論評者:草月玲

①「天才魔法使いに転生したのにネルがあまりに能天気なせいで幼女たちの下僕になっていまい、そんな幼女たちは貧乏だというのに世界征服を目論んでいる件。」 作:とお

 作品はこちら→https://kakuyomu.jp/works/1177354054885519044 


 「あらすじ」

 十五歳の少年・ネルは、道でころんで頭をうって死んだ。気づくと別世界にいて、自分は転生していたことをしる。転生したその世界は、なんと百年後の異世界だった!! その後、ネルは金髪幼女のマリアと出会う。マリアがたすけてくれたから、そのうえほかに暮らす方法もなかったので、ネルはマリアといっしょにいることとなり、さまざまな事件にまきこまれてゆく。そんなときに、もうひとりの黒髪幼女・いのりと出会った。いのりはマリアのともだちだったらしく、わけあっていのりともいっしょとなる。だが、いのりはネルのその優秀な魔法使いとしての遺伝子を欲しはじめてしまう……。マリアはいのりに嫉妬し、まさかのハチャメチャな競いあいに発展――!?



 「読んだエピソード」

 第一話から、第十四話まで。



 「設定分析」

 題名の「魔法使いに転生」という語句から、王道のファンタジーかと思いきや、主人公の転生先が“テクノロジーの発展した未来&異世界”ということで、その斬新さに驚きました。個性ありますね……。

 大まかな設定はここまで。次はこまごまとした部分を見ていきます。私が気になったのは、「第2話 マリアは抱きまくらが好き?」の序盤に「肉まん」という表現があるということです。確か主人公はスウェーデン出身ですよね? ……しかしこの疑問は、スウェーデンにも私たちがいう「肉まん」と似た料理があるとすれば、一応納得できます。

 でも、中盤から登場して、その先ずっと主人公が使うことになる「如意棒」はいかがなものかと。北欧でも有名なのでしょうか? ネルが始めて出した時に、マリアは当たり前のように会話を進めています。もしかしたら瞬時にネット検索をしたのかもしれませんが、「第3話 誘拐事件」に登場する少女も違和感なく「如意棒」と言っています。未来の北欧は東洋の文化が一般人にも知れ渡っているという設定があれば違和感がないのですが、それがどこにも書かれていないので指摘致します。


 また、設定についてはもうひとつ指摘します。こちらも第3話なのですが、ネルとマリアが万引きをするシーンがありますね。当然店長は追っかけてくるのですが、彼が何にも乗らずに走ってくるということに違和感があります。いまよりも技術が格段に進歩している時代なら、一人用の小型VTOL機やセグウェイの進化バージョンなど、すぐに乗ることが出来、また即座に人に追いつける乗り物があってもいい気がします。

 ただ、同話の序盤に「一〇〇年も経てば、民家のかたちはおおきく様変わりしている」とありますが、こちらはよく考えているなと感じます。何物も、時と共に変わらないものは無い、とお 様の“万物流転の思想”を醸し出す設定です。



「構成分析」

 ストーリーの構成や展開は、私もつまずいている点でありますから、あまり詳しく評価できないのですが、個人的には「上手い」と思います。現に私は十四話まで読んで、続きが気になりました。また、現在同作品には★が十三個もついているわけですから、読者も「良いものだ」と思ったに違いありません。

 一つ言っておきたいのは、タイトルにある「幼女たちの下僕」というパワーワードに惹かれて読みに来た方は、なかなかそのような描写が出てこないことにやきもきするかもしれない、ということです。



 「文章」

 まず、「漢字を使うべきところが平仮名になっている点」を指摘します。「第1話 川へ洗濯に行ったんです。」を見ただけでも、「みずから」や「にげられた」また「いっしょ」や「つぎ」など、多くの未変換熟語が見受けられました。

 例えば“幼女”や、“右も左もわからないようなおバカキャラ”が話した言葉になら漢字は相応しくありません。でも、主人公がおバカキャラだったり、とても幼いという設定はないはずです。変換が面倒と思われたのかもしれませんが、これが原因で読むのを断念する方もいるくらいです。少なくともそういったこだわりのない場合、常用漢字は変換した方が良いです。



