第10話 たったワンシーンで情景を彷彿

 サツキがバイクの前に飛び出して、体を張って止めます


サツキ「止まってくださーい!」

男「ばっきゃろー!あぶねー!」

サツキ「妹を探してるんです、女の子、みませんでしたか?」

りょうこちゃん「私たちね、○○」

サツキ「そう、ありがと」

男「お前、どこから来たの」

サツキ「松郷」

男「松郷!?」

りょうこちゃん「何かの間違いじゃない?」


 過ぎ去るバイク。


 この何気ないシーン、強力なサスペンジョンを読者に畳みかけます。


「私たちね、七国山から来たの。けど、そういう子は見なかったわよ」


 サツキは松郷から来ました。しかし、七国山から来た二人はメイを見かけなかった。これによりメイは完全に宙に浮いてしまったことになります。これが今後どのような影響を及ぼすのか。

 ここにも「大義名分」が出てきます。

 それは、サツキが「未知なる生物に助けを求める」ことへの大義名分です。

 もしこのクライマックスのシーンが、このようだったらどうでしょう。

 

 メイがお母さんの所へ行こうとする

→メイが迷子になる

→トトロに助けを求める

→トトロが助ける

→終わり


 一見良さそうですが、これでは全く面白くありません。それはなぜか。

 普通、妹が迷子になったらまず未知なる生物に助けを求めるでしょうか。まずは探すでしょう。それでだめなら、協力を請うでしょう、大人か警察などに。妹が迷子になって、まず「未知なる生物に助けを求める」人は少数派のはずです。

 この後に出てくる「サツキが未知なる生物に助けを求める」ことへの大義名分をサツキが得るためには、サツキを「もう、何をやってもだめ。もうどうしようもない状態」に追い込む必要があったのです。

 松郷から七国山までの一つの道。ここのどこにもメイはいない。メイは消えてしまったのか? そんな情景をさりげなく読者に思い浮かばせているのです。これはサツキを追い込むだけでなく、次のあの有名なシーンへとも絶妙につながっているのです。

 

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