短編ながらに大河!乱世を駆け抜けた男の物語
- ★★★ Excellent!!!
慕容垂という人は、長い中国の歴史の中でも「乱世の人」度が傑出していると個人的に思います。
国名出すとややこしく見えそうなのでざっくり言うと、
一国の皇族に生まれ、御家騒動に巻き込まれて外国に亡命して将軍となり、有名な戦いに参戦し(負けるけど)、故国で新王朝の建国者となる、というドラマ向けな感じの人です。
まあ、そういう波乱に満ちた有名人を描くとなると、30万字くらいは要りそうなところなのですが(?)、この話、短編です。12000字くらいです。
一桁違うんじゃないの?
というところですが、読んでみたらこの長さで合っているのです。
短く語るということは、いろいろなことを語らないということです。
しかし、全く語らないわけではなく、少しだけ語るのです。
だからこそ、気になるのです。
このお話、南北朝時代の超有名人がたくさん出て来るのですが、その中で、私が一番印象に残っているのが、慕容垂の兄、慕容恪です。
物語が始まった時点でこの偉大な兄は既に亡くなっているのですが、だからこそ、その背中をとても大きく感じます。
国を追われた慕容垂はいろいろ変な人に出会い、史実通りの意外な形で(変な表現ですが)、故郷に戻ります。
全体的な話はライトなトーンでサクサク進む分、皮肉な運命に嘆息するラストシーンに深い余韻を感じます。
そしてここでまた亡き兄の存在がふっと。
ふっ、くらいなんですけど、それくらいがとてもいいです。
短編でありながらとても長い時代を慕容垂とともに駆け抜けたような、心地よい疲労感がありました。