第24話
慶凛大との第二回戦は午後二時プレイボールだった。というのも午前中の東京国際学院大学と駿台大学の試合が延長に入ったためだった。
延長タイブレークの末、東京国際学院大学が辛くも勝利し勝ち点をとっていた。
先攻の光栄大は初回に二点を先制するも先発のりかこが連打をくらい逆転された。
昨日とは打って変わって乱打戦になる。
五回終わって七対八。一点を追いかける光栄大は六回、詩音のタイムリーヒットと真咲のランニングホームランで三点をとり逆転した。
この試合スタメンでただ一人ヒットを打っていないのは雅だけで相手の緩い変化球に全くタイミングがあわない。
裏の守備でこの試合初めて0点で抑えたりかこは心身ともに疲れ切っていて、ネクストバッターにも関わらず濡れタオルを頭にのせベンチにもたれている。
そもそも打たせて取るが信条のりかこがなぜこんな試合展開になるまで点を取られたかというと電光掲示板のEの下を見てもらえばわかるが7と表示されている。
そう光栄大の守備陣の崩壊がこの現状を作ってしまったのだ。ゴロを打たせればファンブルし捕球したと思えば暴投。外野フライは落球。少しドライブ回転がかかったライナーに目測を誤り長打。
いつもならチョンボした選手に不機嫌になり、人一倍怒るりかこが全く口を開かず、にやにやしながらマウンドに大人しくいる。
その姿にただならぬ危険を感じた野手人は死に物狂いで打ちまくった。
最終回。先頭バッターに出塁を許すも続く三番志水を六ー四ー三のダブルプレーに抑えると四番の鳴滝をツーシームで詰まらせた。
セカンドを守るあんこががっちり掴みファーストに送る。
十対八で光栄大の勝利で試合は終った。七回で二時間半もかかったこの試合。ふと観客席を見るとがらがらになっている。
何はともあれこれで勝ち点二。順位も創世大学と同率首位にたっていた。
「この試合で私に言いたいことがある人ベンチ裏の控室集合~」
りかこの声で静まり返るベンチ。すると当事者たちがそろそろと控室に向かっていく。順番に美雨、雅、ソヒィー、眞子、そしてあんこ。
「おいおい、クルミ今そっちにいかないほうがいいぞぉ」
詩音にそう忠告されたがりかこにアイシングを頼まれていたので無視するわけもいかず 久留美は恐る恐る控室を覗くと腕を組み不敵に笑うりかこを前に五人は正座をしていた。
異様な空気が立ち込める。
「すいませんでした。ほんとにすいませんでした!!」
久留美は人生で初めて生土下座を目の当たりにした。それはとても綺麗な土下座だった。
「私はあなたたちにはほとほと呆れました」
りかこがいうと美雨が頭を上げる。
「まぁまぁ、ぷんこ。私たちもやばいと思って打ったしとりあえず勝ったんだし」
「はぁ(怒)」
「りかこさんすいません」
美雨はすぐに頭を下げると今度は雅が反論した。
「勝てばいいじゃん、リーグ戦は」
「一打席目ボール球に手を出してサードゴロ、二打席目変化球になすすべもなく三振。三打席目……」
りかこは織部に顔を近づけると耳元で今日の雅の全打席の凡退の内容を事細かにささやいた。
すると雅はおでこを床にこすりつけるほど落胆してしまった。雅にはエラーした事実より打てなかったことを指摘するほうが精神的ダメージを受けることりかこは知っていた。
「ソヒィー、前に出る緩いゴロを素手でとりにいくな、グラブを使えメジャーリーグじゃないのよ」
「眞子はエラーした後下向くな、ごめんとかなんか喋りなさい」
「あんこはプレーが雑、それで何個ゲッツーが取れなかったと思ってんの」
といったようにりかこの説教が続き終わるころには陽も暮れかかっていた。ようやく外に出てきた五人はみっちりしごかれた様子で、
美雨はやつれ果て雅はまだ立ち直れずにいる。ブラジル出身、日系三世の陽気なソヒィーですらラテン系の明るさが失われ先ほどから遠くを見つめている。
眞子は音もたてずに泣いてる。しかしあんこだけはけろっとした顔つきで泣いている眞子を慰めていた。
最後にでてきたりかこの満面の笑顔にお説教を免れたメンバーの顔が引きつる。
恐るべしりかこさん。
「と、とりあえずこれで首位にたった。次の創世大戦の前に空き週をはさむから来週は全員で創世大の偵察にいこう」
真咲はミーティングでそういうと全員承諾して解散した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます