④「魔王使いの監視日記」 作:和泉ユウキ
作品URL:https://kakuyomu.jp/works/4852201425154986224
「あらすじ」
天使率いる神と、堕天使率いる魔王が激突し、
数多の癒えぬ傷跡を遺した大戦より三千年。
神と天使と人が、それなりに平和な共存関係を築いている現在。
一人の人間が、ある目的のために天使の力を借りようとした時、
大戦の傷跡は、再び綻びを見せ始める。
「読んだエピソード」
すべてのエピソードを読了。
「文章表現」
まずは、和泉様が特に分析希望をしていた文章表現からです。のっけから正直に言ってしまいますが、欠点らしい欠点が見当たりません(泣)。いえ、サボったとかではなく、単純に、和泉様の表現力が(私より)高かったのです。例えば――
・かつん、と高らかに響く足音は高潔な匂いを漂わせ、見る者全てを惹き付ける。(第2話)
こちらには聴覚を嗅覚に絡めた表現があります。感覚を跨ぐ比喩というものは、決して容易に作れるものでは無いでしょうし、
・歩き出した背中に、底冷えするほどの低い呪いを斬り付けられる。(第6話 より)
また、こちらは見えないものを高低差に喩えて可視化しています。こうした様々な角度からの描写は、読者を飽きさせません!
もう一つ、表現力が高いと感じた根拠として
・あの、真っ赤な結末は。自分が招いた罪だったのだから。
〝君さえ死ねば〟
あの日――。(第5話 より)
このように、回想シーンに入るのが、非常に上手いなと思いました。前にあったはずのルシフェルとシキの軽妙な会話から、いきなりシリアスな展開へもっていく。この技術に加え、改行やダッシュ、クウォーテーションマークなどの記号が効果的に使われているため、時間の移動につきまとうはずの違和感がまるでありませんでした。
とはいえ、読んでいて気になった文もないわけではありません。
・下手をすればストーカーかと疑いたくなるが、ルシフェルにとってはどうでも良い些末事だ。第一、ストーカーという単語はあながち間違ってはいないだろう。(第15話 より)
・彼は無言。少し考える素振りを見せたが、もう答えは出したのだろう。(同上)
二つの文には、共に「だろう」という推量の助動詞が含まれています。三人称視点では、「だろう」や「と思われる」などといったあやふやな表現は、好ましくないと考えます。というのも、三人称視点は別名“全能視点”や“神の視点”とも言われており、一人称視点ではわかりっこない状況や説明を表すためのものです。
登場人物の心情を描いた分ならまだしも、すべてを知り尽くした神のような地の文が、推量などしていては困りますよね?
(しかし、この点については私も最近気にし始めたため、拙作では沢山使っているかと思われます。正直こんなことを言える立場ではないのですが、批評がないと話になりませんので……)
これ以外にも特筆に値する表現は多くありましたが、とてもすべてを書いてはいられません。ということで、文章表現についてはまさかのほぼ褒めるだけの結果に……。お役に立てず、申し訳ございません。
「展開」
次の批評対象は「展開」です。現在公開されている第17話までを見ると、
・主人公が天使の加護をもらいに行く→魔王使いとなる→村の調査を進める→登場人物についての情報が明らかになっていく……。
という流れになっているかと思われます。この中で、最も長い部分は明らかに「村の調査を進める」でしょう。始まりは第6話からとなります。しかし、同エピソードでは兵からの嫉みやそれに対する魔王の反撃、さらにはシキの回想など、様々な要素が混合していますから、肝心のストーリーが読みにくいと感じました。また、後になって村の情報や調査の真の目的が分かっていくようになっているのですが、そこに至るまでの道のりが、私には長く感じられました。第16話まで、10話にわたってシキや他の人物の過去についての説明が所々に挿入されたからです。
8話、9話はシキが戦闘の才を表す、いわゆるバトルシーンとなっていますが、10話目くらいから人物(とくにシキ)の過去に関連する描写が多くなっていきます。また、PVを見てみると一桁台に下がってしまっています。天使、魔王、堕天使、大戦などというパワーワードに惹かれて読み始めた読者のなかには、なかなか剣と剣が交わるような場面を見られずに、うんざりしてしった方もいるのではないでしょうか?
