⑧「夢境のカウード」 作:伏木海霧
作品:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885551024
「あらすじ」
少し(?)妄想癖のある少女、白石海音は、自宅のマンションが火事になり救助マット目掛けて飛び降りるが、勢い余って飛び越え地面に激突し、死んでしまう。
……が、しかし、魔法がある異世界に転生してしまった
彼女はミア・ベルナールドとして、様々な葛藤や多くの絶望を味わいながら、厳しい世界を生き抜く。
「読んだエピソード」
プロローグから「第6話:転生、そして邂逅」まで。
「設定」
⑴全般
・最後まで読みたいのだが、もう外は暗くなっているし、読むのは明日にして今日は寝よう。
前の文にロウソクが出てきたことからも分かりますが、この世界には電気がありません。そしてこの文には同時に、自分が赤子の体である為自らロウソクを付けることが出来ないという二つの設定を読み取ることが出来ます。現実(現世)と異世界の相違点を描写する事でリアリティが生まれているので、転生ものの楽しさがしっかりと伝わってきました。
リアリティという面で考察しますと、不便なのは光源やお風呂だけではないと思います。現代の文明をいきなり奪われたら、現代人はどうなるでしょうか? スマートフォンやゲーム機などの電子機器にずっと執着したり、エアコンの無い生活にうんざりしたりするかもしれません。また、個人的には夏に冷たい飲み物が無い、というのもつらい気がします。
まだ作中には書かれていないだけかもしれませんが、一応こちらへ書き留めておきます。
もう一つ気になったのは、ベルナールド家が百年前の戦争により「没落」したという表現です。ミアは「本めっちゃある」部屋での読書を通じて文字や世界の情報を手に入れていくのですが、果たして貴族であっても、「没落」した貴族がこれ程までの財産を持ち合わせているのでしょうか? また、この疑問の答えを書物の希少性に関連付けることによって解決したとしても、メイドを雇っていることや、小ドラゴンをペットとして飼っていることは少々無理がある気がします。
没落という語を調べてみると、「栄えていたものの勢いが衰えること」という定義が出てきます。こう見ると確かに“貧乏である”という意味はありませんが、語感としては一文無しやジリ貧といった要素が含まれている気もします。個人の感想ではありますが、引っかかったので報告します。
⑵言語
・それと、不思議な事に二人とも西洋人のようなのだが、日本語を喋っていた。(第1話:転生、そしてお風呂 より)
不思議です。どうして日本語が話されているのだろうと。主人公の新たな名前はミア・ベルナールド。当然両親もエキゾチックな名前をしています。それでも日本語が話されていることに違和感を覚えます。
おそらくではありますが、前世の意識や知識を持ち合わせて転生することで一人称での物語進行不可という事態に陥ることを避けているのだと思われます。転生ラノベならではの設定、と言われると読み慣れていない私は途端に論じにくくなってしまいますが……。
でも、この先日本語が話されていても不都合がなければこのままでもいいと思います。もし変更の必要があるならば、前世の意識をもって目を覚ました瞬間に言語認知機能が徐々に機能していく程度の設定にしてみてはいかがでしょうか?
⑶魔法
・「よーし、出すぞー。『温風』」(第1話:転生、そしてお風呂 より)
どうやらこの世界では、魔法は詠唱によって発動するようです。……が、から恐ろしいことに、次の文では詠唱が必要かもしれないというようなことが書かれています。
・魔法ってこんなに簡単に無詠唱で出来るものなのか? (第2話:転生、そして鑑定 より)
次話では魔術に関する完結な解説が施されていたので、そちらもここに挙げておきます。
・魔術は、体内にある魔力を詠唱により使用し、空気中の魔力へ思念を共鳴させることで、具現化させているらしい。(第3話:転生、そして書斎 より)
・また、科学知識……分子、原子の移動、化学変化の様子をイメージすると、爆発的に威力が上がるようだ。(同上)
説明では「詠唱により」使用するとあるので、一応必要なものであると取っておきます。
でも、ここまでの情報を総合すると例えば“精霊との契約が必要”だとか、“特別な魔法具が必要”だとかいったことが書かれていませんので、極論を言えば誰でも魔法を使えることになってしまわないでしょうか? 魔力が選ばれしものにしかないという記述はありませんし、主人公も訓練をして魔法の扱いに長けていくので素質がないと使えないという風にも考えにくいです。
全員が魔法を使えるとなると魔法に関する法律や不文律が出来ているはずですが、そういった描写も未だ無く……、そこら辺の説明がもっとあると、設定にうるさい読者でも満足いく作品になると思います。
「表現」
⑴視点
「第4話:転生、そして兄」 では序盤がミアの視点、対して後半は兄の視点となっています。一人称視点ではどうしても描写できる心情や情報が限られてしまうため、こうした視点の転換はプロの方も使われます。実際「閑話 1」で語られる同級生の情報は、伏線となっているのでしょうし、場面の切り替えによって良いアクセントとなっています。