 次は、地の文についてです。「第2話 マリアは抱きまくらが好き?」にて、以下の文章がありました。


「というわけで、実戦についてなんだけど」

 マリアは町について話しはじめた。


 この後、マリアは地の文の通り“町”について話し始めます。……言いたいことがわかりましたでしょうか? つまり、冷たい言い方をすれば、この地の文は情報量的には価値のないものなのです。だって、前後を見れば、ここに書いていることはすべてわかってしまうのですから。次の文も、同じことが言えます。


「きさまああああああああああああ」

 オークが咆哮した。


 情報的には、誰が咆哮したのかということしか含んでいません。この場合、例えばオークの咆哮そのものについての描写をしてみてはいかがでしょうか? 

 

例:

「きさまああああああああああああ」

 オークの咆哮は、地を揺るがすほどに重厚なものだった。


 こうすれば、咆哮がオークのものということと、その性質まで伝えることが出来ます。

 会話文ばかり続くと地の文を入れたくなるのはわかりますが、中途半端なものはむしろ削った方が良いと思われます。

 次に、私はこの文章に注目しました。


「ひ、ひいいいいいい」

 ネルは絶叫した。

 まさか自分の喉からホラー映画の主人公のような悲鳴が出てくるとは思わなかった。


 このあと、マリアは「ホラー映画はいいから、とにかく離れて、ネル!」と発言します。つまり、地の文と作中のキャラが器用に連携しているのです。こういったメタ的な絡みは、良いアクセントになっていますね。ラノベ界で見受けられる手法なのでしょうか? とにかく、新鮮で、好印象かと思われます。

 また、「第7話 居留守」に、このような描写があります。


身体から、白いけむりがのぼり、髪の焦げた強烈な異臭が部屋のなかにじゅうまんしていった。ネルはとつぜんの吐き気におそわれて部屋を飛び出す。


 視覚だけでなく、聴覚をも用いた描写に、リアリティを感じました。作者様の想像力が高いことを示しています。

 それと、「第13話 ゾンビ蜘蛛」では、


 いのりは、すばやいうごきで、中腰に、日本刀をかまえた。間を置かず、鞘から、刀をぬきだす。左腕をふる。刀の切っ先のうごきが、目でおえないくらいにすばやい。


 という地の文があります。こちらは戦闘シーンですが、緊迫した雰囲気が、現在形や短文の繰り返しで見事に表現しつくされています。素直に「うまいな」と感じました。



 三つ目に、視点について指摘します。

 こちらは「第4話 オーク退治にいきましょう」から。


ネルは、いまの稲妻落としを目の当たりにし、もういちどこの幼女はいったい何者なのだろうとかんがえてしまうのだった。

……(中略)……

そう、

 まずはだな、

 あの樹木あたりで、

 ちょっと練習を――。


 前半部は三人称視点。でもって対する後半部は完全なる一人称視点(心中の表現)です。どちらも同じエピソードに属しているのですが……、これは好ましくありません。二つの視点が入り乱れると、読者の負担が増えるからです。確かに三人称視点が一人称視点的になったりもします(安部公房の「砂の女」などがそれにあたります)が、こちらはその許容範囲を超えている気がします。視点の転換はせめて章かエピソードごとにすると良いでしょう。



 最後に、文章表現について気になるところをいくつかピックアップしていきます。

 まず、「第4話 オーク退治にいきましょう」に出てくる以下の表現をご確認ください。


マリアの稲妻は、工場の屋根と壁を叩き続けた。ものすごい量とものすごい威力だった。屋根の一部が火を噴きだし、水槽タンクは水蒸気爆発を起こした。どんがらがっしゃーん状態だ。


 何やら言葉が渋滞しておりますね……。「ものすごい量とものすごい威力だった」という部分が気になります。こちらは単に「ものすごい量と威力だった」でも通じます。この文章でも、“ものすごい”という形容詞が、量と威力をきちんと修飾してくれますので。

