エピローグ
6-1
ホテルの屋上は、夕日色に染まっていた。
赤とオレンジのちょうど中間であるかのような色の中、屋上の真ん中で涼城真希と九鬼鳳香は背中を合わせるように力なく座り、ぼうっと夕焼けを見上げていた。
「……ボクたち、やっぱり魔法少女じゃなかったな」
「……ええ。ただの戦士でしたね」
真希は泣きそうになるのをぐっとこらえ、深いため息をついた。
「最初から神器を使っていたら……」
「自由奔放に行動できていたとしたら……」
鳳香も深いため息をついて、瞑目した。
長門が落ちた事で、残っていたクーデター軍は降伏した。
首謀者の多くは降伏する前に自決した事や、新高山博士、三好秀吉、春日井さくら、岡田三郎といったリーダー格の人物が軒並み戦死していた事で、逮捕者はあまり出なかった。
また、大阪工場の技術者の多くは、家族を人質に取られていたから否応なく参加させられていたとの証拠が見つかったため、無罪とは言えないまでも数日間拘束された後に放免されることとなった。
このクーデターは何が目的であったのか、いくら調査しても判明することはなかった。
だが、それは当然と言えた。
首謀者の新高山博士は復讐のためだけにクーデターを起こしたのだから。
その後の政府の発表では、クーデター軍を鎮圧したのは、日本自衛軍の特殊部隊であるとされ、真希、鳳香、紗理奈といった本当の立役者はその存在さえ報道される事はなかった。そういった報道を見て、影で生きる者は常に影でしかないという事を真希達は改めて知ったのだった。
「戦士であるボクたちは魔法少女になれたのかな?」
否定される事を促すような真希の言葉に、
「私たちはたくさんの笑顔を取り戻す事ができたと思いますし、思い描いていたのとは多少違う魔法少女にはなれたのかもしれません。けれども……」
鳳香は真希の言葉を肯定するように言葉を綴るも、その先は否定を真希に求める。
「ボクたちが未熟すぎて、犠牲が多すぎたよね……。魔法少女失格だよね」
「戦う事に、従う事に、夢中になりすぎていたのかもしれませんわね」
真希は鳳香に身体を預けるようにさらにもたれかかった。
「ボクたちは本当の魔法少女にならないといけないよね」
されど、真希は肯定を求める。
「分かった事が一つありますよね」
そして、鳳香は答えを求める。
「うん。ボクたちはまだ魔法少女未満でしかないんだよね」
「そうですね。私たちはまだ戦士でしかなく、魔法少女にはなれてはいなかったんですものね」
今度は、真希の背中を押しやり、鳳香が真希に身体を預ける。
「ボクたち、なれるかな? 魔法少女に」
真希は鳳香を優しく押し返す。
「ええ、魔法少女になりたいという願いがあれば、きっと、いつか……」
鳳香は真希を受け入れ、背中越しに伝わってくるぬくもりに身体をゆだねる。
「ボクたちがくじけなければ、きっと」
「私たちが志を抱き続ければ、きっと」
真希と鳳香は希望がまだ残っている瞳で黄昏どきの空を見上げる。
この空のどこかに希望がきっとあると信じて……。
戦士以上、魔法少女未満の少女達 佐久間零式改 @sakunyazero
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