しかし私個人の印象は、「視点変更によって少しせわしない展開の作品」というものになっています。理由としましては、視点一つ一つの文量が少ない、ということが挙げられます。
「閑話 1」に関しては、文量も大分ありますのでしっかりと根付いていますが、「第4話」での兄視点はわずか千文字足らずで終了してしまっており、情報がどうしても薄く感じられてしまいます。また、書籍の形ならまだしも、カクヨムなどのエピソード分けがなされている媒体でなら、一つのエピソードに視点は一つにした方が見やすいのです。
ですが、三人称よりもはるかに難易度が高い一人称視点を選択し、さらに複数の視点から物語を進めていく作者様の姿勢には「確固たる意志」と「こだわり」が伝わってきます。私の意見をすべて詰め込んでしまっては、伏木様の書きたいものが書けなくなってしまうかもしれませんので、あまりこちらの意見を真正面から受け取らないようにお願いします! (すべての批評に言えることですが)参考にしていただくのが一番です。
⑵地の文
主人公が結構おちゃらけた性格なので、地の文の全体的な印象は「軽い」です。とはいえ決して悪い意味ではありませんし、以下の文などはシリアスなムードを演出することに成功しています。
・それとも、"あの"報いなのだろうか。
未だに忘れられない、忘れてはいけない、噎せ返るような、濃い、血の匂いが、暗闇が、感触が、重さが、蘇る。(第1話:転生、そしてお風呂 より)
・気付けば、宙を舞っていた。
反転する世界に映るのは、大型トラックと紅い花。(閑話 1 より)
それでも欠点はあります。何も知らない方が上の文を見たら、おそらく同じキャラクターが発した言葉だと思うでしょう。でも実際は、前者は海音(ミア)、後者は同級生です。人格も性別も違う二人の言葉が同じようになってしまっては、せっかくの一人称視点という地の利が十分に生かされていないのではないのでしょうか?
三人称的一人称視点なのかもしれませんが、そうは言っても完全なる心情が描写されている中で、いきなりこのような文があると同情や感情移入が難しくなってしまいます。独自の語彙や口調など、それぞれのキャラクターに“区別”をつけるべきだと考えます。
「批評希望:文法・構成など」
⑴文法
読んでいて、気になったのは一つだけです。
・光悦としていたら、ロデリックがちょっかい掛けてきた。(第1話:転生、そしてお風呂 より)
「光悦」……? 本阿弥光悦? おそらく「恍惚」とか「喜悦」の間違いでしょうか。それにしてはきちんと変換されているので、勘違いかと思われます。
はい。本当に、言いたいことはこれで終わりとなります。というのも、一人称だとどうしても話ことば中心になってしまうので、あまり厳しく見て言っても興ざめになってしまうのですよ……。
⑵構成
主人公である海音が、開幕早々四天王と戦っているので、インパクトがあります。読者に続きを読ませる魅力があると、断言できます。
また、それが結局妄想だったというのもトリッキーですね。
それ以降のことを言及しますと、特に変わったところは無いというのが感想です。安定飛行しています。あ、でも「閑話1」でいきなり同級生の視点、語りに飛んで行ったり、兄(フレデリック・ベルナールド)の視点に飛んだりしたのには少し驚きました。ただ前述したように、文量が少なくいまいち記憶に残らないので、少し改善すれば物語全体の「変更点」として非常に効果的なものとなるでしょう。
また、「闇」についてですが、「第1話」にある“あの”報いといった言葉や、兄を拒絶するなど、ちょくちょく「闇」らしきものが見え隠れしているため、読者にはしっかりとその存在を暗示できていると思います。
が、そのような暗い過去を抱えながらも、結局、ミアは訓練に明け暮れたり町の祭りを満喫しているので、この後雰囲気を一変させて“堕とす”のなら、その土台はほぼ形作られていると言っても良いでしょう。
“ほぼ”と書かれているのは、個人的にはもう少しほのぼの日常を楽しみたいからです。どれくらい先でダークな物語に一変させるのかは分かりませんが、街とか周辺の森とかの情報を知りたいので。
「感想」
カクヨムでラノベを読むのはこれで二回目です。しかし、同作品はあの「転生モノ」! 一応“こういったもの”という淡い認識・定義はありましたが、触れるのははじめてで、新鮮でした。特にミアが赤ちゃんに転生して授乳されている描写を見て、結構な衝撃を受けました。でも、確かにそうなりますよね。
あと、海音もといミアが、かなりのオタクなので、親近感が湧きます。というか、プロローグの時点で “ヤバイ奴” 臭がプンプンします。黒歴史の塊みたいな方ですね!
食いしん坊なのがまたイイ。
・ボリュームのある肉肉サンドウィッチを二つも食べたため、お腹がパンパンだ。(第6話:転生、そして邂逅 より)
いっぱい食べるキャラクター、好きなんですよー。私自身、胃が弱いこともあり、いつも羨望と賞賛をない混ぜにした目線を送りながら読んでおります。
さて、このほのぼの異世界暮らしが、一体どのようにして暗転していくのか、またどんなダークネスが演出されるのか、個人的に非常に楽しみです。是非、この作品の“山場”を見届けたいです!
それでは、私の批評は以上になります。ありがとうございました。
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