第4話
〔緑のエーサク〕
〔水の想い…風の歌…〕第4幕
1学期最後の期末テストの日、風見の姿は学校に無かった…
清美がその事に気が付いたのは2時間目が終わった時だ。いつもなら休み時間が来ると、この教室に風見はやって来たのだか、今日はまだ1度も来てなかった。
不思議に思った清美は、友生達に尋ねてみた。
「ねえ、上地さん、今日は風見君どうしたの?1度も見ないけど…」
「なになに?風見君の事が気になるの?」
友生の後ろから、憂稀が割って入って来た。
「そ、そんなわけないじゃない、私とあいつは敵どうしなんだから、どうせ私に負けないようにと自分の教室で休み時間も勉強してると思うんだけど。」
「違うよ、翔君は休みなんだって。ボクも見かけないから気になって、さっき草村さんに聞いたんだ。そしたら、翔君風邪ひいて熱があるんだって。」
「え?!風邪…? 」
真面目で責任感の強い清美は、すぐに昨日の事を思い出した。
「やっぱり、濡れながら帰ったんだ…どうしよう、私のせいだ…」
清美が自責の念にかられていると友生が、
「それでさ、今日、翔君の所にお見舞いに行こうと思ってるんだけど、水川さんも一緒に行く?」
「う、うん。私も行くわ。」
それからというもの、清美は風見の風邪の事が気になって、テストにまったく集中出来ないでいた。
その日の放課後、清美達は香、草村も誘い、5人で風見のマンションに行った。風見の両親は今、海外赴任でアメリカにいる。最初は家族で渡米するはずだったのだが、風見の希望により、1人日本に残る事にしたのだ。
「え?風見君て1人暮らししてるの?」
清美はビックリしたように、草村に聞いた。
「そう、本人たっての強い希望でね。なんでもやらなきゃならない事があるんだって。」
草村は話したあと、清美を見て、ニヤッと微笑んだ。
「あと、風見のマンションはペット禁止だから、子猫をうちに持って来たってわけ。」
「え?なになに?子猫って」
友生が話しに食いついて来た。
「ん?ああ、2、3日前に風見が捨て猫を見つけたんだ。なんでも撮影のロケ地を探してる途中で見つけたんだってさ。放っておくのも可哀相だから、とりあえず飼い主が見つかるまで、うちで預かる事にしたんだ。昨日、連れてきたんだけど、ずぶ濡れでやって来たから、それで風邪ひいたんじゃないかな?」
清美はドキッとした。
「子猫、見てみたいなぁ、草村さんの家って、風見君の所から近いの?」
憂稀も興味津々だ。
「まあ、そんなに離れてはないけど、来る?」
「うん、行く行く!」
友生と憂稀は、嬉しそうに返事をした。
「水川さんは、どうする?」
憂稀が清美に尋ねると、
「う~ん、どうしようかな~、明日もテストがあるしなぁ…」
ホントは行きたくて仕方ない清美だったが、憂稀達の手前素直になれなかった。
そして、黙って後ろからついて来る香に、
「香はどうす…る…」
清美がすべてを話さないうちに、香の目を見た清美は、一瞬で香の気持ちがわかった。
目はランランと輝き、行きたいオーラ全開で清美の目を見つめ返して来た。
「わかったわよ。私も行くわ。」
言葉とは裏腹に、顔がニヤける清美だった。
そして、風見の住むマンションに到着した。
玄関に入ると、草村は風見の部屋番号を押し、返事をまった。すると友生が、
「ずいぶん手慣れてるんだ。よく来るの?」
「まあね、うちのマンションもこんな感じだし、最近は部活の事で、たまに来るかな。風見は1人暮らしだから、気がねしなくてすむしね。」
「て、事は、いつも部屋で2人きりって事?」
友生達は、あきらかに風見と草村の関係を疑っていた。
「まあ、そういう事になるかな?でも、君達が思ってるような関係じゃないから、安心しなよ。」
質問したのは友生だったが、草村が顔を見たのは清美の方だった。
清美は草村と目が合い、すぐに目をそらし、下を向いた。その時、
「はい、どちらさま?」
少しかすれた風見の声が聞こえて来た。
「はい、こちらさま。」
草村が、ふざけたように答えると、
「なんだ草村か、なんか用か?」
風見がめんどくさそうに答えた。
「なんだよ、つれないなぁ、せっかく水川さん達がお見舞いに来てくれたのに。」
草村はあえて、友生達と言わずに清美の名前を出した。すると風見は少し嬉しそうな声になり、
「なんだ、みんな来てくれたんだ、でも風邪が移るぞ。」
「大丈夫、大丈夫、すぐに帰るから。それにせっかくケーキ買って来たんだから。」
憂稀がカメラに向かってケーキの箱を振った。
「わかった、わかった。今、開けるから。」
