戦士以上、魔法少女未満の少女達

佐久間零式改

魔法少女になりたい少女達

第一章 真っ白なクーデター

1-1

 その日、沖縄南方海域は快晴であった。


 照りつけるような太陽の下、日本自衛軍と米帝の様々な艦艇がそこに集結しつつあった。


 多くの艦艇は海面からの照り返しによって、その鋼鉄の巨躯を輝かせ、備え付けられている大砲がより一層威圧的なものとして映っていた。


 演習開始までまだ時間があり、すべての戦艦は停泊していた。


 一部のNPOからは不要とさえ言われている米帝軍と日本自衛軍による日米合同演習が、この日行われる事になっていたからだ。


 合同と言えども、それぞれの戦艦は実弾を保有しており、有事があった際の対応さえ心得ている。


 合同演習の司令本部は米帝軍空母ミニッツにあり、停泊しているすべての艦艇の位置を把握し統括していて、指示を的確に出せるようになっている。その司令本部には、日米海軍の上層部の軍人たちが合計で六人ほどおり、今回の演習の打ち合わせを行っていた。


「……今日はいい訓練日和ですな」


 日本側の代表でもある黒金達矢防衛庁長官がそう言うと、米帝側の代表のロデオ・クリスティン提督は頷いた。


「訓練などとは生やさしい。実弾演習くらいはしたいものだ」


「ロデオ提督、実弾など撃とうものなら周辺諸国に……」


 黒金がロデオの過激な意見に苦言を呈した。


「分かっている。しかし、敵はその周辺諸国ではないのか?」


「それがアメリカンジョークですか?」


「そのようなものだ」


 ロデオはニヤリと笑って見せた。


「あまり刺激しない方がいいのですよ。それが日本の方針でもありますし」


「生ぬるいものだ」


 ロデオはニヤニヤと笑うばかりで、それが本心であるのかどうか黒金は推し量る事ができなかった。


 司令部に一瞬だけ訪れた沈黙。


 その時であった。


『あ、あっ、日米合同海上演習に参加の皆様』


 艦内のスピーカーからそんな声が聞こえてきた。


「何かね、これは?」


「何ですかね?」


 黒金とロデオは顔を見合わせて、首をかしげた。


『我々は大阪を首都にすべく運動している者だ。本日は海上演習に最適な日でありながら、クーデター日和でもある。あんた方には我々クーデター軍の最初の餌食となってもらいたい』


「なんだというのだ、この命知らずたちは!」


 ロデオは聞こえてはいないのを分かっていて、そう叫んだ。


「クーデター?」


 黒金は顎に手を当てて、考え込んだ。


『碇を上げ、ただちに動き出さないと狙い撃ちしますよ。手始めに一隻沈めさせてもらいますが』


 バカにしてるかのような口調にロデオが怒りを露わにした。


「全艦、戦闘配置につけ! これは訓練ではない! もう一度言う。これは訓練ではない! 実戦だ!」


 ロデオはすぐさま伝令を飛ばす。


「我が自衛軍は……どうすべきか」


「もちろん戦うべきだ。我が艦隊に戦いを挑むなどという事が愚かだと教えてやらねばならないのだ」


「……そうですね。これは演習の一環として報告しておきましょう」


 黒金も自衛軍側の艦隊に戦闘準備の指令を出した。問題にならなければいいと考えたが、もし一隻でも沈められようものならば、そちらの方が問題になると思い直したのだ。


「敵はどこにいる?」


「九時の方向に敵影四機」


「全艦、九時の方向に照準を合わせろ。我がステイツの強さ、思い知らせてくれる」


 ロデオは勝ち誇った笑みを浮かべながら、そう言い切った。


「敵は戦闘機でも、戦艦でもありません! 人型をしたロボットです」


「人型だと?」


「……はて、そのような兵器ありましたっけ?」


 ロデオと黒金はまたしても顔を見合わせた。現時点では、人型の戦闘兵器などどの国も所有してもいないし、開発に成功したという話さえ聞いたことがなかったからだ。


 刹那、司令室を一閃のビームが貫き、司令部にいた黒金やロデオなどは一瞬のうちに蒸発した。



 日米海軍を睨み付ける、海上すれすれで浮遊している四機の人型兵器があった。


 反重力装置を使っているので、浮く事が可能になっている。


 その人型兵器こそ、人型高軌道兵器『ロメルス』であった。


 すべての駆動箇所には自動調整機能が搭載されており、バランスのコントロールなどをそこで行っていて、操縦者が無茶な運転をしたとしても、転倒などしないように自動的に調整される仕組みになっている。


