⑨「白い月・黒い月」 作:サキ

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054884656168


 「あらすじ」

私は楽園のような美しい世界で目覚め、1人の少女と出会う。

彼女はなぜここにいるのか?

それは彼女自身も知らなかった。



 「読んだエピソード」

「白い月 Scene 1」~「白い月 Scene 3」まで。



 「総評」

 ⑴表現

 地の文にはたいした欠点がありません。文章にも稚拙さは感じられず、また一人称視点の形式を取ってはいるものの、人工知能のそれなので、説明的で分かりやすいものとなっています。それどころか「白い月 Scene 1」にあるような、世界の描写を連続した地の文で表現した後にゲンマとスピカの会話が続くといった構成は、読み手を飽きさせない効果をもたらしています。文章面での問題はほぼありません。

  ほぼ、と書いたのは、一つだけ直した方が良い部分を見つけたからです。

 

・「ならいいわ。でも18歳の時に突然それは終わって、目が覚めたらここに居たの。わたし1人で。……(略」(白い月 Scene 2 より)

・「手はちゃんと2本装備している」(同上)

・そこは私の場所になり、クッションが1つあてがわれていた。(白い月 Scene 3 より)


ここに例示したのはいずれも算用数字を含んだ文章です。基本的に漢数字で表記すべきなのは縦書き小説の場合ですが、私はSFでも横書きでも何でも、漢数字の必要性を感じます。もちろん、固有名詞である「ゲンマV30」などはさすがに算用数字が適していますが、上に上げたような「○○歳」とか「○○本」などは漢数字の方が適していると思います。理由は……、漢数字が熟語・漢字との調和を促し、読みやすさやを生み出すといった点でしょうか。

 ただ、この表記上のゆらぎについては各人のニュアンスによるところも多く、規則らしい規則がないのも現状です。参考意見としてお受け取り下さい。



 ⑵設定

 作中に見える設定として――

 

・ゲンマは観測装置の人工知能であり、「白い月が西の空へと沈む」美しい地を観測している。

・スピカは四年前、いきなり元の生活から切り離されたが、精一杯生きている

・スピカは今、ファンタジー(?)の物語を書いている。


 などが挙げられます。しかし如何せん、続きがない以上、私はこれ以上のことを知ることは出来ませんでした。このことについては後述しますので、残りの紙面は「人工知能」について言及することに使おうと思います。


・「私は手順どおり動いているだけだ。幾許かの疑念は感じるが取りやめるだけの理由は無い」(白い月 Scene 1)

・「私は賢明な判断だと思う」(白い月 Scene 2 より)

・「私は今朝目覚めたばかりだ。データが不足しているので推測できない」

「そう。なんでもデータ・データ。結局は役に立たないのね。……(略」(同上)


 人工知能(以下:AIと呼ぶ)は、大きく分けて特化型と汎用型に分けられます。この作品を見るに、ゲンマは汎用型といえます。最初は“データ収集用の特化型”と分類しても差し支えないかなと思っていましたが、よくよく考えるとスピカを会話をしているので汎用型と見なしました。

また二つ目の言葉から、ゲンマは考える能力を持っていることがわかります。過程は人間とまるきり違うものだとしても、考えることが出来るということは、ゲンマは「強いAI」でもあるのでしょう。

 と、それとは別の分類基準に、「自立」「自律」「他律」の三つがあります。一つ目は自ら考えて行動をするAI、二つ目は自ら考える“規範”を設定できる能力のあるAI、最後は二つとは対照的に、考える規範はもちろん、対象までもすべて人間が設定してはじめて行動できるAIです(そう解釈しています)。この中から選ぶとすると、最も適切なのは「自立」型でしょう。上に挙げた文の内、二つ目からそう考えました。データによる予測のみを中心として行動するということは、おそらく開発者が設定した“観測装置としての性”なのではないでしょうか。汎用型でありながらもデータ収集装置としての役割を同時に果たしてくれる性質を形作るには、自立型AIでないと作り得なかったのかなと勝手に想像しています。

