緑のエーサク

じんべい

第1話

〔緑のエーサク〕



〔水の想い…風の歌…〕




「今度の中間テスト、俺が勝ったら付き合ってくれ!」


このフレーズが、清美の頭の中を駆け回っていた。


「風見君が、私の事を好き? うそっ?!だって風見君は、憂稀の事が…」


清美は風見と憂稀が、仲良く話をしてるのを、たびたび目撃していた。


しかも、最近は風見が憂稀に告白したというウワサも耳に入って来ていた…



清美と風見の出会いは、高校1年の時。

中学の時から、つねに成績はトップだった清美は、高校でも学年トップを目標にしていた。


スタイルも良く、顔も可愛い清美は、男子からの憧れの存在だったが、生徒会以外の時間は、全部勉強に費やし、恋どころではなかった。


当然のように、高校に入っても、部活にも入らず勉強一筋の毎日を送っていた。


そんな清美を叩きふせたのが、風見だった。


高校に入ってすぐの試験で、上位50位が張り出された。

それを見た、清美はガク然とした。


当然1位だと思っていた清美だったが、自分の上に名前があったのである。


その名前こそ「風見 翔」だった。



「誰よこれ?こんな名前聞いた事ない。」


清美は隣にいた、花咲 香に、


「ねえ、香。この風見翔って知ってる?」


「ん~、よくは知らないけど、たしか5組だったような…」


清美は同じ学区の成績優秀者の名前は、ほとんど知っていたが、風見 翔の名前は、初めてだった。


「一体どんな奴なの?顔を見てみたいわ。」


それからすぐに、清美の願いは、いとも簡単に叶った。


教室に帰った清美に、憂稀が駆け寄り、


「水川さんて凄いのね、学年2位なんて。」


「2位じゃ、意味ないわ、私は1位を目指してるんだから。」


「へ~、そうなんだ。」


2人が話してるところへ、友生もやって来た。


「水川さんて、ホント頭いいんだね。スタイルもいいし、羨ましい~」


「そ、そんな事ないわよ、普通だわ。」


少し照れたように答えると、友生の後ろから違うクラスの男子が近づいて来た。


「やぁ、君が「水川 清美さん」?はじめまして、風見 翔です。」


「え?あ、あなたが、学年トップの風見君?」


「いや~、まぐれ、まぐれ。次は水川さんに負けちゃうかも。」


翔は笑いながら答えた。


「でも、なんでこのクラスにいるの?風見君は5組でしょ?」


「あのね…」


友生が割って入るように話しはじめた。


「実は、ボクが入学式の時、転んで足を捻挫したとき、風見君が保健室まで運んでくれたの。憂稀はどっか行っちゃうし、風見君が助けてくれて、ホントに助かった。」


「いやいや、上地さんと風見君の馴れ初めは、いいからなんで、ここに風見君がいるのか?って聞いてるの。」


「いや~、それ以来、風見君に付きまとわれちゃって。」


「そ、それってストーカー?」


「おいおい、人を変態みたいに言うんじゃない。

なんていうのかな、こいつとは初めて会った気がしないというか、ほら、こいつ男みたいだろ。弟みたいでさ、ハハハ。」


「失礼な、ボクはれっきとした女の子だよ。」


友生が必死に反論するが、あまり説得力はなかった。


「とにかく、次は絶対負けないからね。覚悟しときなさい。」


清美は翔を指差し、宣戦布告をした。


緊張感の漂う中、マイペースの友生が、


「ところで、水川さん。水川さんは、部活は何にしたの?」


「は?部活?? 何言ってるの、部活なんかしてる暇ないわよ。」


いきなりの質問に、呆れて答える清美だった。


「そ~なんだ、大変だね~、ボクと憂稀は「映画作成部」に入ろうと思ってるんだ、緑姉に誘われてさ。」


「緑姉?」


「ボクの中学の先輩でさ、「木々野 緑」。この学校の生徒会副会長。」


「あ~、木々野先輩。」


清美はもちろん緑の事を知っていた。中学の頃からウワサは聞いていて、憧れていたからである。竹を割ったような性格で、男子にも女子にも人気があった。


「緑先輩の部活かぁ、興味はあるけど、今はこいつに勝たなくちゃ…」

清美が心の中で押し問答してると、


「友生、エーサクに入るのか?」


翔が友生に尋ねてきた。


「エーサク?」


友生は不思議そうな顔をしてる。


「映画作成部、略して「エーサク」みんなそう呼んでるぜ。友生が入るんなら、俺も入ろうかな。」