もちろん、シキやルシフェルたちの過去が徐々に明らかになっていく展開は興味をそそられるものですし、心情の葛藤や激情などは、バトルシーンに負けず劣らず緊迫したものとなっております。
しかしながら、心理描写や回想が丁寧だからこそ、ストーリーの展開はどうしても遅くなってしまいます。心の動きを追いながら、じっくりと物語を読みほどいていくスタイルの読者は大歓迎の展開でしょうけれども、一方でスピード感あふれる展開が好き、という読者には「遅い」と思われ好まれないかもしれません。
ですので、もし同作品の展開をより万人向けにしたいのであれば、例えば戦闘シーンや危機などの“スパイス”を入れていくなどの改造が必要となりましょう。
「設定」
天使や堕天使、神、魔王といった存在が人間と同じ舞台で生活している。この設定、ファンタジー作品ではあまり無いのではないでしょうか? 人間と魔族、そして魔王といった構図は見慣れていますが、“神”という存在が表舞台に出ることは珍しいと思います。というのもその力が強大すぎるので、下手に動かすととんでもない災厄や椿事が起こったりするからです。
そのような理由で、私はあらすじを見た当時、神という存在が世界にどのように関わっていくのかと興味を持っていました。でも、結局エデンは冒頭に出てきただけで、少なくとも現時点では再登場していません。エデンはそもそも何の神なのか、それとも唯一神なのか、また魔王との力関係はどうなのかなど、私はいまだに多くの疑問を持っています。
ですが、よくよく考えたらまだ連載中ということで、随時情報が追加されるかもしれませんので、これ以上は今後の更新を追っていくことにします。
次に、読んでいて気になった点を指摘します。
・「知ってるか? あいつ、目からビーム出すんだってよ」
「魔王パワーってやつか!?」(第2話 より)
ここで気になったのは、「ビーム」や「パワー」など、英語の使用です。私は自分のハイファンタジー作品において、英語をはじめとする外来語は極力使わないようにしています(もちろん例外もあります)。これは、せっかく作ったオリジナル世界の雰囲気を壊さないようにするためです。ボックスとか、キャンドルとか、ビールとかいったカタカナ言葉は、日本語に浸透し過ぎたせいか、どうも異世界にしっくりこないような気がするんです。あくまで個人の感想ですけれども。しかしですね、私も例えばナイフとか、ドラゴンとかいう言葉は、例外として作中に登場させています……。ここまでいっておいて何ですが、結局は個人の好みなのでしょうか(また、英語は多くの方が知っている外国語ですので、作品のなかの"異国の言語“の作成にも使えてしまう便利な道具となりえるというのも理由の一つです)。
もうひとつの気になった点は、こちらです。
「ルシフェル、人のこと言えないよね。前、ラーメン大盛十杯食べてたよね」(第4話 より)
ラーメンという単語が気になりました。というのも、前のエピソードで「醤油をもちいた料理」が出てきたときは、きちんと東の食べ物と解説していたのに、ラーメンには何の説明もなされていないからです。もしかしたらこの世界ではラーメンが浸透しているのかもしれませんが、その場合も一言注が入ってないと、私のような設定厨はどうしても気になってしまいます……。
いろいろといっておりますが、この「設定」の項に書かれていることはどれも私の好みや趣味・志向を基にしています。それゆえ正しいという根拠は全くありません。参考にすらなるかわかりませんが……、一応一個人の意見として。
「レイアウト」
この作品を見ていて、ふと思いました。「あれ、随分と殺風景じゃない?」と。
題名はかなり惹かれるものですし、キャッチコピーも深いと思います。しかし! 目次を見ると、第○話としか書かれていないではありませんか。
いえ、こだわりがあってこうしているのであればお節介になってしまいますが……、でも、言わせてください。「エピソード毎の題名は無くとも、大見出し・小見出しを用いれば、読者もとっつきやすくなるのではないでしょうか」と。
小見出しで舞台や場面、展開を明示しておけば、何がどのくらいの割合で書かれているかが視覚的にわかりますし、なにより小見出しを作成して損は無いと思います。これによってPVが増えるかは定かではありませんが、少なくとも初見の方の読む気力は上がると考えます。
「総評」
全体的にレベルの高い作品です。キャラは全員個性的ですし、また必要以上に人物を増やさないので、混乱もありませんでした。
展開についても、「テンポが遅い」と一概に言えませんし、むしろそれが利点であるとも言えます。設定への批評はすべて私の個人的な意見ですし、大きな矛盾などはありませんでした。
批評らしい批評をできなかったことは、私の力量不足によるものであり、また和泉ユウキ 様の作品が無傷に近いことを示しております。個人的には非常に残念なことではあるのですが、大きな欠点のない作品を読むことが出来たのは喜ばしいことです。ひとまずは同作品の完結を願っています。もしそれでもPVや評価が増えないようでしたら、もう一度お声がけください。その時はきっとお力になりますので!
「個人的感想」
ルシフェル、強し!
・ぶわっと、足元から真っ黒な瘴気が吹き荒れる。瞬時に軍人達を閉じ込める様に抱き込み、支配した。(第6話 より)
序盤は力を使わずに、ある程度物語がすすんだところで実力を後出しするという演出に、私はとても興奮しましたよー! あと、おちゃらけた性格なので、ゲーム「新光神話パルテナの鏡」のハデスを思い出しました。こういう道化師的といいますか、つかみどころのないポジションのキャラって、絶対強いですよね。もしくは最後まで生き残っているか。
あと、他の四大天使の活躍も早く見てみたいですね。どんなキャラなのかとか、どの属性を司るのかとかが気になるので。そうそう天使と言えば、どこかでミカエルが炎を纏って瞬間移動するシーンありませんでしたか? ああいったラスボス感あふれる演出が大好物なので、見つけると思わず笑みがこぼれます。
あとシキがアリシスを母に紹介する時、咄嗟に思いついた言い訳が「男の娘」という場面、意外過ぎました。自由ですね! 私もそんな柔軟な脳を持ちたいです。
(個人的にはアリシスが男の娘でも萌えるなー、なんて……)
先の展開に何が待っているのか、論評者としてではなく、一読者として非常に興味があります。いい忘れていましたが、私も勇者とか、天使とかより魔王が好きな人種なのです。
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