第9話

〔緑のエーサク〕



〔水の想い…風の歌…〕第9幕



風見が、しぶしぶ草村の言いなりになり、写真を撮ってる隣の部屋では、急ピッチで作業が進んでいた。

別に本人達は急いでいるわけではなかったが、草村の采配によるものが大きかったのだ。


例えば、清美にベタ塗りを任せたのは、清美の絵の腕前が上手いというのもあるが、清美本人も根気強く、繊細かと思えば大胆さも兼ねそえている。それでいて筆の使い方が抜群に上手いのだ。実際、清美の塗ったベタはまったくはみ出す事も無く、色むらも無かったのである。


香は、引っ込み思案で大人しいが、家で弟たちの面倒や料理を作ったりしてるので、物覚えがよく、手先がとても器用なのだ。

香はハサミとカッターナイフを器用に使い、指定されているトーンを次々と貼って行った。


友生はオールマイティになんでも無難にこなす器用さを持っていたが、あえて「消しゴムかけ」という単純な作業を与えたのは理由があった。


それは憂稀の存在だ。体育会系の憂稀は大雑把で、勢いはあるが、長続きしたい。漫画のような細かい作業には1番不釣り合いな人間なのだ。


そこで草村は、今回の漫画にはまったく関係のない次回作の枠線ひきを与えたのである。

草村は憂稀が作業に入る前、あることを伝えていた。


「いいか、枠線ひきは簡単な作業だか、ここから漫画は始まる。つまり神成さんから漫画が始まるといっても過言ではない。気持ちを込めて線をひいてくれ。」


少しでも憂稀に責任感を持って貰おうという草村の作戦だった。


そして、憂稀が作業に飽きて、他の人に絡まないよう、仲の良い友生をそばに置き、憂稀の抑止力としたのだった。実際、早い段階から暴走しようとしていた憂稀を何度となく友生がなだめていたのである。


