第37話
菜穂の授業はいつも静かだ。
その理由は徹底した授業づくりにある。初回の講義でうるさくする運動部の人たちを強制退室させたり、無駄口をたたいて授業の妨害をした学生の出席を取り上げたりとやることなすこと厳しかった。
単位欲しさの出席だけしている学生や不真面目な強化部の学生排除した結果、第三回目の講義にして静寂を勝ちとったのだ。
しかしその代償として鉄血宰相、暴君などの異名が大学内に浸透することになったのだが、
「……というわけで次回からプレゼンテーション用の資料を作ってもらいます」
小さな学生のため息と嘆きの声が聞こえそしてまた静寂が訪れる。
「なにか質問がありますか?」
菜穂はそう言って時間を確認した。授業終了まであと五分。何事もなく終わるはずだった。
「はい!!」
ひとりの学生が手を挙げた。久留美は恐るおそる隣にいるあんこを見た。
あんこの右手は天井をさし指先までピンとまっすぐに伸びている。
「安城さんなにか分からないところがありましたか?」
「先生はなんで野球が嫌いなの?」
おいおい! 何言っちゃてくれてんのあんこ。
野球という言葉に菜穂の笑顔がひきつる。そして教室はいきなり氷河期を迎えたかのように凍り付く。
「何が言いたいのかな?あと授業に関係ないよねその質問」
「関係ありますよ。だって先生は全日本のエースだったんでしょ」
「……」
久留美は迷っていた。
あんこは別に悪気があって言っているのではない。
知りたいと言う自分自身の探求心がそうしているのだ。
その探求心は気まぐれで周りの空気などを気にしない。こうなると何をいっても聞かないしどうしようもない。
沈黙がこの教室を支配してチャイムが鳴った。他の学生はそそくさと退室する中で梃子でも動かぬあんこと菜穂。
蛇に睨まれた蛙の久留美。
「あなたたち私の研究室に来なさい」
菜穂は教室を出る。あんこは笑って私に言った。
「くるみちゃんあとでノート見せてね」
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