第三章 対等なる者

3-1





 大阪上空に浮かぶ巨大空中要塞『長門』の格納庫に一機の機体が今搬入された。


「これがロメルス・ジャガータイプか。格好いい! 惚れ惚れするぜ!」


 その機体が格納庫の最奥に運ばれ、固定されるまでをじっと見守っていた岡田三郎が格納庫に響き渡るくらいの声音で叫んだ。手を力いっぱい握りしめ、身体を震わせ、己の気持ちを表した。


 反重力浮遊装置を装備する『長門』を開発した新高山治博士が発見した新素材『メトロニュウム』で外装を固めた高機動人型地上兵器がロメルスである。


 ロメルスは人型作業機を軍事的に利用できるよう再設計した物であり、新高山博士が代表をつとめる新高山重工業が開発設計したものだった。それをさらに発展させたプロトタイプがこれである。正式な名称は『NIT・TYPE JAGGER』だ。


 博士が研究を始めてから三日目にしてアンチマジカルシールドなる特殊塗料を開発し、それで塗装したプロトタイプのロメルスを技術士の大量投入と新高山重工業大阪工場をフル稼働させて、わずか三日にして作り上げたのであった。


「大阪ジャガースのユニフォームカラーと同じだ! これこそ、俺が求めていたもの! これで俺は再びエースになる!」


 三郎は空に向かって拳を振り上げ、そして、力強くガッツポーズをしてみせた。


 このロメルスは、大阪にあるプロ野球チーム『大阪ジャガース』のチームカラー通りに塗装されている。白と黄色と黒を基調にし、虎の毛皮の模様を似せていた。


「気に入ったのですか?」


 遠くの方から三郎の事を見ていた三好秀吉がゆっくりと近づきながら、そう声をかけた。


「もちろんだとも!」


 三郎は秀吉の方を見て、親指をぐっと突き出し、ニヤリと笑ってみせた。


「量産型のロメルスと比べ、機動性を格段に上げてあります。それに駆動部にもプロタイプのパーツを多数使っていますので、この機体はあなたの運動能力を百パーセント引き出す事ができるでしょう」


 秀吉は三郎の横に並び、ロメルス・ジャガータイプを見上げた。


 秀吉のこの機体に対する感想は『悪趣味だ』の一言に尽きるというものであったが、口に出す気はなかった。


「気合いが入るぜ! 俺のためにそこまでしてくれるとはな」


 三郎はまたも歓喜で身体を震わせる。プロ野球時代に立ち返ったような高揚した気分になっていて、血がたぎっているのだ。


「武者震いですか?」


 秀吉はそんな三郎を冷静な目で見つめる。


「ああ。エースとして大阪ジャガースで活躍できなかった以上、これで俺がジャガースのために活躍するんだ!」


「私は健闘を祈る事しかできませんがね……。ですが、熱くなりすぎて、当初の任務を忘れないでください」


 秀吉は涼しげな笑みを三郎になげかけた。


「魔法少女どものデータ収集か。この俺が忘れるワケはない。この命を捨ててでもやってみせる。期待に応える。それがエースというものだ!」


 三郎は胸を張ってそう言い切った。


「……エースですか。その言葉、偽りではない事を示してください」


「証明してみせるさ! これの整備が終わり次第、俺は出る!」


 三郎は死を覚悟で、とある作戦に臨む事となっている。本人が志願したのだ。今更撤回などは出来ないし、当の本人も辞退する気はさらさらない。


「……マウンドで死ねないのは残念だが、俺の第二の人生……パイロットで、しかも、コックピットで死ねるのならば本望だ」


 このクーデターを成功させられるとは、もう考えてもいない。すべては不確定要素の『魔法少女』の出現によるものだ。そうなれば、最後の花火を打ち上げて散るべきかどうかという結論に至った。新高山博士を除いてではあるが……。


 元々は社会のあぶれ者や、世捨て人、行き場を失った者が集い、クーデターという名の己の欲望の実現を目指した。


 ロメルスという現代兵器では太刀打ちできない兵器があってこそのクーデターであったのだが、それが早くも破れてしまい、目標達成が遙かに遠のいた。ならば、魔法少女の攻撃を分析し、対策が施せるかどうかを調査してみて、今度の事を決めようという事になったのだ。


「条約ってのは破るためにあるんだよな」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、自分が乗る機体を再びじっくりと見つめた。




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