第6話ドワーフ族の思惑
「「「「ドワーフだって!?」」」」
「やっぱり……」
4人の揃った驚愕に、僕だけが違った感情を混ぜ込んでしまっていた
「へぇ、君はさ…ここにドワーフがいるって、もしかして感づいていたんかい?」
リースと名乗った少女が、大きな目をさらに大きくして僕を見つめる
「どういうことだべよ、カドー。オレにも分かるように説明してくれや」
エルバをはじめ、皆もまた、驚きの表情で僕の言葉を待つようにしていた。
「えっと、別に感づいていたわけでも、知っていたわけでもないんだよね。ただなんとなく、そういう可能性もあるんじゃないかな……って思っただけで」
「へぇ、どうしてさ? アタイってばさ、ドワーフって分かっちまうような痕跡を残しちまってたかなー」
リースは、<<やっちまった>>といった表情で天を仰いで、自分の過去の行動をあれやこれや、口をモゴモゴさせながら確認しているようだった
「そうだね、痕跡は確かにあったよ。それは『足跡』なんだ」
「足跡ぉ? アタイの足跡を見たからって、どうしてそれがドワーフに繋がんのさ」
「俺もドワーフの娘に同意だな。足跡を見たとき、俺たちは<<子供の足跡>>だと判断したはずだぜ。どうしてそれがいきなりドワーフに繋がるんだ? 確かにドワーフの体は小さい……と、俺もお伽話で聞いたことがある。しかしドワーフなんてのは、それこそ現実には見たことも無い存在じゃないか! 足跡が小さかったからといって、それがドワーフに繋がる理由にはならないぜ。なぁ、そうだろうよ?」
フィオさんが少し不機嫌そうにしてそう言うと、皆がウンウンと頷いた。
そしてなぜか、リースさんまで同じように頷いている。
なんだか憎めないなぁ、このドワーフっ娘。
まぁ確かに僕は、子供の足跡ということで、皆に話を合わせていた。
いや、というよりも、僕だって<<子供の足跡>>>>である可能性の方が高いと思っていた。ドワーフの足跡という仮定は、あくまでも小さな可能性、として考えていただけなのだ。
では、僕がなぜその足跡がドワーフのものであるかもしれない、という発想を得たのかという理由だけれど
「聞いてくれるかな? 少し長くなるけれど……」
「聞こうじゃないさ! 人間」
「あのさ、その人間……ってやめてくれるかい? 僕らにもちゃんと名前があるんだよ。僕は、カドーだ」
「そうか、よろしくさ! カドー」
「(呼び捨てかぁ……いったい何歳なんだろう、この娘)よろしくです、リースさん」
「ああ、リースでいいさ。名前に余計なパーツが付くのは嫌いなんだ」
「そう? わかったよ、リース」
「そんで? その長いっていう話を聞こうじゃないさ」
僕が話した内容は、おおよそこんな感じだった。
話はアルミラージと思しき魔物が捕らえられたところまで遡る。
僕は、現実に存在するらしい魔物を見たとき、子供の頃に母に聞かせて貰ったあの物語を思い出していた。
それおそらく、世界中の殆どの人たちが一度は聞いたことがあるほど、広く知られている語であった。
なぜなら、殆どの街、村、集落にこの物語の絵本が存在しているからだ。
さて、それはなぜか?
多分こういうことなのだろうと、僕は自分なりに理解していた。
あれはヴァイハルト皇国の『建国譚』的な側面を持っている話なのだ、と。
絵本は皇国の手によって、世界中に、それも無料で配布されている。
そしてそれは、皇国の威信を保ち、下々の者たちの忠誠心や帰属性を高めるツールとなっているのだ。
だから僕は、あの物語には、皇国にとって都合の良い誇張や虚構が数多く含まれているのだろう考えていた。
それゆえ僕は、物語の全てが史実だとは思っていない。
だが一方で、真実もまた多分に含まれているのだろうと考えていた。
アルミラージという魔物が存在した。
ということは、この物語における<<魔族との戦い>>の部分に真実味が帯びてくることになる。
そしてその部分は、皇国の威厳の根本たる箇所でもあるのだ。
では、人間と他種族との戦いの部分はどうか?
