第33話
ボール。フォアボール。
最後は高めに大きく外れた。真咲がマウンドに来て話しかけてくれたが、全く内容が入ってこない。
満塁。
どうすればいいのか。そればかり考えていた。
まるで出口がない迷路を彷徨っているような途方もない不安とここで試合を壊すわけにはいかないという責任感が脳を臓器を器官を走り回っていた。
ボール。
ボール。
審判の腕が上がらない。
自分がどうやって投げていたのか?
ボールの握りは? 縫い目に何本の指をかけていた?
足は速くあげた? それともゆっくりあげた?
グラブの位置は? 球を放すタイミングは?
どうだったっけ? 分からない? どうして? だってさっきまで意識なんてしなくても出来ていたのに? 分からない、分からない。ストライクの取り方が分からない!!
フォアボール!!
押し出し。ランナーがホームに帰る。
どうしよう、どうしよう。ストライクを、とにかくストライクを入れなきゃ。
ボール。
ボール。
どうしよう、
ストライクをとるために藁にも縋る思いでコースに投げた。ボールはホームベースの上を通る。ストライクだ。良かったやっとはい……
カツーーーン。
えっ。
「左中間!!」
ミットに入るはずのボールは左中間の最深部に飛んだ。盛り上がるスタンドの選手の声、ベンチの先輩たちの声、グラウンドのみんなの声、なにもかもが混ざり合って雑音にしか聞こえなかった。
「咲坂……、咲坂!! ホームベースカバー」
マウンドから動くことも出来ずただ無情にもランナーがメリーゴーランドのごとくダイヤモンドをまわる光景をただ見つめることしか出来なかった。
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