しかし、いくら簡単な作業とはいえ、憂稀の性格だと何枚かは使い物にならないであろう事は草村も知っていた。

草村的には三分の二ぐらい使えればいいと思っていたのだ。


しかし、さすがの草村もそこだけは読み違えていた。憂稀の描いた線は曲がり、にじみ、かすれ、はみ出しなどなど、修正、もしくは書き直しが約半分はあったのだ。


だが草村にとっては、原稿用紙の無駄など眼中に無かった。それだけ憂稀の存在が脅威だったのである。


そんな中、黙々と作業を続ける清美だったが、隣の部屋に入って行った3人がずっと気になっていた。


「もう30分ぐらいになるけど、風見君達は何やってるんだろ…」


しかし、清美は手を止める事なく、淡々と筆を走らせた。

真面目な清美は与えられた仕事を途中止めにはしたくなかったのだ。



その頃、隣の部屋では撮影会もクライマックスに近づいていた。


草村の撮影も熱を帯びていき、今まで撮ったノーマルの写真では満足出来なくなっていった。

それゆえにあの手この手を使い、きわどい写真を撮ろうとしていたのである。


まず二人に肩を組ませ、ほっぺをくっつけるように指示を出した。そして


「よ~し、いい感じいい感じ、じゃあそのまま氷河は右に、風見は左に向いてくれるか?せ~の!」


今まで、草村の指示通りに動いてきた風見は考える暇もなく、草村の指示通り左を向いた。その瞬間…


「ん…!」


草村の指示通りに動いた氷河のくちびるが、風見のくちびると合わさったのだ。


「よし!」


草村は心の中で叫びながら、シャッターを押しつづけた。


慌てて離れようとする風見だったが、氷河がきつく肩を抱いていたため、すぐには離れる事が出来なかった。


それもそのはずである。草村は先程休憩と偽って、氷河に指示を出していたのだ。


やっと氷河から離れる事が出来た風見は、氷河ととキスをしたことに、ムッとしていた。


「悪い、悪い。事故だ事故…。次から気をつけるから…」


草村は風見に機嫌を直して貰おうと深々と頭を下げた。


「今の写真、誰にも見せるなよ。」


きつい口調で草村にクギをさすと


「わかってる、あくまで参考資料だ。他人には見せないよ。」


「じゃあ、いいけど…」


しぶしぶ納得した風見に対して、草村は畳み掛けるように


「じゃあ、次はプロレスの技をかけてみようじゃないか。

ほら、男子同士だとプロレスごっこをしたりするんだろ?」


「え?ま、まあ…そうかな…」


いきなりの展開に戸惑う風見に


「よし、パイルドライバーをかけてみよう。」



説明せねばなるまい。「パイルドライバー」とは、相手の頭を太ももで挟み、そのまま相手を持ち上げ、後ろに倒れながら、相手の頭を床に叩きつけるという技である。

しかし、相手を持ち上げた時、相手のお尻が目の前に来るという、若干かけた本人もダメージがあるというキケンな技でもある。



「床は危ないから、そこのベッドでやってくれ。」


草村は一瞬も見逃すまいと、目を見開きシャッターを押した。


「さすが風見だ、プロレス技も絵になるなぁ。」


草村はおだてる事も忘れない。


「よ~し、次はパワーボムいってみよう!」


風見もおだてられたせいか、ノリノリで技をかけた。


またまた説明せねばなるまい。「パワーボム」とは、先程と同じように太ももで相手の頭を挟み、持ち上げるとこまでは同じだが、持ち上げると同時に太ももから頭を外し、相手の後頭部を床に叩きつけるという、なんともエグい技なのである。

そして、かけた本人もタダではすまない。

相手の後頭部を叩きつけた瞬間、体制上相手の股間がすぐ目の前に来るのだ。目の前というより鼻先に股間が来ると言ったほうがいいかもしれない。


氷河は技をかけられた瞬間、少し腰を浮かせ、股間を風見の顔に押し当てた。


「ぶ!!ひ、氷河!」


もちろん、これも草村の指示だった。


思い通りの写真が撮れた草村は至福の表情で


「よし、撮影はこれぐらいにしよう。」


これ以上やると風見が怒って帰るのは目に見えてる、まだ風見にはやって貰うことがあったので、機嫌を損ねないよう、撮影を止め、カメラを置いた。



「じゃあ、最後に2人にこれをやって貰おうかな?」


草村は風見に耳打ちをした。


それを聞いた風見は、


「なんだそれ?俺と氷河とでか?」


「頼むよ風見、私の書く漫画のジャンル、知ってるだろ?」


「ああ、BLだろ。」


「ということは、当然こういったシーンも出てくる訳だ。しかもこのシーンに関しては、撮影はしない。もちろんビデオも撮らない。そして、私も見ない!!ただ音声だけは録音 させて欲しい。最近よくあるだろ、ラジオCDとか、ドラマCDってやつ。それに挑戦してみようかと思って。」


「いやいや、お前は見ててもいいんじゃないか?」


風見の問い掛けに


「いや、想像力を鍛えるために私は目を閉じる!」


「まあ、映像に残らないならやってもいいかな?誰も見てないとはいえ、結構恥ずかしいから…」


「ホントか風見、ありがとう恩に着る。」


風見の両手を握りしめ、草村はあるものを手渡した。


「じゃあ、これでとってくれ。」


「ああ…、わかった。 ところでさ草村、この部屋少し暑くないか?」


「そうか?」


草村はエアコンの設定温度を見た。


「あ~、悪い悪い。設定温度を間違えてたよ。」


「うそつけ、わざとだろ!」


風見は呆れたように草村に詰め寄った。


そう、わざとである。少し汗ばむように設定温度を上げていたのだった。


そして草村はエアコンの温度を快適温度まで下げると



「よし、これで気持ちよく出来るだろ。 今回ばかりは私も一切邪魔しない。2人で心置きなくヤってくれ。ただ音声は録音するから、会話というか、現状報告みたいなのは欲しいな。」