この部分も皇国の素晴らしさを語るに一役買っているかもしれないが、魔族との戦いに比べれば大きく劣っている。
別段、この部分を省いたところで、皇国の威厳が損なわれるものではない。
だとするならば、この部分が虚構である可能性は低いといえる。
わざわざ付け足す意味が無いからね。
つまり、人間以外の種族が存在したことは恐らく真実なのだろうと思う。
それにさ、他の種族の存在は何もこの物語に限らず、数々の伝承の類でも語られていることでもあるからね。
ああ、長いな、僕の話……ゴメン、もうすぐ終わる。
魔族の国が、ウラノス山脈の向こう側にあるということの真偽は分からない。
だけれども、ウラノスより南は、現時点でそのほとんどが人間の生息域になっているのだ。
魔物がこちら側にいるのだとすば、ヴァイハルト皇国が建国されて現在までの千年の間に、なんらかのいざこざがあって然るべきだろう。
それがなかったのだから、魔族の生息域はウラノスの北側(にあるのかもしれない)、と考えるのが自然だ。
だが、どうして魔物は千年もの間、ウラノスを越えて人間の世界に攻めてこなかったのか?
これは<<越えられなかった>>が恐らく正しい。
能力的に越えられなかったか、なんらかの理由があって越えられなかったか、まぁそれはどちらでもいい。
いずれにせよ越えられなかったのだ。
じゃあ、アルミラージはどうやってこちら側に来たのだろう?
僕は色々なパターンを考えてみたけど、いずれもしっくり来なかった。
で、結局最後は<<穴でも掘って来たんだろう>>と、半ば投げやりに考えて思考を終わらせようとしたのだけれど……あながち間違っていないんじゃないか? と、そう思うようになった。
例えばどうだろう?
ドワーフが魔族と手を組んで、その千年に渡って拡張し続けたであろう坑道を魔族に使わせてあげたのだとすれば……辻褄が合わないこともない。
あの物語の通りだとするのであれば、ドワーフも魔族も、人間に恨みを持っているという理由で手を組むことは、決して不自然ではないのだ。
ということで、アルミラージがプルタンの森に現れた理由として<<ドワーフ手引き説>>を、僕は一つの可能性として以前から考えていたのである。
そんな時に<<子供サイズの足跡>><<山肌に穿たれた大穴>>を見つけたものだから、この説はたちまち、僕の中で現実味のある仮説と昇格していたのだ。
長々とごめんなさい。
ご静聴、ありがとうございました。
「というわけで僕は、もしかしたらこの穴の奥にはドワーフがいるんじゃないか……って、少し思っていたんだよ」
「「「「うーん」」」」
調査隊の四人はウンウンと唸っている。
僕の説を信じて良いものかと悩んでいる感じだ。
さて、じゃあリースの反応は……と彼女を見てみると、なんとも歪んだ表情で僕のことを睨んでいた。
「カドーつったか? オメーさ、ちょっとアレだ。アブネー奴だな……」
「えええ!? なんでさ? さすがに妄想が過ぎるってこと?」
「いや、そうじゃねぇさ。そうじゃねえんさ」
「じゃあ、なんだよ?」
「正解だ……」
「え?」
「正解だって言っているんさ……」
「なにが?」
「アタイたちドワーフが、魔族と手を組んでいるってことがだよ」
「え……」
「アブネーよ、オメー。アタイたちにとってアブネー存在だ」
「……」
「アレだ。やっぱ、ここで始末しちまうってのが、得策ってもんさな」
リース・アーズメンは、壁際に歩いていくと、立て掛けたあった巨大な斧を片手で軽々と持ち上げ、なんということもなく肩に担いでみせる。
一体彼女のどこにそんなパワーがあるというのだろう……。
そして僕を正面にすると、その表情に喜色を浮かべた
「さてと。カドーは危険だからさ、ここで死んでもらおうさ!」
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