あなたの知っているトトロはせいぜい2割

木沢 真流

第1話 名作「となりのトトロ」は○○な話

 誰もが知っている不朽の名作「となりのトトロ」。

 この作品を掘り下げてみると実に不思議なことに気づきます。

 まず、この作品は○○な話、だということです。さて、この○○に当てはまる言葉は何でしょうか。


 答えは、「大して面白くない話」です。


 いえいえ、ここまで名作と言っておきながら、何を、と思うかもしれません。ですがそれを証明してみせましょう。

 ではとなりのトトロのあらすじを思い出してください。

 簡単にはこのようなものではないでしょうか。


 母親の病気のため、田舎に引っ越して来たとある家族。あるとき迷子になった下の子を探すため、未知なる生物が登場して、それを助ける。


 どうでしょうか? それほど間違ってはいないと思います。

 このあらすじを何も知らない人がみて、例えばこの「カクヨム」で見つけた時に読もうと思いますか? レビューを書いてくれた、応援をたくさんしてくれたからお礼に、などのよっぽどの理由がなければクリックさえしてもらえない内容だと思います。

 そうです、となりのトトロは大してインパクトも無ければ、奇抜なアイデアもありません。誰も死なないし、次元も変わらない。ステージもさほど珍しくない少し昔の田舎風景。もちろん突拍子も無いストーリー展開などもほとんどないのが実情です。


 では、この作品はつまらないものなのでしょうか。


 そこに私たちが学ぶべき沢山の宝物がちりばめられているのです。

 なぜ私たちがこの作品に惹かれるのか、なぜ今も不朽の名作として世代を超えた人々から愛され続けているのか、そのテクニックがたくさん詰まっているのです。

 逆に小説のテクニックの一つに「冒頭に死体を置け」とはよく言われたものです。冒頭にインパクトのある事件を置き、読者を少しでも引き付ける技法の一つです。また、世界観が斬新で、それだけで読者を魅了できるのなら、言葉は悪いですが内容が少し悪くても最後まで読んでくれるのかもしれません。

 ですが、シンプルなテーマほどそうは行きません。

 テーマがシンプルであればあるほど、読者を引き付けるにはそれなりの「テクニック」が必要となってきます。ここではそのテクニックのことを「筆力」と呼びます。筆力にはアクセント、サスペンジョン、アンチテーゼなどを含みます(それぞれの意味は後に述べます)。

 この驚くほどシンプルなテーマを宮崎駿監督は実に見事に、胸を熱くする壮大なストーリーに仕上げています。その芸術テクニックをわかる限り、学んで行きましょう。

 

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