、ストレスを感じるようになってしまうかと思います。

 主人公が最初からある程度の目的を(フェリスに会いたい、アヴァロンがほしい、以外の)持っていれば、読者は「その目的をどうするんだ?」と興味が持てるかと思います。

 それこそ、かなり強引ですが、第18話で出てくる香澄(らしき人物)を消息不明者の中に入れたりすれば、主人公を積極的に動かせるかもしれません。



(2)異世界での世界観と、第一話の勿体無い部分。


 作品内では、現実世界と、そして異世界への繋がりについて説得力を持たせています。しかしながら、いざ赴いた異世界は(全容はまだ明らかになっていませんが)単なるゲームの延長線上となってしまっています。これは少し勿体無い気がしました。

 オーパーツ的な経緯で異世界へと転送されながらも、転送された先の異世界はweb小説で散見する平均的な異世界になってしまっています。今後、異世界への世界観を展開されるのかもしれませんが、異世界に行ってから現時点の話まで、他の異世界に比べて特出した部分があまり見受けられないように思えます(異世界はゲームの中ではなく、あくまで異世界のほんの一部分をゲームが再現しているだけ、というのは特別でしたが、異世界の世界観には一切の影響がありません)。せっかく、現実世界と地続きで、オーパーツ的な要素も含まれているのですから、それらを僅かにでも異世界の描写で醸し出さないのは勿体無いです。多くの話数を要した第2~10話までの現実世界の世界観を余すこと無く活用できるかと。

 また、第一話の内容が、良くも悪くも平均的な異世界物の第一話となってしまっているのも勿体無いです。読者によっては、1話だけで食傷気味になってしまい、2話以降の面白い部分を開きもしない、ということもあるかもしれません。他の異世界物とは違う、というのを第一話から出していけば(オーパーツ的な要素や、国家機密的な要素)、読者が2話以降の内容に手を伸ばす一因になるかもしれません。



 総評


 個人的には、文章力という点では指摘する部分は殆ど見受けられませんでした。ストレス無く読めました。しかし、異世界に行くまでそれなりの話数が用いられているので、読者がある程度は選ばれてしまうかもしれません。しかし、私としては、本来ならば深く説明する必要のない『異世界へ行く経緯』に説得力を加え、それでいて主人公の環境が徐々に変化していく様は読んでいて面白く、素晴らしかったです。正直、タイトルを読んだ段階で『進路希望調査を神様が拾ったり何だりしたら異世界に行ったのかな?』と油断していたため、まさかの現実と地続きで来られて驚きました。良い意味で裏切られましたね。読んでいてワクワクしました。

 しかし、異世界に行くまでの経緯でワクワクしてしまった分、異世界に行ってからのテンポの変化があまり無かったことで、ワクワクした分、ストーリーが遅いと余計に感じてしまった部分もありました。

 主人公に目的はあまりなく、危機的状況でもない。異世界の世界観も他の異世界物に比べて特殊な世界観でもないように思える。物語がどのような方向に進もうとしているのか分からず、読み進めていく動機が希薄なってしまった、というのが個人的な意見ですね。

 第2~6話は間違いなく面白かったです(第1話は、やや、異世界物としては正し過ぎる展開だったために、評価は難しいですが。良くも悪くもテンプレートでした)。ただそれ以降に「問題」が発生しないことと、異世界が現時点で他の異世界物に比べて特別ではないこと、主人公の目的がかなり小規模で読者から見て魅力的ではないことが、全体を通してぼんやりとしたものにしてしまい、勿体無いと感じてしまいました。以降の展開に期待です。


論評URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885530667/episodes/1177354054885795925

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