すると、玄関奥のドアが開き、草村達はマンションに入って行った。
部屋の前まで来ると、緊張してる清美をよそに、草村はなんのためらいもなく、ドアを開けた。
「よ~、調子はどうだい?」
草村の問いかけに、奥から風見がパジャマ姿で出て来た。
「ん、まあまあかな?まだ少し熱があるから、明日も学校は休ませてもらうよ。」
「だ、大丈夫?風見君…」
清美が心配そうに話しかけた。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと熱が出ただけだから。」
風見はニコッと微笑んだ。
「狭いけど、上がってよ。」
風見の誘いに、みんなでゾロゾロと部屋に上がっていった。
「へ~、結構キレイにしてるんだ。」
男の子の部屋に入ったことのない友生達は部屋をぐるぐると見渡した。
しかし、清美だけは他の事を考えていた。
「風見君て、あんなパジャマで寝てるんだ…カワイイ~」
はしゃぐ憂稀達に風見が、
「こらこら、一応病人の部屋なんだから静かにしろよな。」
「ハーイ!」
友生達は一斉に返事をし、それぞれ空いてる所に座った。
すると憂稀が、
「ケーキ食べよ、ケーキ!」
「おい、それは俺の見舞いの品じゃないのかよ。」
「うん、それもあるけど、みんなで食べようと思って。」
「ちょっと待て、俺は調子が悪くて、今日はまだ何も食べてないんだぞ。見舞いなら、バナナとか消化の良いものを買って来てくれよ。まったくお前って奴は…」
「えへへ、よし、私が何か作ってあげよう。」
「え?!神成さんて、料理出来るの?」
ビックリしたように清美が尋ねた。
「ううん、出来ない。」
キッパリといいきる憂稀だった。
「水川さんは出来る?」
逆に聞き返された。
「う、うん、やった事ないけど、料理なんて科学の実験と同じ事でしょ。」
2人の会話を聞いていた風見は、
「頼むから2人だけは料理しないでくれ…」
「え~、じゃあ、草村さん…え?」
憂稀が草村の方を見ると、すでにケーキを食べていた。
「草村さん!ずる~い!私も食べようっと。」
「お前は一体何しに来たんだ…」
風見が呆れ返っていると、部屋の隅から小さな声がした。
「あ、あの…あたし、何か作りましょうか?」
声の主は香だった。突然の発言に清美は、
「え?香、料理出来るの?」
「うん、うちの両親、共働きだから、たまにあたしが作ってるんだ。」
「へ~、やっぱり女の子はこうじゃなくちゃ。お前らも見習えよ、嫁の貰い手が来ないぞ。」
風見は、ケーキを食べてる憂稀達に言った。
「じゃあ、ボクも手伝うよ。」
友生も名乗りを挙げた。
「そうか、友生もよく手伝いしてるもんね。」
憂稀は友生が料理の手伝いをしてるのをよく見ていた。
「憂稀はボクの家に来ても、食べることしかしてないんだよね。」
「いや~、邪魔しちゃ悪いと思って…えへへ。」
するとキッチンの方から香の声がした。
「調味料とかはどこなのかな?」
「ああ、調味料はこの戸棚の中だよ。」
風見がキッチンに行き調味料を取り出した。
香と風見が並んでる姿を見ていた清美は少しヤキモチを妬いていた。
「私も料理を習おうかな…」
そして10分後、美味しそうな「お粥」が出来た。
「わあ、いいにおい。スゴイね花咲さんて。」
憂稀がお皿に顔を近づけた。と、その瞬間。
「ちょっと味見、パクっ。」
「こ、こら憂稀!ダメだよ。」
「わ~、美味しい!花咲さんて料理上手~」
友生は憂稀からスプーンを取り返し、新しいスプーンを付けて風見に渡した。
「はい、翔君。簡単な物しかできなかったけど。」
「いや、嬉しいよ。ありがとう。」
風見は少しづつ食べながら、
「うん、美味しい。これなら立派なお嫁さんになれるな。」
「えへへ、やったね。花咲さん。」
友生は恥ずかしそうにする香にハイタッチをした。
風見の嬉しそうな顔を見ていた清美は、
「絶対、料理出来るようになってやる。」
心の中で固く誓うのであった。
「じゃあ、ボク達帰るね。」
「おう、今日はありがとう。助かったよ。水川、今回のテストはお前の勝ちだな。」
「風見君、今回の勝負は不戦勝だけど、私は勝ったとは思ってないからね。次が本当の勝負だからね。」
清美は強がって見せたが風見が風邪をひいたのは自分のせいだと心の中では自分自身を責めていた。
約1時間ぐらい風見の部屋いた友生達だったが、あまり長居すると風見がゆっくり休めないということで、風見の部屋を後にした。
それから、友生達は子猫に会う為に草村の家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます