②「魔法へ こい願わくは──」 作:草月玲


 ※あくまで私個人の感じた批評でございます。参考程度に捉えていただければ、幸いです。


「魔法へ こい願わくは──」 (作:草月玲以下、作者さん) 全エピソード読了



 ジャンルはハイファンタジー。地の文、会話、言葉選びは、ハイファンタジーの脈絡の上にしっかり立っているのだと思います。特に使われている言葉は本当に選ばれていると感じました。それ故に物語の進行は丁寧で、不自然なタイミングで導入されるような場面や、過剰、あるいは不足している表現も見当たらず、進行という点では一切の不備は見受けられないように思います。


 ただ、物語の展開という面ではややマイナスに働いているかとも感じてしまいました。



(1)物語の展開について


 ①狂言回し的な立ち位置のキャラが必要かもしれない


 物語の展開は決して遅くはないと私は感じています(二人の掛け合いも楽しいですし)。が、ただ、遅い、と【誤解】されてしまうことはあるかもしれません。というのも、主人公ら二人の行動がどうしても受動的だからです。


 主人公であるヴァネッサとロキアスは、王の令によって唐突に旅に出る、という流れでストーリーが始まります。唐突、と言っても、旅に出る(あるいは出される)理由は明確になっていますが、主人公二人にとっての旅の細かい指針(それか、情報)があまりにも足りていない様子です。言うなれば、現状では主人公ら二人は物事の外側にいる、という状態が続いてしまっているのです。これでは主人公ら二人の行動を追う読者も外側に置かれてしまい、展開が遅い、と誤解されるかもしれません。


 丁寧なストーリーの運びであり、過不足無く矛盾の無いリアルの延長線上としての描写であるために、だからこそ、王の令という名目のみで動く主人公を強引に動かせないわけですね。


 どうしても主人公らが能動的な行動への理由付けが困難であるため、身の回りにストーリーを強引に回せる登場人物がいれば、主人公らが能動的に動く理由付けにもなると思います。主人公らが能動的に動けば、それだけで、物事の中心へと向かう感じが出て展開が遅いとは誤解されないかもしれません。


 ②物語の冒頭


 主人公ら二人が物事の核心へと進んでいく動機は王の令という名目ではありますが、読者が物語の核心を追う動機が希薄というのも、物語の展開が遅いと誤解されてしまう要因になっているかもしません。


 というのも、物事の核心の情報が小出し小出しとなってしまっているからですね。


 意外と読者はせっかちだったりします(特にweb小説、のみならず最近ではノベルスでもですね)。核心の大部分とまでは言いませんが、小出しされている情報の軸になるような描写を冒頭にいきなり描く、というのも手垢が付いていますが、よく使用される手法ですね。それを取り入れれば読者は読み進めていく内に「ああ、なるほど。冒頭の部分はここに繋がるのか」と思ったり、同時に世界観のある程度の説明も行えたりします。


 かなり強引ではありますが、たとえば【2.2話 二人の巫女】の文章全てを冒頭に置き換えるだけでも、物語の印象はかなり変わるかもしれません。

 【巫女】【転生】【犯人は凡庸な魔法使いでは到底使うことのできない属性を持っている】といった、世界観、ストーリーのイメージを抱けるワードがある上に、その後の唐突な王令の場面も映えると思います。これだけでも、読者自身は物事を追いかける動機付けがあり、丁寧なストーリーラインや文章も【遅い】と誤解しないくなるかと。



(2)世界観について


 世界観はしっかりと練られたものなのだと感じます。けれどやはり、展開が遅いと誤解されてしまい、世界観を十分に理解するまでに物語から離れてしまう人がいるかもしれません。


 当然のことながら、ファンタジーの世界観の全てを多くの文章で一気に記すのは良くないことではあります。そのため、ストーリーに沿って必要な分だけ出していくのが普通ですが、そのストーリーの流れが遅いと誤解されてしまえば、世界観への理解はされません。


 また、ファンタジーである以上、読者は世界観という情報の軸足が必要とします。それがタイトルであったり、あらすじであったり、独特な造語であったりします。その軸足という点では、作者さんの作品は弱いかと思いました。


 言うなれば、この作品の世界観は? あるいは象徴は? と問われて、読者が思い浮かべることの出来る描写が、巫女や魔法具、というワードとしてではなく、文章として捉えることが出来ないという感じですね。だからこそ、前述した冒頭で一気に物事の核心の一部を盛り込む手法が必要かもしれません。


 魅力はあるのですが、人によっては伝わらないかもしれません。



 総評


 私個人としてはストーリーの展開やテンポ、世界観は大好物(ファンタジー好きなので。高田大介氏が書いた【図書館の魔女】とか)。しかし、丁寧で過不足無い描写だからこそ、読む人を選んでしまうかもしれません。どうしても能動的に動かすことの出来ない主人公ら二人の動きが重いように感じます。王令による義務が、予想外な動きから突発的な核心部分にふれる、というような行動が取れていないせいで、読者が淡々と物語を眺める形になってしまっているわけですね。

 もしもこの作品がwebではなく普通に冊子として読めるというのなら、読む人は多いかと思います(少なくとも私は読みます)。けれどweb小説では、どれほど短く、且つどれほど読者にこの物語を読んでもらおう、という動機付けを上手く実現できるか、がキーポイントになります。この作品は、特に後者のポイントでは不利な部分がありました。


① 主人公ら二人が受動的な行動となってしまっている。

② 物事の外側にいるため、物語の流れや物事は分かるのだけれど、主人公らと共に物語を読み進める気力をもしかしたら読者は保つことが出来ないかもしれない。というのも、情報の軸足が無いから。

③ 世界観における軸足も強いとは言い難い。過不足ない丁寧な文章だからこそ、世界観の情報も不自然に盛り込むことが出来ない。


 上記の三点がこの作品の【展開・世界観】における弱点だと思います。


 しかしながら、腰を据えて読めば、ファンタジー感はあり、主人公二人やその関係性の魅力はあります。言葉選びも巧みで、文章力にも問題なし。世界観設定も練られている。問題があるのはweb小説に適応した構成、組み立てなのだと私は思いました。



[以下、応募者から論評者への返信]



 まず、私の作品を批評対象に選んでいただき、誠にありがとうございます! 実は少し前、友人に読ませたら「読者を楽しませようという意思がまるで見えない。独りよがりだ」と、かなり辛口なコメントをいただきまして、どんな酷評が来るのかと……。

 実際、確かに”読む人”のことを考えているか、という点では、彼の意見は正しいですし、NAKA/road 様のご指摘くださったwebユーザーの性質についての話も当てはまります(でも彼の意見は具体性に欠けていましたから、本当にこの批評はありがたいです!)。

 

 さて、ご指摘について、いちいち感謝したり、納得して思ったことをここに書くとこれまた長文になってしまいますので、その中でも私がとっっっっっても参考になったことについてお話させてください。

 それすなわち「物語の冒頭」についてです。後の方のエピソードになるにつれ、PVがなかなか増えてくれない、この欠点とその原因が今、見事露になりました! 厚謝申し上げます!

 最初にいきなり「巫女の場面」をぶち込むという例は、私には斬新すぎて色々な感情が渦巻いております。是非、参考(というか見本)にいたします。

 主人公たちが受動的という問題点のご指摘も、とてもありがたいものでした。というのも、私自身ですら気付いていなかったのですから……。

 ここまで来たら、後一つのポイントについてもコメントさせてください。世界観についてはもっともっと頑張ります。きっと、地の文でも何でも使って、軸をしっかりとしたものにしていきます。


 こちらに書かれている作品の”欠点”は、私にとってどれも途轍もなく貴重なものです。将来を形成していく指標と思っています。当事者になってようやく確認できました。「やっぱり批評は大切だな」と。

 そして、こんなにも多くの欠点を洗い出していただき、指摘されたにも関わらず、私には何一つ嫌な感情が立ちませんでした。これはひとえにNAKA/road 様の”考え抜かれた”評論のおかげであります。ですから最後に、重ねて感謝させてください。ありがとうございました。


評論URL:https://kakuyomu.jp/users/mitimitinakamiti/news/1177354054885684452

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