「え~、翔も入るの~。」


「なんだよ、いいじゃないか、俺とお前の仲じゃないか。」


「ちょっと、ちょっと、私を無視しないで。私の方が、友生と付き合い長いんだから、私の友生に馴れ馴れしくしないでよ。」


「私の友生?」

「私の友生?」

「私の友生?」


友生と清美と翔が、一斉に憂稀を見た。


ハッと自分の言った言葉に気付いた憂稀は慌てて、


「い、いや、友生とは幼なじみだから、それだけだから、他に意味なんてないのよ!ねぇ、友生。ほ、ほら友生もなんか言ってやりなさい。付きまとわれて迷惑だって。」


友生は少し困ったように、

「ボクは別にいいんだけど…翔って優しくていい人だし。」


「さすが俺が見込んだ奴た、よし、決まり。水川さんも「エーサク」入りなよ。」


「冗談でしょ、私はそんな暇ないわ。あなたたちだけで、遊んでるといいわ、後で痛い目みても知らないから。」



その日の放課後、友生達は早速「映画制作部」に行った。


「おじゃましま~す。見学に来ました…」


友生が、恐る恐るドアを開けると、


「おう、友生!お、憂稀も一緒か!」


いつもの調子で緑が、話しかけてきた。


「入部か?もちろん大歓迎だ。」


部屋の中には、緑ともう2人いた。


草村 育枝と氷河 透だった。


今の「エーサク」にはこの3人しかいなかった。ムリもない話である、実はこの「エーサク」緑が立ち上げたばかりの部活動だからだ。

映画が好きな緑は、「映画研究会」に入っていたが、自分達で映画を作ってみたくなり、目をつけていた草村を誘い、この「エーサク」を作ったのだ。


草村と風見は同じ中学だったが、友生と憂稀は初対面だった。


友生が、「はじめまして、草村さん。2組の…」


友生が全部言い終わらないうちに、草村は、


「1年2組、上地友生。身長155、4㎝、体重42、3kg、AAカップ。高校生になれば、絶対成長すると信じてる、ポジティブな性格。」


「え?え~?!ちょ、ちょっと!草村さん!みんなの前で何言ってんの!!」


友生は真っ赤になって、草村を止めようとしたが、草村は気にも止めずに話を続けた。


「同じく1年2組、神成憂稀、上地友生とは幼なじみ、最近は上地友生に、幼なじみ以外の特別な感情が芽生え始め、上地友生が貧乳を気にしてるのを知り、揉めば大きくなると言い、上地友生の胸を揉むのを楽しみにしている、身長157、2㎝、体重5…」


「わぁ~!わぁ~~~!!!!わぁぁぁ~~~~!!!!!」


憂稀はありったけの声を張り上げ、草村の言葉を掻き消した。



「ビックリした~…」


さすがにポーカーフェースの草村も、憂稀の大声には驚いた。


「ビックリしたのはこっちよ!なんであなたが、そんなこと知ってるのよ!」


「そんなことって…、さっき草村さんが言ったことは本当…?」


友生は上目遣いで憂稀の顔を見た。


憂稀は思わず目を逸らし、


「ち、違うわよ。ホントに友生の事を思って、揉んでるんだから。」


「じゃあ、今度から自分で揉むから憂稀は触っちゃダメ。」


「え~!?そんな~!」


憂稀は、ガックリと肩を落とし、恨めしそうに草村を見た。


草村は一つ咳ばらいをし、話しを続けた。


「コホン、次は風見 翔…は、まあいいか、同じ中学だったし…」


「え??風見君は無し?」


「だって、男の体重聞いても面白くないでしょ。」


「いやいやいや…そうじゃなくて…」


ツッコミを入れる憂稀だったが、


「ようこそ!映画作成部へ!!」


緑が強引に話をまとめてしまった。



なぜ、草村が風見の話をしなかったのか、実は風見が友生と憂稀の後ろから、唇に人差し指をあて、草村に「しゃべらないで」という合図を送っていたからである。


草村も風見の事情は把握しており、あえて口を閉じたのだった。


風見は草村に、ありがとうの意味を込めて、誰にも気付かれないように、ウインクをし、


「さて、楽しくなりそうだな。木々野先輩、よろしくお願いします。」


それにつられて、友生達も、


「よろしくお願いします。」


深々とお辞儀をした。


これが、後に「緑のエーサク」と呼ばれ、他校の生徒から一目置かれる存在になる、スタートだった。


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