「喋りながらするもんじゃないんだけどな…」


「まあ、そう言うな。お前達なら絶対出来る。私は信じてるぞ!」



そう言うと草村は少し離れた場所に座り、静かに目を閉じた…



「ホントに見ないんだな…。」


風見は草村の考えてる事がまったくわからなかった


「まあ、いいか。誰も見てないなら気軽にヤれるって事か。」



風見は氷河を呼び


「どこでやろうか?」


「床だと固いから体が痛くなりそうだ、ベッドかソファーがいいかな。」


「体勢はどうしよう?俺の上に乗るか?」


風見はあぐらをかき、氷河に尋ねた。


「いきなりその体勢はレベルが高いんじゃないか?もっとオーソドックスなやつでいいんじゃない?」


「オーソドックス?」


「俺が寝て、風見が上から入れるってやつ。」


「ああ、わかった。」



お互い男同士でやったことなどない2人だったので、いざするとなると、どうしていいかわからない風見と氷河だった。


「よし、氷河、とりあえずここに寝てくれ。」


「こうか?乱暴にするなよ。」


「わかってるって、 よし、入れるぞ…」


風見は体勢を整え氷河に近づいた。


その時、氷河は思わず口を開いた。


「ちょ、ちょっと待て風見!それって少し太くないか?」


「そうか?俺はいつもこのくらいだぜ。」


「そ、そうか……じゃあ一気にやってくれ…」


「そんなに緊張するなよ。こっちまで緊張してくるだろ…

もう少し横に向けるか?上手く入らない…」


「このくらいか?」


「よ、よし入れるぞ…」


「い…!」


「わ、悪い痛かったか?抜こうか?」


「い、いや、そのままでいい…」


「じゃあ、奥まで入れるぞ…」


「ぁん…」


「ば、バカ変な声出すな!」


「な、なんか変な感じ…案外気持ちいいかも…」


「そ、そうか…、じゃあ動かすぞ。」


風見は中の粘膜がキズ付かないよう、ゆっくりとゆっくりと掻き回すように動かした。


「あ………あっ……」


時折漏れる氷河の吐息だけが部屋に響いた。


この時すでに草村は両方の鼻から血を吹き、ティッシュを詰めていた。



「お前の穴って、けっこう綺麗なんだな。」


「ま、まあな、一応手入れしてるし。」


「手入れ?普通こんなところ誰も見ないぞ。まじまじ見るのは医者ぐらいだろ?」


「エチケットだよ。実際今、お前が見てるじゃないか?」


「こ、これは特別だろ…」



風見は喋りながらも、動かす事をやめなかった。



「よし、一回抜くぞ… ふう……ど、どうだ?気持ちいいか?」


「ああ、お前が優しくしてくれるからな。」


「ば、バカ…何言ってんだ… コツがわかってきた。次はもう少し上手くやれる。氷河、反対に向けるか?」


氷河は風見の言う通りにし、体を預けた。


「よし、入った…  ん?奥に…奥に何か…」 もう少し深く入れるぞ、痛かったら言ってくれ。」


「あ、あ…あ…わかった…」


そして風見はさらに奥に差し込んだ。


「お、奥に当たった… どうだ、痛くないか?」


「ああ…大丈夫だ… なんか変な気分だ…な…中で動いてるのがわかる…」



この頃には2人に友情を通り越した奇妙な愛情に近いものが生まれていた。



草村に無理矢理やらされてるとはいえ、風見を信じ、体を預けている氷河。そんな氷河を気持ち良くしようと全身の神経を1点に集中してる風見。


もはや2人はお互いの姿しか見えてなかった。部屋の片隅で鼻血を吹きながら至福の表情をして、もうろうとしてる草村など眼中にない。



「も…もう少し…もう少しで出るからな、我慢しろよ。」


「あ、あ…わかった、お前のタイミングでいいから…」


「あと少し…あと少し… 出そうだ…」


少しずつ動きが激しくなる風見、すべてを託し体を預ける氷河…


「で、出た!!あっ?!!」


「ど、どうした風見!?」


「わ、悪いこぼれた!服に付いてしまった!」



その瞬間草村が鼻から血を吹き出し、床に倒れ込んだ。



「く、草村!草村!!大丈夫か?!」


「先生!先生!!」


2人は草村に駆け寄り体を起こした。



「だ、大丈夫だ…ちょっと思った以上に刺激が強すぎた…

氷河…今回だけは、お前を褒めてやる。い、いい仕事をした…」


そう言い残すと、草村は静かに目を閉じた…




「草村~!!!」

「先生~!!!」



「て、いうかさ、なんで草村は「耳かき」ぐらいでこんなに興奮したんだ?」


「さぁ…」



2人がキョトンとしてると、いきなり隣のドアが勢いよく開いた。


「耳かき~?!」

「耳かき~?!」

「耳かき~!?」


隣の部屋にいた3人が飛び込んで来たのだった。







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