④「瑠璃の王石」 作:鈴草 結花


 作品URLはこちら:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885316704


 ※個人的な見解がありますので、参考程度に収めていただければ幸いです。また、完結していないのを承知の上で、本来ならば伏線かもしれない部分についても指摘をさせていただきますが、見当違いでしたら気にする必要はございません。



「瑠璃の王石」(作:鈴草 結花さん以下、作者さん) 全エピソード読了



 ストーリーライン(現時点で公開されている段階で)は王道的で、イメージしやすく負担の無いもの。けれど王道の力だけに頼らずに、しっかりとキャラクターや、文章それぞれの起承転結が成立していて、作者さん自身が書きたいことを明確にしているような印象がありました。個人的には大好きな部類に入る王道ですね。文章も重すぎず軽すぎずといった、読んでいて負担の掛からないものに仕上がっているように思えます。キャラクターもそれぞれが綺麗(あるいは軸がしっかりしている、というべきか)で、小気味よい。文章を作るのが上手い、と思いました。


 ただ、作者さん自身が違和を抱いている通り、少し無理のある部分があります。特に「主人公が他国(敵国)へ移動する理由」が、大きな問題だと思います。つまり、序章の段階で損をしてしまっているということですね。


 以下、項目に分けて批評させていただきます。



(1)設定と物語の流れについて


 ①主人公らが他国へ移動する流れ


 序章において、以下の文章が明記されています。


【そこは、周辺の国々の中で最も大きな領土を誇る大帝国である】

【……そう、ナイルでは、戦争が始まろうとしていた――――】


 つまり、序章の段階では王都と突破された街を除いて国内には《広大な安全な地域がある》という事ですね。たとえ、王都を不意打ちで攻められたとしても、国内に安全な場所が残されている限り、帝国の王妃王女をいきなり他国へ逃がす、という手段を最初から講じることは考え難いです。それはあくまで、ほぼ確実に国が負けるだろうから、という段階に行って初めて深慮されることだと思います。

 ましてやアッシリアは敵国である為、まだ戦争が始まって勝つか負けるか分からない現状で、主人公らが見つかったら間違いなく人質の交渉やあるいは単純に殺されるかもしれないリスクを背負う事をわざわざするとは思えません。

 もしもこれが、長い戦争状態が続き、さらに長期的にはナイルが負けそうだから今のうちに、というのならば成立する事態ではあります。


 ②いきなり王都を攻められる、という事態について


 もしかしたら伏線なのかもしれませんが、7万という軍勢がいきなり王都圏に現れる、というのは考え難いことだと思います。ましてや民を避難させているのですから7万の軍勢(つまり人)が王都圏内に紛れることは難しいかと。


 ③軍の設定について


 ②にも重なりますが、軍の仕組みについてですね。つまり、魔法に近い力があるかないか、ということです。もしも超常的な力があるというならば、7万の軍勢がいきなり現れることは納得できますが、それらしい描写が、少なくとも序章以降の数話に見受けられない為、②の違和を強くしてしまっています。

 また、第6話に、ナイルは同盟国の戦争に援軍として出兵させている、という描写がなされていますが、これにも違和感が。

 たとえ同盟国であったとしても、戦争状態ではない国が王都の軍事力を下げてまで援軍を送ることはあまりありません。国の基本方針は、第一は自国、です。もしもいきなり自国が戦争になってしまったら勝てないかも、という状態になってしまうほどの出兵を行うのは考え難い。ましてや戦闘民族の国が隣にあるのに、です。ナイルが同盟国と一緒に戦争している、というのならば理解は出来ますが、戦争状態ではない事を半ば明記してしまっている為に、僅かな矛盾が起きてしまっています。



(2)序章と第1話などの冒頭が興味を引けているかどうか


 興味を引けているかどうか、という点に関しては、序章はやや弱く、第1話は成功していると思います。

 序章の終盤でタイトルにもなっている瑠璃の王石が登場しますが、その部分をもっと強調したほうが良いかもしれません。お守りがわりと国王は言っていますが、ここはむしろ、ミスク軍が攻め込んできた理由かもしれない、といった重大な意味を含ませた方がいいかもしれません。物語のアイテムをタイトルにしている以上、そのアイテムが必ず何かしらの役割や象徴となるのは読者は理解してしまうため、強調したほうが、他国へ行った後の展開に興味を惹かれるかもしれません。

 逆に第1話はハーシェルとウィルの関係が微笑ましく、片方は一国の王女だと言うのが分かるので、この二人の仲の良いことがどのように展開されるのか、というドキドキ感は獲得できるかと思います。



 総評



 作品として大きな矛盾は【主人公らが他国へ避難する】という一点のみだと思います。そして、この一点が以外にも重い矛盾かもしれません。ナイルが大帝国と謳われる国家である以上、一定の威厳や風格というのが求められてしまいます。そのため、国や国王が、明らかに現実的ではない判断をするというのは、読者に【ストーリーの為に物事が起きてしまうご都合主義だ】という間違った誤解を与えかねない要因になってしまうからです(私個人としては小説に限らずあらゆる作品はご都合主義以外ありえないと思っているのですが)。第1話以降のストーリーが不自然無く進んでいく為に、序章でのこの矛盾は大損になりかねません(それ以外は大きな矛盾は無いかと思います)。


 また、説明不足というのがややあるかもしれません。前述した「魔法に近い存在があるのかどうか」といった説明以外にもですね。

 序章では、ミスク軍についての言及が必要かもしれません。どうして戦争を起こしに来たのか、ミスク軍はどれほど強くナイルにとってどれほど脅威なのか、といった描写があれば、序章での緊迫感などが出てくるかもしれません。

 また、ナイルと他の国の関係なども必要かもしれません。第6話で半ば唐突にナイルが同盟国へと出兵させていると出てきますが、少し強引な部分があり、どうしても地の文やラルサの口調が説明的な硬いテンポの悪いものになってしまっています。むしろ周りの国で戦争が起きている、というのをアッシリアに住むハーシェルやウィルの視点で匂わせた方が流れとしては自然ですし、他国での戦火が後々の二人に大きな問題として出てくる為の伏線にもなるかもしれません。

 さらにもう1つとして、第6話のセミアの描写ですね。国が勝ったかどうか、というのを気にすることは間違いないのですが、同時に、国王が無事なのかどうかについても言及したほうがいいかもしれません。


 作者さんはおそらくですが【描写】することが非常に上手い方なのだとお見受けします。しかし、世界観などの【説明】がやや苦手なのかもしれません。【説明】部分が無いからこその読みやすさ、丁寧さではありますが、一部分でいきなり【説明】部分を導入してしまうとその部分の文章が硬くなったりテンポが悪くなったり、あるいは作者さんが書くのが大変といったデメリットもいずれは出てきてしまうかもしれません。僅かな情報の【説明】を文章に何気なく盛り込んでいけば、こちらの作品はより良くなっていくかもしれません。


 ※あと、これはかなり個人的な指摘ですが、第6話のセミアとラルサの会話についてですが。セミアが国王の状態についてラルサに尋ねる部分があるのは勿体無いように思えました。


 論評URLはこちら:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885316704/episodes/1177354054885318522

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