第21話イリスの紋章
「どうしてカドーがそんなことしなくちゃいけないの!?」
拠点で待ってくれていたゲリラ隊の皆に事情を説明すると、ピノがいち早く噛み付いてきた
「そう言われてもなぁ……」
「ピノちゃんだったかな? カドー君は俺が必ず護る! 安心してほしい」
ゲリラ隊の皆に会いたいと付いてきたバーニーさんが、そう言ってピノを
「んでもよぉ! せっかく援軍が来てくれたってのに、カドーだけまだ戦わなくちゃなんねぇなんてよぉ……そんなの理不尽だべ!」
エルバがバーニーさんに食って掛かる
「カドーはまだ子供なんじゃぞ? あんたら子供に何をさせる気じゃ!」
今までゲリラ戦を共に戦ってきたことを棚に上げて、ドロ爺も憤慨していた
「し、しかしですね! 総大将……モルドリヒ皇太子殿下たって願いを無下にするわけにはいかんのですよ……」
皆に責めらて狼狽しているバーニーさんが、ちょっと可哀想だ。
この人は、本当に僕に良くしてくれていると思うんだよね
「そうなんだ。流石に僕もこればっかりは断れないよ。バーニーさんに存分に護ってもらうからさ、皆は村で待っていてよ。ね、バーニーさん?」
「あ、ああ、勿論だとも、任せてくれ!」
「君は騎士になって何年になる……?」
一言も喋らず下を向いていたハントさんがバーニーさんに突然質問した
質問の意図がよく分からないぞ
「どうだろう? 騎士になったのが18歳で、今26だから……8年になりますかね」
「そうか……」
「あ、もしかして、貴方がハントさんですか?」
「ああ、そうだが?」
「カドー君から聞いてますよ。商人ながら兵法に通じ、凄腕の剣士だとか……できれば貴方にも我らの軍に加入していただきたいものです」
「いや、私は遠慮させて頂く。軍人は嫌いでな」
「そ、そうですか……それは残念です」
無下もないハントさんの言葉に、バーニーさんが少し悲しそうな顔をしていた。
皆が、村に帰るのを見送って、僕はバーニーさんの
みたところ、何人かで1つの幕屋を使っているみたいだから、やはりバーニーさんは偉い人なのかも知れない。
それか、僕が一緒だから、そうしてくれているのかな?
「バーニーさんって、偉い人なんですか?」
「なんでそんなことを聞くんだい?」
「えっと、もし僕のために幕屋を余分に作らせてしまっていたとしたら、申し訳ないって思って……」
「ハハハ。子供のくせに妙な気を使うんだなぁ。まぁ自分で言うのもなんだが、それなりに優遇されているかもな」
「へぇ、やっぱり偉いんですね!」
「んーどうだろうか。階級でいえば平の騎士なんだけどね。総大将……殿下の特務部隊、いってみれば親衛隊みたいな部隊に所属していると、こんな感じの扱いになるんだよ」
「親衛隊なのに、殿下のお側にいなくて平気なんですか?」
「まぁ、親衛隊は俺だけじゃないしね。君の世話役を命じたのも総大将だから、その辺は割り切って気にしないことにしているよ」
「なんか……すいません」
「何がだい? 俺は君と戦場に立てることを楽しみにしているんだぜ?」
「あ、ありがとうございます」
そんな会話をしながらご飯を食べ(調理担当の部隊があるらしく、食事は温かくて美味しかった)就寝する。
簡易的とはいえ、ベッドまであるとは思わなかったな。
やっぱり騎士って凄い!
ゲリラ隊での環境とは大違いだ。
あれはあれで、楽しいものだったんだけどね。
それから数日間、僕はバーニーさんと並んで戦場を駆け回った。
数的に優勢だとはいえ、ドワーフ・魔族連合軍は強く、一進一退の攻防が続いている。
まず武器の性能が違うのだ。
騎士の持つ武具も、それは良質なものばかりなのだけれど、素材が違うのか造り手の腕の差なのか、明らかにドワーフが造ったであろう敵の武具の方が優れていた。
武器を壊され、体は無事でも戦場に出ることが出来ない騎士が日に日に増えている。
ハントさんの砦から武器を持ち出すことも頭をよぎったけれど、主の留守中に勝手にそんなことをするのは、流石に
そんなわけで、モルドリヒと僕がペアで最前線で戦うことになっていることが度々あったりしていた。
流石に殿下の剣はドワーフの武具にも通用していたし、僕の剣はいわずもがな。
そんな僕らを、剣の腕では僕らに負けないアデルさんやバーニーさんが、恨めしそうにしている構図が、最近の戦場ではよくみられていたりする。
「んあー疲れたぜー」
「お疲れ様です」
バーニーさんが幕屋のベッドで大の字になりながら唸っている
「これじゃぁジリ貧ってものだよなぁ」
「ですね……」
近隣の街から、武器の補充を画策しているらしいけれど、その武器が奴らに通用するとは思えない。
このままでは、戦う手がどうしても頼りなっていくことは明白だった
「情けない声が聞こえるな」
声のした方をみると、幕屋の入り口にモルドリヒが立っていた
「あ、いらっしゃい」
実はこの数日で、僕とモルドリヒは凄く仲良くなっていた。
一緒に戦っていることは勿論だけれど、妙に馬が合うのだ。
最初は恐縮して断固拒否していたんだけれど、モルドリヒたっての願いで、衆目が無い時は、敬語、敬称を使うことを禁じられているくらいなのだ。
簡単にいうと、友達って感じかな。
ちなみにバーニーさんや、一部の騎士もそれを知っている
「シャキッとしろ! バーニー」
「できませーん、殿下ぁ」
この人も大概だよな。
よく不敬罪とかで処分されないもんだ
「まったく……。カドーはどうだ? そろそろ疲れが溜まっているのではないか?」
