第5話

4月28日 川口市某球場。

 人工芝の綺麗な球場だ。外野にはラッキーゾーンがあり、フェンスを越えなくともあそこを越えればホームランになる。土のグラウンドに比べると芝のグラウンドは、イレギュラーが少ないから打たせて取るピッチングスタイルのりかこさんには、もってこいの球場だ。しかし、マウンドに上がるのは私だった。先発が決まってから急ピッチで仕上げたから、ぼろが出るまで行けるところまで行く作戦で、りかこさんの負担を少しでも減らす目的があるらしいが、マウンドに上がったからには最後まで降りるつもりはなかった。

「昨日も言ったように、港経大のピッチャー西口は、ストレートよりもゆるい変化球でコーナーをつく軟投派のピッチャー。ゆるい変化球は、一拍ためてひきつけて逆方向に打てば大丈夫」

 整列前の円陣で真咲さんの激が飛ぶ。審判さんたちがお互いに挨拶を終え懐かしい緊張感が伝わってくる。

「くるみちゃん。三振ばんばんよろしく」

 整列準備で横に並んでいるとき隣のあんこが背中を叩いて言った。

 集合!!

 かけ声と共に両チームが合い間見えた。キャプテン同士が握手を交わして健闘を称えあう。

 光栄大学の先攻でゲームを始めます。礼!!

 お互いに礼を交わして勢いよく自陣ベンチに戻る。

 電光掲示板にスターティングメンバーが発表されるとバックネット裏に陣取った各大学の偵察にきていた選手たちがざわついた。

 

 光栄大学

一番センター    新庄

二番セカンド    安城

三番ショート    佐藤

四番キャッチャー  早乙女

五番レフト     織部

六番サード     鈴木

七番ファースト   立花

八番ピッチャー   咲坂

九番ライト     堀越


 データのない選手が二人もスタメンで、絶対的エースのりかこさんが先発ではないからだ。

「なんだよ、久留美。緊張してんの?じゃあ初々しい久留美ちゃんのために先制点をプレゼントしちゃおうかな~」

 そう言って私の頭をポンと叩いた詩音さんは笑いながらゆっくりと打席に向かう。

「詩音さん、先頭出塁お願いします」

 私がそう言うと肩に乗せたバットを少し上げて左打席に入った。主審の腕が上がる。

 プレーボール

 負けられない初戦が始まった。

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