⑫「レプリカントに花束を」 作:香西佳
作品URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054886036569
「あらすじ」
化け物が出没する浮遊大陸で、彼はカタナ一本で戦っていた。そんなある日、巨大な化け物の中から奇妙な少女が現れる。
「私はこの舟の『管理者』だ」
管理者とは何なのか、少女は化け物と関係があるのか。というか少女は化け物ではないのか。
彼は真実を掴むべく新たな戦いを始める。
「読んだエピソード」
「第1話 紅い瞳」から「第6話 武器」まで。
「構成」
“冒頭の掴み”についての批評を重点的にということですから、先ずはここから始めるとしましょう。
この作品は、管理者である少女と少年(?)が飛行船でのんびり日向ぼっこしているところから幕を開けます。…..と思いきや、 “片割れ”により少女は意識を失ってしまいます。そしてエピソードは続き、次のシーンはコード〇四九(以下:ナナシ)がマガツキとの死闘を繰り広げる場面となっています。
このように、始めは神秘的で物静かなシーンを読者に提示し、その次に対照的な戦闘を持ってくることによって、読者に「意外性」を与えることができます。実際、私自身も驚くと同時に続きが見たいなと思いました。
しかし、です。魔法を使うには魔力(代償)が必要なように、特殊な表現や構成を使うには、それ相応の危険が伴います。この場合は冒頭が「静」そして第一話目の後半が「騒」となっていて、第二話ではまた「静」となっています。
どんな小説も、こうして交互にシーンが続いていきますが、同作品の場合はそれぞれのシーン間があまり空いていないので、「めまぐるしい」展開と捉えられてしまうかもしれません。
それゆえ、最初のシーンを後のエピソードへと移動してしまうのも策です。冒頭で読者を引き留めるというのなら、第一話の後半部からのスタートでも十分その役割を果たせている、とも思いますので。
「キャラクター」
ここでは主要キャラクターである二葉とナナシについてコメントしていきます。
まず、二葉についてですが、彼女は読者にかなりつよい印象を与えるでしょう。「管理者」という謎に包まれた役割(?)とか、マガツキを一瞬にして崩してしまうこととか、少女であることとかエトセトラ……。もうインパクトの塊です。
セリフを追っても印象的なものが多く、例えば
・「私の『舟』で勝手はさせない」(第1話 紅い瞳 より)
・「おまえにはこれ以上知る権限はないのだ」(第2話 正体 より)
・「おまえまで消すことは出来ないか」(第3話 皇王の側近 より)
もはや魔王のような風格をお持ちのようで……。「傲慢・無敵・冷静」といった言葉がお似合いです。
が、対するナナシは、「不死であること」を除けばこれといった特徴が見当たりません。というか、そもそも名前がない時点で没個性的ですよね。
いや、もしかしたら、香西佳様はナナシをあえて一般化することによって、読者の感情移入を誘導しているのでしょうか?
もしかしたら、これ以降の展開で、彼が特別な人間であったというどんでん返しがあるのでしょうか!? 憶測はともかく、無ければ無いで前者の効果が働いていますし、後者の意図があるならば、相当凝ったストーリーと言えます。
ということで、結局二人ともいい働きをしています。
ですが、ひとつ指摘したいのは、二万字の文量の割には大して登場人物が出ていない、ということでしょうか。悪い皇女や、カインなども、姿を現してはしていますが、そこまでの活躍・絡みが見られないもの事実です。なかば「二人だけの物語」になってしまっているので、ここは注意が必要です。
「文章」
文章にくせはなく、読みやすいです。一人称の混ざった三人称視点ということで、書き手の自己解決的な説明文も出る可能性が低くなっています。
しかし、全ての文章が読みやすいということは、あまり文の緩急がないということをも意味しています。
例えば次の文。
・傷口が熱を持って疼いているのを感じる。痛みより熱の方が酷いらしく、頭が朦朧として意識が定まらない。熱い、熱いと譫言を繰り返していると、不意に唇に柔らかい感触がした。なんだろうと思った直後、今度は冷たい水が流れ込んできた。
意識が朦朧としているのなら、「あえて的確な言葉をつかわない・感覚のみで状況を表す」などの工夫が考えられます。
つまりこの場合なら、「譫言」を「意味の無い言葉」、「流れ込んできた」を「喉を潤した」などに変換すると言った具合です。ですが、当然この一文だけ変えても仕方がありません。気づいて(感じて)もらえなければそこで終わりだからです。また、やりすぎるともはや一人称となってしまうので、注意が必要です。
オススメなのは、このように登場人物が強い感情・感覚を抱いているなどして、読者の心を揺さぶれそうな部分です。もし余力がありようでしたら、こうした文の区別化にも挑戦してみてください!
