4-2



 屋上のドアを開けると、紗理奈は鳳香の手を引いて、階段の方へと急いだ。


「早く、早く~」


 鳳香は笑顔で紗理奈のされるがままに体を任せて従っていた。


「どうしたんです?」


 さくらが去ってすぐ、紗理奈の手を取って走り出したので、鳳香はいまだにこの状況を理解していない。


「あの二人、いい雰囲気だったじゃないですか」


「言われてみれば……確かに」


「真希姉さんは男の人よりも、ああいったしっかりした女の子の方がいいと思うんですよ」


「真希さん、ああいう性格ですし、そうかもしれませんわね」


 最善だと思うのには理由があった。


 真希は守人四十七士として虚ろの民の中で尊敬されると同時に畏怖の対象でもあった。


 虚ろの民は日本人として生活している者達を除くと、二千人程度しかいない。しかも、その全員が空母で生活していることもあり、男からは畏怖の対象となっていた。


 先ほどの夏美のように、ずかずかと意見を言ったりするような者は皆無だった。それだけに釣り合いが取れていると、紗理奈は感じたのだった。


「真希姉さんにはお似合いですよ、絶対に」


「そうかしら?」


「そうですよ、絶対に」


「でも、女子と女子が付き合うのは問題があるような……」


 紗理奈は立ち止まるなり、鳳香の手をギュッと握りしめた。そして、まっすぐな瞳で鳳香の目を見る。


「問題なんてないですよ! だって、わ、私……そ、その……鳳香お姉様の事、す、好きですから!」


 耳まで真っ赤にさせて、紗理奈はそう叫んだ。


「私……ですか?」


 鳳香は困った顔をし、立ち止まった。


「は、はい! わ、私には……お、お姉様しかいないんですよっ! わ、私じゃ……ダ、ダメですか?」


 紗理奈は切実そうな顔で鳳香の答えを待っていた。その表情には迷い、悲しみ、不安などが入り乱れていて、その時々によって微妙に変化していた。


「……う~ん、分かりません」


 思案顔のまま、鳳香は素直にそう答えた。


「交際にはまだ早いってことですか?」


 紗理奈は引き下がらなかった。


「そうじゃないわ。このクーデターが片づかない事には何も言えないということです」


「だ、だったら、こ、この戦いが終わったら、私と……デ、デートしてくださいっ!」


 精一杯の勇気を振り絞り、紗理奈はそう申し込んだ。断れるかもしれないが、その時はきっぱりと諦めようと思っていた。


「……そうね、この戦いが終わった時でしたら、いいですよ」


「ほ、ホントですかっ! う、嘘じゃないですよねっ? ねっ?」


 紗理奈は信じられないといった様子で、おろおろとし始めた。


「嘘は言いませんわ」


 にっこりと穏和な笑みを紗理奈に向けると、


「う、嬉しいですっ!」


 紗理奈は鳳香に抱きついた。


 鳳香はそんな紗理奈を満更でもなさげな顔で受け止めた。






 鳳香と紗理奈が去ったので、屋上には真希と夏美だけが取り残されていた。


 ビニールシートの上には今日納品された食料がまだ大量に残っている。五人の女の子達で食べ切れる量ではなかった。


「ふぅ」


 満腹感を覚えた真希はもう食べるのを止め、その場にごろんと横になっていた。スカートをはいているのに足を組んでいるので、下着が見えてしまっている。だが、それを気にしている素振りはいっさい見せなかった。


「あなたという人は、なぜ女としての自覚がないんですの」


 そんな様子を見て、夏美は眉間に皺を寄せ、苦言を呈した。チラチラと横目で見ているせいか、頬がほんのりと紅い。


「ん? 何それ? ボクにはないのかもね」


 ぶっきらぼうに言って、目を閉じようとした。


「私の膝を使いなさい。腕枕は身体によくはありませんわ」


 プイッと横を向き、真希を見ずに投げやりに言い、足を組み直して骨折している方を伸ばし、もう一方で膝枕を作る。


「いいの?」


 真希は目を開け、夏美の顔色を伺おうとするが、横を向いていたため見ることはできなかった。


「構いませんわ。ですが、これはこの前の礼ですわ。その事をよく覚えておくといいわね」


「そういうことなら、遠慮なく」


 真希は夏美の膝枕に頭を乗せ、再び目を閉じた。しばらくすると、可愛い寝息を立て始めた。


「全く……」


 夏美はそんな真希の事を幸せそうな顔で見つめていた。






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