 すべて私の憶測ではありますが、総合するとゲンマは「強い汎用型自立AI」となります。そのことを踏まえて再読すると、矛盾する点は見当たりませんでした。つまり、ゲンマに関する設定は一貫したものであったということです。前もって決めておかなければこのようなことはまず起こりませんから、ここからもサキ様のぬかりない構築が垣間見えます。

 


 ⑶未完成である点

 小説には作者の“伝えたいこと”や、“書きたいこと”が一つ以上はあるはずで、それが読者に伝わらないのでは、ただの自己満足に終わってしまかねません。

そして同作品は、「黒い月」があってはじめて完成し、伝えたいこと、書きたいことの全貌が見えてくるものでしょう。また短編小説ですから、未完成では評価されることは難しいと考えます。私が読んでいて「続きはどうなるんだろう?」と思った点を列挙していきます。


・オブザーバー880(ゲンマ)は何故この地を観測するのか?

・ゲンマは誰の手によって作られたのか?

・スピカは何故元の生活から切り離され、この地で生活しているのか?

・作中の「オレンジ色の月」と「白い月」は同じものを指しているのか?


 これらはいずれも続きである「黒い月」に書かれているのだろうと考えます。全てではなくとも、二つ三つは解明されるかと。そうでなくては先ほどお伝えしたように、行きつく先は自己満足です。

 では、私がここで言わんとしていることは何か? それは明白です。「とりあえず完結させてください」です。

小説を書く時に大切となるものは多々ありますが、完結させるために必要なものはただ一つ、すなわち“物語を完成させるという強い意志”です。完結しないと、全てを伝えきることは到底不可能ですから。

サキ様は私の近況ノートの方へ「あまりにも反応が無いので萎えてしまっ」た、と書かれていますが、これはもったいない。是非とも続きを書いてほしいです。二度目になりますが、完結することによって読者を獲得できるかもしれません。というのも、「連載中」というだけで読むきを無くすという方もいらっしゃいますから……。

 私事になりますが、拙作「魔法へ こい願わくは――」は私が最も力を入れているハイ・ファンタジーです。今でこそ幾らかの☆がついており、フォロワーがいますが、初めての応援は確か二万字を書き終えたあたりからでした。また、フォロワーに関してですが、こちらはそれよりもかなり後になってようやくフォローしていただきました。

 私はすべての話題を自分にすり替える方をよしとしない人間ですから、ここら辺でやめておきますが……、とにかく、このまま連載中でいるよりは、「黒い月」の執筆をしたり、それが出来なくてもせめて補足を加えたうえで完結済みにしたりと、行動を起こすが吉です。私は上に続きが気になった点を挙げましたが、それはつまり読者に続きを読みたいと思わせる技術であります。この技術はとても重要です。そして習得がかなり難しいものですから、萎えずに自信を持ってほしいです。もともとこの作品の荒涼とした雰囲気が好きなので、気になった点が「黒い月」や補足などで明らかになったらば、個人的にはかなり高評価です。

 もし少しでも書く気力がおありだったら、是非とも続編を執筆していただきたいです! ネット小説界隈での境遇は皆同じであると思っていただければ、幾らか気が楽になるかも知れません。では、応援しております。



 「個人的感想」

 批評対象のSFとしては二作品目となります。登場人物が二人だけ(しかも一人は人間ではない)というほぼ極限状態の小説で、騒がしいのが嫌いなおかつ人名を覚えられない私は楽しく読むことが出来ました。率直な感想は「一般受けはしにくいかもしれないが、個人的には楽しめた」というものです。

が、やはり世界観に浸かるには文字数が少ないのです。せっかく楽しめるクオリティを有しているのに、これではもったいなさすぎます! そんな思いがあったので、ながながと続編書きのすすめを書くに至りました。


 あと、最近は人工知能にはまっているので、少々熱くなってしまいましたね……。本当は学習方法や感情の植え付け、また人間への反乱など、語りたいことがたくさんありましたが、この場をお借りしてそんなことをするのは失礼極まりないので情報は控えめにしました。

 

 最後に――批評全体の内容をまとめれば、「素直に面白かった」というものになります。この小説最大の欠点は“未完であること”でしょうから、今後に期待します! それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございます。私からは以上です。

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