第27話
「この前の創世大の試合すごかったよね」
月曜日の二限目のスポーツビジネス論の時間中あんこは久留美の隣でずっと興奮気味に話しかけてきた。
「ちょっとあんこ静かにしないと先生に怒られるって……」
「だってくるみちゃん秋季二位の東京国際学院大を五回コールドだよ。やばくない!?」
確かにやばいほど強かった。あの後創世大の打線は毎回のように点をとり神崎は三安打完封。二塁を踏ませず完璧なピッチングだった。
虹村率いる東京国際学院大から二勝を奪い勝ち点でリーグ単独一位にたったのだ。
「今年の春も全勝優勝する勢いはあるよね。まぁ連勝はうちらが止めるけど……」
「そこの前から五番目に座るあなたたちさっきからうるさい。講義が終わったら私のところに来なさい!!」
え、あなたたち? 私も入ってるの?
「えへへ、怒られちゃったね。私たち」
ただ一方的に話しかけられていただけなのに巻き添えを食らってしまった久留美の胸中は穏やかではない。
しかしあんこは悪びれる様子もなく笑っている。本当なら嫌みのひとつでも言いたいところだが彼女は決して悪気があったんじゃない。
だからたちが悪い。
久留美は何処にもぶつけられないもやもやを抑えスクリーンに映された文字をノートにいつもよりきれいに書き記した。
「あなたたちは講義を受けに来たのかそれともお喋りをしにきたのか分からないわ」
誰もいなくなった教室に残された久留美たちは当然お説教を受けた。スポーツビジネス論は一、二年生が多く受講しており人数も多いため少し大きな教室で行われることから誰かひとりが話をしだすとひとりまたひとりと口を開いてやがて騒がしくなる。
「蔵田先生。ごめんなさい私たち女子硬式野球部で、あの、試合のことで話してて……」
蔵田先生こと蔵田菜穂は今年から光栄大学に勤務する准教授で、前職はプロスポーツ選手の引退後のセカンドキャリア設計をコンサルティングする仕事をしていたそうだ。
「野球? あなたたちが」
あんこの言葉を聞いて菜穂の目つきが変わる。
「野球部だからなに? 試合があるからって講義中におしゃべりしてもいいわけじゃない、プレイヤーである前にあなたたちは学生ですよ」
「すいません」
久留美が謝ると菜穂は呆れたようにため息をついて今回は許してくれた。
もう一度謝って久留美たちが教室から出ていこうとしたとき不意に呼び止められ名前を聞かれた。
「咲坂です」
「安城こなつです。セカンド守ってます。あ、くるみちゃんはピッチャーです!!」
そこまで聞いてないと注意されたあんこはにこりと笑い教室をでた。久留美はもう一回謝ってあんこのあとを追う。
「だからただ野球やってるやつは嫌いなのよ……」
菜穂の口からそう聞こえたような気がした。
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