第10話

〔緑のエーサク〕



「水の想い…風の歌…」第10章




草村が至福の表情で気を失った瞬間、隣の部屋から3人が飛び込んで来た。


「お、お前達…」


「きゃ!なんで裸なのよ!」


清美は目を両手で隠しながら、しっかり指の間から風見の体を見ていた。


「そんな事より、早く草村をベッドに!」


風見は草村を抱き抱えベッドに運んだ。



「一体、何やってたの?」


憂稀が意味深に聞いた。


「何って、ただ氷河の耳を掃除してただけだけど…」


「ホント~?」


友生も疑いの眼差しで風見を見た。


「だってね~、あの声…」


憂稀と友生が顔を見合わせた。


「声?」


風見は何の事かわからなかった。実は、隣の部屋にいた4人は草村に課せられたノルマを早くにクリアしてたのだ。

まあ、憂稀にいたってはノルマをクリアというより飽きただけだったのだが。

そして、話題が隣の部屋に行った風見達の事になり、興味本位で扉に耳を当て、中の様子を伺っていたのだった。


ちょうど憂稀、友生、清美の3人が扉に耳を当てたと同時に風見達が耳かきを始めたのだった。



「え?なんて言ってる?太い?入れる?」


「寝る?体勢?」


「優しく?痛い?」



「力を抜け?上手く入らない?」



3人の後ろで聞いていた香は顔が赤くなっていった。草村の部屋に無造作に積まれていた漫画を見た時、その中に、まったく同じワードがあったからである。もちろんBL本だったのは言うまでもあるまい。

