概要
おそらく彼に欠けているのは、意志。野望と言い換えてもよい
楚には項羽が、漢には劉邦がいた。当時の中国の人口が半減したという楚漢戦争の時代。匈奴には、この男がいた。匈奴の長、頭曼の長男に生まれた青年は、とある事情から父に見捨てられ、絶望の只中にあった。打ちひしがれ、立ち止まった青年の背中を押したのは、『駆けたい』という純粋な欲望であった。最初は、ささやかだった、その欲望は徐々に膨れ上がっていく……。草原最初の覇王になった男、冒頓単于の物語。※『小説家になろう』様、『マグネット!』様でも掲載しています。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!もう一つの楚漢戦争、もう一人の覇王
始皇帝の死後、中華では項羽と劉邦が覇を競い合っていました。
彼らの戦い、その下に集った綺羅星のごとき英雄たち。そういった時代の動乱を取り上げた作品が数多あるものの、その北で誕生した『第三の覇者』を描いた作品はなかなか見ない。
だからこそ、本作のような作品は存在自体が得難いと言えます。
この人物、冒頓単于は強烈なインパクトとは裏腹にあまりに資料に乏しく、また民族の特異性もあって、謎の多い人物であり、それゆえ題材として扱いにくい。
しかし本作はその空白を緻密な世界観や心理描写、それを織り成す男心をくすぐる活気に満ちたキャラクターたちで補い、引き立てています。
その描写も読みやすいながらも生活…続きを読む - ★★★ Excellent!!!悲しみを越えて青年は草原を駆ける
後に草原の覇者となる人物の物語なのですが、あまりそのあたりのことを知らなくても、面白く読めると思います。
まず、第1話に出て来る主人公(後の覇者)の孤独な姿をご覧下さい。
匈奴の長の長男として生まれながら、母が亡くなり、父は後妻の息子に跡を継がせようと彼を疎み、人質として宿敵のもとに送り、そちらで始末させてしまおうとします。
淡々とした描写でありながら、この悲しみに満ちた描写に引き込まれます。
この目論見は失敗に終わり、命を取り留めた青年は
――駆けたい――
と思います。草原を、もっと駆けたいたい。
その思いが歴史を変えていきます。
故郷に戻り、父との葛藤を経て、自らの寄って立つ…続きを読む