「設定」
設定に関しては、もう間然する所がない、とでも言いましょうか。とにかく、よく作られていると思います。
以下、抜粋。
・「ノアの方舟というやつだ。地上で生まれた生命の種子を保管している。……なんだ、まさかノアの方舟を知らぬとは言わんだろうな」
・今から約三百年前、飛行船『クラレイン』が遭難し、この浮遊大陸に漂着した。浮遊大陸には人が居た痕跡があったが、生体反応はついぞ見つからなかった。
・飛行船の人々は浮遊大陸に移住するか話し合った。色々と謎が多い大陸だが、人が住むには問題ない環境で資源も豊富だ。それに対し、地上の状態はかなり悪くなっていた。
・「レプリカントは人間のクローンのようなもので、私が眠る前までは、人間を護るようにプログラムされていた。しかし、先程確認したが、そのプログラムそのものが何者かによって書き換えられていた。レプリカントは今、暴走状態にある」(第4話 権限 より)
レプリカントについてはもっと言及しても良いと思ったのですが(どうして怪物のような状態になっているのか、など。遺伝子操作?)、このように読者に疑問を抱かせることが小説には必要です。そう考えると情報を後出ししていくことでより良い反応を得られますものね。
以上のことから、設定に関しては欠点らしい欠点が無いため、今後どのように展開していくのかがとても楽しみであります。
「個人的感想」
なかなか時間がかかってしまった上に、そこまで大層な内容でもないという……、かなりバッドな結果ですが、それでも他人の役に立っているのなら、セーフですか?(アウトかも!?)。
まあ嫌な話題は置いといて――
またまた随分とスケールの大きな小説を読むことになってしましましたよ。だって、人類がマガツキという正体不明のモンスターに苦しめられているってことですよね? それって人類VSエイリアンみたいなものじゃないですか。しかも舞台である浮遊大陸も、かなりの大きさらしいですし。そんなカオス世界を管理する少女、二葉とは一体……。やはり魔王なのでしょうか!?(笑)。
読んでいると、二人はこんなやり取りをしていました。
・「権限を使っておまえを移動させた」
「そんな権限があるのかよ」
私も思いました。そんな権限あるのかよ。
いやー、ゲームオタクとしてはですね、こういった文をみるとポピュラスやシムシティといったシミュレーションゲームとかストラテジーゲームを想起してしまいます。特に前者は神となって人間たちを操っていくという内容なので、同作品と似通っている部分もあるかもしれません。もしかしたら、二葉は人間よりも高次の存在だったりしますかね!?
そうそう、批評内ではナナシが没個性だと言っていましたが、よく見れば、何だか暗い過去を秘めていそうですね。
・(ナナシの身体は普通じゃない。あきらかに遺伝子レベルで手を加えられている。だがその権限は人間には与えられていないはずだ)
・遺伝子に干渉していいのは管理者だけのはずだった。人間が干渉しようとしても、必ず失敗に終わるよう仕組まれている。
などからそう思いました。あと、たびたび小出しにされている「コード〇一七」も気になります。伏線がこんなにあると、私だったらとても処理しきれないと思うので、作者様にはかなり力があるようです!
……あ、すみません。あとひとつだけ指摘したい点があるのでした。このような場所で批評をするのも気が引けますが、上の文章に付け足すのもアレなので。
申し上げたいことは、ズバリ「戦闘の少なさ」です。
あ、もっと言えば足りないのは、本格的といいますか、重厚な戦闘シーンです。キャッチコピーやあらすじに「戦闘」といいワードが入っているのをみて読み始めたユーザーの中には、なかなかそういった描写がなくてじれったがっている方もいるかも知れません。
でも、そうはいっても二葉の強さが反則級ですからね……、彼女に匹敵する敵が出てきたら、それこそ舟が沈んでしまうでしょう。
工夫が必要です。例えば、二葉とナナシを別行動にさせて、ナナシ単独で大人数の敵を相手するとか。
今のところ、目立った戦闘が無いので、指摘します。
はい。今回は内容が幾分かスマートでしたので、あとがきもスマートに終わらせましょう。
私の長文をお読みくださり、ありがとうございました。気になる点はいくつかありますので、物語が進んで来たら、またそちらへ訪れようと思います。その時はよろしくお願いしますね。
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