十七話
「……瑤華」
「応竜様が、教えてくれたのよ」
『お主の気配は、記憶しておる』
竜玉の中の応竜が言った。
「やっぱり、間抜けだよ」
神瑞様と、六仙人の役に建つために修業してきた。
「結局、人間ですらない」
落ち込んでいる玖楼の隣で
「でも、ここまで私たちと旅をしてきたのは貴方だわ」
瑤華は微笑むと
「上で見ているたけの神瑞様には、無理なことじゃないかしら」
もし、神瑞や六仙が何か言ってきても、と瑤華は後ろを振り向く。
「私と尚香、それに咲耶も」
玖楼の存在を憶えている、と瑤華は続ける。
「あはは、バレてました?」
大樹の陰から、尚香と咲耶が出て来る。
「というか、竜玉と飴を間違える馬鹿もお前くらいだろ」
「お前、一言多いんだよ」
噛みついてくる玖楼に
「何だ? やるのか」
「二人とも、お祭なんですから」
喧嘩はだめです、と尚香。
『元気になったようじゃのう』
「ええ、そうね」
その様子を見て、瑤華は笑う。
「素晴らしい」
軽快な拍手をしながら、銀髪の男が近づいてくる。
「我は長いこと生きているが、ここまで言われたことはないぞ」
嫉妬してしまいそうだ、と男が語る。
「貴方は?」
銀髪に赤い目。
男の方が年上だが、玖楼とよく似ている。
「というか、酒臭いです」
尚香は、顔を背ける。
「一体、何杯飲んだんだ」
テーブルの上には、酒の瓶が並んでいる。
それを見て、咲耶は眉を寄せた。
普通の人間なら、すでに夢の中だ。
「酒はいいな。人間が陽気になるのも分かる」
男たちが酒を酌み交わし、日ごろの鬱憤を語り合う。
出店には、親子連れが多く並んでいるのが見える。
「あんたは」
『神瑞様か?』
玖楼と応竜に問われ
「これは、素体だ」
我の本体は現在動ける状態にない、と男は語る。
「説明するとややこしいが、素体の誰もが神瑞でもある。名前がないというのも不便だから、意識を統括している点で、我を神瑞と過程しよう」
「よく分からないわ」
眉を寄せる瑤華に
『神瑞様と呼んでもいい、ということじゃろ』
応竜が言った。
「な、何しに、来たんですか」
警戒する玖楼に
「少し話がしたくてね」
「オレの情報は、全て貴方に伝わっているんでしょう」
だったら、今更と続け
「現場に残っていた血、あれは確かに神瑞様のものだった」
そして、碧玉から神瑞が攫われたと聞いた。
その後、玖楼は地上へと送られた。
「あれは、お芝居だったんだ」
実際、貴方はこうして遠隔で素体を動かしている、と玖楼。
「つまり、刹那、いや紅月に攫われた素体がどうなろうと目的が分かれば、あんたらにとったら痛くも痒くもない」
「そこなんだよ」
他の素体たちの意見は「元々、老体の素体、破棄をするべきだ」で一致。
いまさら、多数決を取る意味はない。
「これは、興味だ」
君の意見が聞きたい、と神瑞。
「そんなことに、意味はあるんですか?」
「言っただろう、興味だ」
玖楼は拳を握りしめると
「麗喬の親父さんを助けて、素体も救う」
「ふーん、どっちも助けたいなんてワガママだな君は」
私にはない考えだと、神瑞。
「神瑞様、女官から離れないようにと言ったはずですが」
声を荒げながら、碧玉がこちらに向かってくる。
「さ、酒臭い」
「太鼓の音を聞いたら、楽しくなってしまって」
祭が好きなのは人間も神の同じだな、と神瑞。
「それより、回帰の小瓶を彼に渡してやってはくれないか」
碧玉は玖楼の方に視線を向け
「よろしいのですか?」
「面白味のない我の素体から、ここまで尖った奴が出たのは初めてだ」
瑤華、尚香、咲耶の方に視線を向け
「これは、君たちのおかげだろうな」
碧玉は溜息をつくと
「どうなっても知りませんよ」
玖楼に渡されたのは、透明なガラスで作られた小瓶。
「これは?」
「原初の黒炎、つまり素体の元を取り出すものだ」
元々、素体は神瑞の体の一部である黒炎から生成される。
「道士、その先ほどは……」
しおらしい碧玉を見て
「事情があるってことぐらい、分かるよ」
完全に許したわけじゃないけど、と玖楼。
「……そうか」
「それを使えば、奈落の扉を開ける鍵として捕えられている東陽王を引き離せる」
「ずいぶん、景気のいい話だな」
咲耶は肩を竦める。
「これだけ協力的なら、明莉も救うべきだったな」
「貴様、神瑞様に……」
「よい」
神瑞は碧玉を止めると
「言っただろう、素体の誰もが神瑞であると」
我は、その意識を統括しているだけ。
「その時は、人間の娘一人の命を救うことに意味があるとは思えなかった」
神瑞は玖楼の方に視線を向け
「君がいれば、別の結果を残せたのだろうか」
その結果、一人の男に復讐の道を選ばせてしまった。
「紅月は、我のことを無能な神と吐き捨てた」
その時の、憎悪は今でも憶えている。
「奈落にいる神威が、こちらに出てくれば全ては無に帰るだろう。こそこそ、裏で歴史を操ってきた我々がどうこう言える筋合いではないが」
人間たちの協力に感謝しよう、と神瑞は呟いた。
「見て、鳳凰様よ」
夜空を舞う、炎の鳥。
「綺麗ですね」
『あの無駄に派手な羽は、夜空には生えるのう』
まあ、妾の降らせる雨にはおよばないが、と応竜。
転移の術で去った神瑞と碧玉を見送り
「……悪い、もうちょっと付き合ってくれ」
玖楼の言葉に
「最初から、そのつもりよ」
『ふむ、このままでは後味が悪いからな』
瑤華と応竜が頷く。
「乗りかかった船ですからね」
「仕方ないから、後少しは手伝ってやる」
尚香と咲耶が、続いて頷く。
「あの、応竜様」
『なんじゃ?』
「神様って、悩むものですか?」
瑤華の質問に
『そうじゃのう、人間ほどではないが』
竜玉の中の応竜が答える。
「さっき、神瑞様が紅月のこと憶えているって言ったでしょう」
その後悔が、玖楼の性格に影響を与えた可能性だってあるのかもしれない。
『……ふむ、神にも伸び代があると』
面白い考えじゃ、と応竜。
「私、神様ってとっくに完成された存在だと思っていたけど」
これから完成するのかもね、と瑤華は思う。
辰砂王の計らいで、東陽国へ向かう夏南国の兵士と瑤華たちは同行。
「白飛は、毛並が美しいですね」
「夏南国の馬は、筋肉がすごいわ」
「国によって、馬の質が異なるのって不思議ですよね」
先頭を走る黒い馬を見て、瑤華と尚香が言った。
「赤鉄です。初代夏南王が乗った馬の子孫です」
夏南国の兵が説明。
「しかし、神獣ですか。魔獣との戦いには慣れていますが、不安がありますね」
「咲耶は、倒してたよな」
狼の神獣を倒したのを、玖楼は思い出す。
「あれは、結構堅かったぞ」
なるべくなら手数を増やした方がいい、と咲耶。
「なるほど、個人ではなく団体の方が有利ですね」
「戦いかたとしては、その方が有利だろう」
「情報を感謝します」
夏南国の兵士が、全部隊に通達。
「西海国の兵も、出発している頃かしら」
両手に美女を侍らせた初代夏南王。
「そなたが道士か」
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