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「そう、これこそが人類の英知じゃ! 人類の技術そのものでもあるのじゃ!」


 大阪工場から搬出された機体を見て、新高山博士は喜びの声を隠さずにそう表現し、何度も何度もガッツポーズをした。


 元々、次世代ロメルスとして開発途中であったプロトタイプの機体を急遽改造したものであった。


 イージスシステムを搭載し、そのシステムにより運用可能なロケットパンチを標準装備するよう設計されているのだが、急遽アンチマジカルフィールド発生装置搭載に切り替えたのだ。


 イージスシステムは設計の段階で搭載不可能なのが判明したので装着されてはいない。


 フィールド発生装置をバックパックとして背負うような格好になっているため、三百六十度マルチモニターシステムという訳にはいかず、一部が死角となってしまっている。


「わしの理論が正しければ、これで完璧のはずじゃ。わしは天才じゃからな、ミスなどせんわ。うん、うん、わしは天才じゃ。ミスなどあり得ん」


 自信満々にそう呟き、ニヤリとほくそ笑んだ。


 アンチマジカルシールドは発生装置単体では意味がない。


 反重力装置搭載の子機を八機放出し、空中に機体を囲むように四角形を形成させる。


 その後で装置を起動させると、魔力を無効化できる壁が作れるという仕組みである。


 新高山博士の頭脳内の理論では完璧ではあったが、魔力を扱える者が味方にいないためテストは当然できていない。


「魔法少女どもが神代の生き残りであるというのならば、わしらも神代の技術で対抗する以外あるまい。わしの生み出した技術、わしの作り出した機材にあらずとも、わしの英知は生きておるのじゃ、このプロトタイプには! そうじゃろう、わしの前にいるロメルスよ!」


 新高山博士は恍惚とした瞳で食い入るようにロメルスを見つめ、至福の笑みを浮かべた。


「調子はどうですかな、博士」


 遠くから様子を伺っていた三好秀吉がいい頃合いかと思い博士に近づいてきた。


「エクセレントじゃな。今は幸せを噛みしめておる。これは芸術であろうか? 否、否、人類の宝じゃな」


 博士はロメルスをうっとりと見つめたまま、そう答えた。秀吉にではなく、自分に言い聞かせているようでもあった。


「ほう」


「錬金術が信じられていた頃の力とわしの科学力、どちらが上なのかのう」


「戦ってみない事には分かりませんね」


「うむ、それは分かっておる」


「いつ出撃すればよろしいんです?」


 秀吉はもう決意を固めていた。それだけに戦地に赴く日が気になるのは必然だった。


「二日後……じゃな。最終調整があるのでな」


「分かりました」


「これに乗るのならば、お前が名前を付けるがいい。何が望みじゃ?」


「名前……そうですね。大阪城はどうですかね? アンチマジカルシールドは内堀、外堀に思えますし」


 秀吉の名前……もとい、羽柴秀次の血がそう言わせたのかもしれない。


「それで決まりじゃな。内堀、外堀が埋め立てられたとしたら、歴史は繰り返すものじゃな」


「ええ」


 秀吉は新高山博士の横に立ち、ロメルスを見た。秀吉の目には、その機体は脆そうな一夜城にしか見えなかった。


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