 また重複は他にもあります。「第9話 この人、悪魔ですよ!」にて、男がネルに対して発するこのセリフ、


「きみや、マリアさんは、天才なんだ。皮肉だが、戦いにおいての天才だ。きみやマリサさんが戦ってくれるなら、みんなよろこぶ。わかるかね、この争いには、戦いが不可欠なんだよ。モンスターは、知能が低い。彼らは、暴力的に、争いを仕掛けてくる――」


 こちらも「きみや、マリア(さ?)さん」という主語が立て続けに出てきますね。二つ目の主語は「二人」で十分誰を指しているかを伝えることが出来るはずです。

 これ以外にも、少し冗漫だな、と感じた文があるので、引用しますと、


 ネルはおもわず足をつまずいた。(第12話 モノクロより)


……(中略)……


 見あげた空も、どこか妙だった。夜だというのにまるでその黒の空は白みがかっているように見えてくる。


 前半について。足をつまずくという表現ですが、つまずくという言葉自体に「足」とか、「つま先」といった要素が含まれていますし、そもそもこういった表現が正しくないように思えます。

 また、後半も、夜の空は黒くて当たり前です。夜空が白みがかっているという異常を示したいのでしょうが、書かないと特別まずいというわけでもありません。


例:

ネルはおもわずつまずいた。


……(中略)……


見あげた空も、どこか妙だった。夜だというのにその空は心なしか白んでいるように見えてくる。


と書いても意味は通じるでしょう。

あともう一つだけ! 少し細かいのですが、


 傷はない。だが、いたみがある。おそらくこれは幻肢痛だろう。いたみは本物だった。(第13話 ゾンビ蜘蛛 より)


 とあります。幻肢痛は、手足がなくなった部分が痛いと感じる現象のことですから、この場合は言葉を借りれば「幻傷痛」というような単語になりますね。



 「改善点」

 ということで、まずは簡単な熟語を漢字に変換していきましょう。そのあと、重複した表現を洗練されたものに直していきましょう。例えば……、


 テーブルは一台で、ベッドも一台のみだった。ちいさな家なので、ベッドが一台なのはしかたないにしてもだ、布団も一式しかない状態ゆえ、ネルはなんとか布団を入手しないといけなかった(第14話 貧乏ぐらし より)


 この文章ならば、“前者”と“後者”や“それ”といった代名詞を駆使することで重複を避けられます。


例:

 テーブルは一台で、ベッドも一台のみだった。前者はまだ良い。またちいさな家なので、後者も仕方ないと言える。それにしてもだ、布団も一式しかない状態ゆえ、ネルはなんとかそれを入手しないといけなかった。

 

 となります。どうでしょう? コツは掴めましたでしょうか? 

 それが終わったならば、可能な限り「細かい設定の間違い」を修正していきましょう。もう一度読み直してみたら、新たに矛盾が見つかったということは、珍しくありません。

 では、これらの指摘で、とお 様の作品がさらなる高みに到達できることを願っています!


 「個人的感想」

 同作品「天才魔法使いに転生したのにネルがあまりに能天気なせいで幼女たちの下僕になっていまい、そんな幼女たちは貧乏だというのに世界征服を目論んでいる件。」は、私がカクヨムで最初に読んだライトノベル作品でもあります。読む前はこういった作品を小馬鹿にしていたのですが、いざ中を見てみると、ライトノベル作品には、従来の小説とはまた違った良さがあることに驚かされました! 


 あとですね、「第11話 二人目のようじょ」を見て、ゲーム「DEAD RISING」シリーズを思い出しました。わかる方にはわかると思います。もしくは「ロリポップチェーンソー」ですかね……。

 それと、「第14話 貧乏ぐらし」に「空賊」ってワードが出てくるじゃないですか、私、○○賊って単語に過敏に反応してしまうので、続きが気になるところであります。繁忙期が過ぎたら、また続きを読んでみたいものです。

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