悲しみを越えて青年は草原を駆ける

後に草原の覇者となる人物の物語なのですが、あまりそのあたりのことを知らなくても、面白く読めると思います。

まず、第1話に出て来る主人公(後の覇者)の孤独な姿をご覧下さい。
匈奴の長の長男として生まれながら、母が亡くなり、父は後妻の息子に跡を継がせようと彼を疎み、人質として宿敵のもとに送り、そちらで始末させてしまおうとします。

淡々とした描写でありながら、この悲しみに満ちた描写に引き込まれます。

この目論見は失敗に終わり、命を取り留めた青年は

――駆けたい――

と思います。草原を、もっと駆けたいたい。
その思いが歴史を変えていきます。

故郷に戻り、父との葛藤を経て、自らの寄って立つ場所を作ろうと歩み始める青年。

史料のある人物が少ない中、架空の人物や馬などとの絆も巧みに交え、物語を立体的にしています。
簡潔ですが格調高く、どこか草原の風を思わせる文章を読んでいると、青年とともに駆けたい、と思うのです。