 バランス調整という概念を取り払う事で、操縦者が軍事行動などに集中できるようにとの配慮だ。


 それに加え、転倒した際には即座に起きあがれるようなプログラムまであり、マニュアルで操作するか、セミオートで操作するかさえ選択可能だ。


 新高山重工業の技術のすべてを注ぎ込んだだけの事はあり、設計ミスや落ち度などを見つける方が大変であった。


 操縦の仕方はマニュアル車並に簡単で、ある程度の訓練さえ積めば問題はないレベルだ。


 ロメルスの欠点を強いて言うのであれば、高軌道人型地上兵器と言われながらも、その外観が人っぽくない事くらいだ。


 バランス優先の設計をしているためか、足が異様に大きいだけではなく、鳥の足のように三本の太い指がありながらも、かかとの部分に高速移動可能なキャタピラが取り付けられている。


 反重力装置のオンオフでコントロール出来ない事もない。


「さて、戦闘開始ですね」


 搭乗している三好秀吉みよしひでよしは、ミニッツの司令部をビームライフルで見事に撃ち抜いたのを見届けてから悠然と言った。


「燃えるぜ!」


 岡田三郎おかださぶろうは闘志を燃やしながら、秀吉の指示をスピーカー越しに聞いていた。初めて軍隊を相手に戦う事に喜びを覚えていて、もう気持ちばかりが先走っていたのだ。


「手加減はいりませんよ。これは上空にいる偵察機が撮影してますからね」


 秀吉も三郎も、この作戦の意味を分かっている。


 クーデターとは言っているものの、秀吉達はこの日本を変えようとしている訳ではない。それぞれの目的のためにこのような計画に荷担しているのだ。


「では、行きましょう。向こうも準備が整ったようです」


 ロメルスは三百六十度全方位カメラを搭載しており、ある程度死角はあるものの視界は広い。技術的なもので言えば、数十年先の技術を搭載している。それがなぜであるのか、秀吉と三郎は考えさえしない。この機体はあくまでも『与えられた』物であるからだ。


 すべての艦艇の主砲が自分たちに向いているのが映し出されている。


「絶景ですね」


 秀吉は操縦桿を握り、機体を一気に前進させ、艦隊に向かって突撃した。


 秀吉の動きに倣うように三郎や他の機体も突撃を開始した。


 その行動と同期するように、艦砲の一斉射撃が始まる。


 第一波はイージス艦による百二十七ミリ砲の集中砲火であった。ロメルスの装甲にその砲撃が当たり続けているが、傷一つ付ける事ができないでいた。


「弱っちぃ」


 三郎は嘲笑した。


 しかも、第二波の艦砲射撃が何発も当たっているというのに、ロメルスはもろともせずに突き進んでいく。続いて、イージス艦のVLSによる攻撃もロメルスを落とす事はできなかった。


 ロメルスの装甲には、カーボンのようにしなやかでありながらも、鉄のように頑丈で、チタンのように軽いという三拍子揃った最高の新素材メトロニュウムが使われている。さらに一定の衝撃に対しては、その衝撃により生じる力エネルギーを拡散させるコーティングまでされている。砲弾の直撃程度では傷一つ付けられないのだ。


 何発もの対空ミサイルが発射され、ロメルスに着弾するがその装甲に傷を付ける事さえできなかった。


「ここまでとは……」


 実験でこの機体の耐久性を知っていたが、自分が乗り、実際に砲弾を受けるのは今回が初めてであった。それだけに複雑な思いを秀吉は抱いていた。


「やりますか」


 秀吉は一隻の駆逐艦に狙いを定め、ビームライフルを構える。


「沈みますかね?」


 多少疑いながら引き金を引くと、見事に駆逐艦の横っ腹を撃ち抜いた。装甲が解け、そこから海水が流れ込み、船体をひしゃげながら段々と沈没していく。


「つまらないですね、飛び道具というものは」


 秀吉はビームライフルをしまい、ロメルスで使われているのと同じ素材で出来ているジャッジメントナイフを取り出す。


 次の獲物を探しつつ、他の様子を見て回ると、戦艦を屠るように撃沈していく三郎の姿が見られた。


「敵ではありませんね」


 日米海軍では手応えのなさを実感していた。


「……さて」


 秀吉は遠くの方に見える空母を次の獲物に定めた。急遽、数機の戦闘機を飛ばしているがもう後の祭りだ。


 ナイフを構え、秀吉はその空母目がけて動き出した。


 日米合同海上演習のため集まっていた艦隊が全滅したのは、それから十分後の事であった。


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