第11話


「本格エースですか」

「そう。名前は鳴滝美香子。去年の秋のリーグ戦で柊より三振を奪って奪三振のタイトルを取った逸材。そして勝ち点は逃したものの唯一慶凛大は創世大に一勝している。その原動力がりかこ因縁の相手ってわけ」

「でも慶凛大はいつもBクラスでうちよりも弱いんじゃ」

「順位から見ればね。だけど慶凛大のポテンシャルは高いよ、勝ちたいって気持ちが強すぎるのだからラフプレイが多く審判に悪態ついていろいろ損してる、狂犬のように誰でもかみつく手ごわい相手なのは確かよ」

 翔子さんと私はバス停に到着するとちょうど駅までのスクールバスが停留所に現れた。運転手さんに頭を下げてバスに乗り込んだ。

「慶凛大戦はくるみが先発だからきっとプレッシャーを凄くかけてくると思う。だからりかこからいろいろアドバイスをもらうといいわ。あの子は勝気な性格だからめんどくさいこともあるけど野球に対して真面目で努力家よ」

「分かりました」

 今日は七時前には家に着くから父の誕生日プレゼントを買いにいける。最近肩がこるとか言っていたからシップでいいか。安上がりだなって笑われそうだけどまぁ許してもらおう。


「久留美なんか最近ホントに楽しそうだな」

 父の誕生日会が終わってリビングでまったりバラエティーを見ているとお風呂上りの父が話しかけてきた。上半身に服をまとっておらず下っ腹が出てるのがよく分かった筋肉質だった昔の面影をすっかりなくした姿に母は呆れている。

「お父さん鍛えたらいいのに」

「勘弁してよ、あ、風呂あいたからどうぞ」

「いやいやおっさんのあとの湯船につかれないでしょ」

 父はため息をついて冷蔵庫の麦茶をコップに注いだ。

「昔はお父さんっ子だったのになぁ」

「いつの話してんのよ」

 父は私の隣に座ると白々しく私の視線に入ってきた。うざかったので睨んでやったら父はエルボーガードを持っていて思わず「えっ」と声を上げる。

「打席入るとき肘守るのに必要だろ」

「なんで野球やってんの知ってるの」

 父は笑っている。何でもお見通しだよって言いいながら。私は母にそれとなく野球を始めたと言ったが父にはなにも言っていなかったし最近仕事も忙しそうで帰宅する時間も夜遅いから分からないと思っていたのに。

「日曜日、こっそり試合を見にいったんだ。久留美がベンチから声を出しているのを見て楽しそうに感じたよ。じいちゃんが死んでから元気なかったから父さん安心してな。ピッチャーやるんだったら肘のガードはいるだろう今日スポーツ店で買ってきたんだ」

「もうこそこそ見るんじゃなくて堂々と見ればいいじゃん。しかも日曜日は投げないから私。でもまぁ、ありがと」

 私は父から顔を背けた。なんとなく父の顔を見るのが恥ずかしかったからだ。

「まぁ頑張んなさい。志は高く、目標は低く。これ父の格言」

「意味わかんない」

「分かってたまるかよまだ二十歳にもなってない小娘に」

 私は、シャワーを浴びてからおやすみと言って二階に上がった。父からもらったエルボーガードをさっそく装着して構えるとなんだか強打者になった感じがした。今ならソヒィーさんのように打てる気がする。明日はノースローでランニングがメインになるがバッティング練習がないわけではないし一応打席には立つし持っていこうと私はエナメルバッグにエルボーガードをしまった。

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