「んー、まだ大丈夫……かな」
「さすが、農家の息子は違うな。体力がある」
「まぁ田舎の子供は皆そんなもんですよ。でも、ほんといいの? その農家の息子ごときにこんな口をきかせてさ」
「よいのだ。俺は友に畏まられるのは好きじゃないようだ。まぁ今まで友などいなかったからな。こんな感情になるものだというのは、初めて知った」
「なんか寂しいよね、それ」
「……考えたこともなかったがな。ただ今となってはお前という存在が、俺の大きな励みとなっている」
「そう言ってもらえると僕も嬉しいけど」
「人の部屋でいちゃつかんでくださいよー! でーんーかー!」
なんだろこの人……、モルドリヒに対する態度がひどすぎるぞ。ハントさんに対しての方がまだマシだったくらいだ。
そっか、バーニーさんの態度からすると、元々モルドリヒは、そういうことを気にしない質なのかもしれないな。
少し気が楽になった
「で、モルドリヒ。何か用だった?」
「む。用がなくては来てはならんのか?」
「そうじゃないけどさ。どうしたのかな? って」
「うむ。助言が貰えないかと思ってな。ゲリラ戦の時は、善戦していたのだろう?」
「うーん。目的が違うからねぇ」
「どういうことだ?」
「ゲリラ戦の目的は、やつらを足止めすることであって、勝つ必要はなかったんだ。だからちょっかい掛けては逃げて、時間を稼いでいたんであって善戦していたわけじゃないよ。でも今回は勝つことが目的だからね。どうしたって戦い方は変わってくるよね」
「たしかに……な」
「今のところ、やつらには森を抜ける手段がないからいいけれど、もし森を突破されたと思うと……恐いよね」
「ああ。だからこそ、ここで叩く必要がある……が、その手段が思いつかん」
「あー……手段がないわけじゃないんだけど……」
「何かあるのか!?」
モルドリヒは前のめりになって聞いてくるし、バーニーさんも飛び起きている。
流石に話さないわけにはいかないか……
「ええと……ですね」
僕は森の砦のことを、ハントさんとアーシェが住んでいたことは省いて説明した
「砦……だと?」
モルドリヒが腕組みをして唸っている
「迷いの森の砦……まさか……」
「知っているの?」
「知っているというほどではないが、プルタンの森に、かつてゼルフ様が築いた砦があるという話は聞いたことがある。というかだ、お前たちも知っている話だぞ」
「へぇ? 俺は知りませんよ。殿下」
バーニーさんが首を傾げていう
「ゼルフ様の物語に出てくるだろう? 勇者アルンと魔女グリマラが密会し、それに怒ったゼルフ様がアルンを殺害した現場が、迷いの森の砦だという。いや、それがカドーのいう砦と同じという確証があるわけではないがな」
「なるほど、それであれば砦が破棄された理由も分からなくないですし、古代の武具がそこにあることも頷けますね」
バーニーさんの言う通り、話の筋は通ってる気がする。
ただ、そこまで古い砦には見えなかったけれど……。
本当は村まで行って、ハントさんに許可を取りたかったのだけれど、村まで往復するとなると6日は掛かる。
その時間を無駄にする余裕はもう、僕らには無かった。
とりあえず、僕とバーニーさんが先行して砦の様子を見に行くことになり、僕らは次の日の早朝に本陣を出発して、昼頃にハントさんの砦に着くことが出来きていた。
「ここか……なんか新しい感じだよな」
「最近まで人が住んでいたみたいですしね。なんか魔法が掛かっていたとも聞いています」
「その住人は?」
「今はマラブの村にいます。事後承諾になりますけれど、武具を持っていかれて怒るような方ではありませんよ。その人の所有物ってわけでもないようですし」
「何者なんだい? その住人というのはさ」
「変わり者とだけ」
「ふーん。言いたくない感じかな?」
「ま、そうですね」
「それじゃぁ詮索はしないよ。こんな森の中の砦に住んでいるってことは、事情があるのだろうしな」
僕らは武器が置かれている倉庫に向かう。
ハントさんに剣を貰った時に見せてもらっていたから、場所は覚えていた。
「これは……凄いな。まるで骨董品屋だ」
バーニーさんが並んでいる武具を見ながら驚嘆の声を上げた
「もしかしたら、ゼルフ様の時代の武具なのかも知れないよな」
「モルドリヒの話を聞くと、そう思えてきますよね」
「だなぁ」
バーニーさんは、剣を一つ手に取ると、刀身を凝視している
「どんな素材を使っているのだろう。錆一つないとは……」
「ドワーフが造った武器……ってことも考えられません?」
「はるか昔は、人間も他の種族も仲良く暮らしていたって話だもんな。あり得ない話じゃない。まぁ、お伽噺だと思っていたけどさ。しかし結構数があるな。奥の方も見てみようぜ」
冒険心をくすぐられたっぽいバーニーさんが、ニカっと笑って僕を誘う。
うん、そういうの嫌いじゃないよ、僕も。
がさごそと、部屋を漁っていると、奥の方に鮮やかな青色の布が目についた
「なんだこれ?」
バーニーさんがその布を拾い上げ、バサバサっとホコリを落とす
「ごほっごほっ!」
想定外のホコリが舞い上がり、ふたりとも
「おいおい……これって……」
バーニーさんの驚きの声に、晴れた視界にその青い布を見ると、そこには剣と杖の紋章が白く描かれていた
「え……? それって確か……」
「ああ、イリスの騎士が使う外套だ」
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