香も直接聞きたかったが、香の入るスペースがなく、3人の後ろで聞き耳をたてていたのだった。



真面目なで恋愛経験のない清美だが、一応いまどきの女子高生である。それなりの知識はあった。

同性どうしで行為に及ぶ事がある事ももちろん知っていた。


4人は顔を付き合わせ、


「これって、もしかして…」


「もしかして、もしかして?」


「でも、草村さんもいるよ?」


「草村さんに無理矢理やらされてるとか?弱みを握られて。」


「氷河君なら草村さんの言う事なら、なんでもききそう…」


「そういえば、草村さんの声がしないね…」


「ホントだ、いる気配すらない…」


4人は再び扉に張り付いた。


「もしかしたら、草村さん別のドアから出て行ったんじゃないの?」


「だとしたら、中には風見君と氷河君の2人だけ?」


「ちょ、ちょっと待って、何か言ってる… お前の穴、綺麗だな??」


「どこの穴?」


「どこって…やっぱり…」


4人は、部屋に重ねてある本に目がいった。


「でも…まさか…」


「ちょっと覗いて見る?」


「でも…もしも全部演技で、草村さんが撮影とかしてたら邪魔になるんじゃない?」


「ちょっと覗くだけだから。」


「そうそう、中に入らなければ大丈夫。」


「そうそう。」


香の心配をよそに、憂稀を先頭に友生、清美の3人は静かに扉を開け、中を覗き込んだ。



「何か見える?」


「あれって風見君かな?」


奥にあるソファーに風見の頭が見え隠れしていた。

ソファーの背もたれが邪魔で体全体が見えない。


「じゃあ、あれは氷河君の足?」


「ソファーの端から足が出ていた。その足が風見の頭の動きに合わせるようにピクピクと小刻みに動いてるいるように見えた。


「草村さんは?」


「あ、いた!あそこいるの草村さんだよね?」



草村は部屋の隅にうずくまり小刻みに震えていた。

そして、3人が再び風見を見た瞬間、風見が叫んだのだった。


「出た!あ!悪い、こぼれて服に付いた!!」


そして草村は鼻血を吹き出し、床に倒れ込んだのである。


「キャ!草村さんが!」


と同時に風見が草村に駆け付け、


「なんで、耳かきでこんなに興奮したんだ?」


それを聞いた3人が、思わず扉を開けて飛び込んで来たのだった。


「え?なになに、どうしたの?」


3人の後ろにいた香が、遅れて部屋に入って来た。


「キャ!氷河君!」


氷河の裸を見た香は、すぐに部屋から出て行った。



草村をベッド寝かせ、6人は再び仕事部屋に集まった。



「草村さん、大丈夫かしら…」


清美が草村を心配してると


「ああ、あいつなら大丈夫だ。いつも興奮するとあんな感じだから。」


風見は冗談ぽく笑いながら答えた。


「翔君て草村さんと仲いいよね。もしかして…?」


友生が2人の関係を問いただそうとすると、


「そうそう、前に草村さん聞いた時は、ただの友達って言ってたけど、仲よすぎるよね。ね、水川さんもそう思うよね。」


憂稀が話に割って入り、清美に同意を求めた。

急に話を振られた清美はビックリして、


「え?私?」


清美は内心ドキドキしていた。しかし、そんな気持ちを悟られたくない清美は、赤くなりながらも少し強い口調で、


「そ、そうよね。お姫様抱っこなんかしちゃって…」


そう言いながら、チラッと風見を見た。風見は少し物悲しげな表情をして清美を見つめていた。そんな風見と目が合った瞬間、


「う、うらやましい…」


つい、本音が出てしまったのである。


「え?」

「え?」


友生と憂稀が、同時に清美を見た。


「え?!い、いや…そ…その…つまり…」


あわてふためく清美を助けるかのように、


「いやいや、ホントにないって、草村とは親同士が仲良かったから、よく一緒に遊んだだけだって、よくお互いの家に泊まりに行ってたりしてたからな。一緒に風呂に入った事もあったっけ。幼稚園の頃だけどな。それにあいつはあんな性格だろ?友達も出来ないから、せめて俺だけもってな。」


それはまるで、みんなにというより、清美1人に言ってるようだった。風見は清美の目を真っすぐに見つめ話をした。


「そうそう、そんなこともあったっけ?」


話に入ってきたのはなんとベッドにいた草村だった。草村はベッドから体を起こし、


「知ってるか、こいつのチ○コこのぐらいなんだぜ。」


草村は親指と人差し指でCの字を作り、指の間から目を覗かせた。


「バ、バカ!幼稚園の頃はみんなそんなもんだ!い、今はもっとデカイ…」



「デカイ…」「デカイ…」「大きいッてこと?」


女子達は顔を赤らめながら、ヒソヒソと話した。


「ほう~デカクなったのか、どれだけ成長したのか、見てみたいものだな。」


草村は風見の股間を見ながら話した。


「バ~カ、お前になんか見せるかよ。」


「じゃあ、誰に見せるんだ?」


「そ、それは…好きな人にだ!」


その時、風見と清美の目が合ったが、お互いすぐに下を向いた。


「まあ、そんな事はどうでもいいとして…」


話を途切ったのは、その話をややこしくした本人、草村だった。


「今日はホントにありがとう、助かったよ。これで撮影にも入れるってもんだ。詳しい日程はあとからメールで送るから、都合が悪い人は早めに連絡をくれ。

あ、それから女子のみんなは、もう少し漫画に付き合ってもらってもいいかな?君達が手伝ってくれたら、かなりとても助かる。」


「え~、でもな~、夏休みは遊びたいしな~」


いきなり難色を示したのは憂稀だった。むりもない、憂稀だけは漫画に携わることに喜びを感じてなかったからだ。他の3人は、少なからずも自分が手がけた物が作品になって行くのが嬉しかった。

かといって、憂稀を外す訳にはいかなかった。なぜなら、憂稀を外せば友生が憂稀に気を使い、手伝いには来なくなる。2人が来ないと、きっと清美も来ないだろう。清美が来ないとなれば、いつも一緒にいる香もが来るはずない。

そこで草村は、ある特典を提示した。


「もちろん、タダとは言わない。少なからずアルバイト料は出そう。それからもう一つ、夏休みの宿題を写し放題にしようじゃないか。もちろんお茶にお菓子付きで。」


「はい!!やります!やらせて下さい。草村先生!」


さっきまで、嫌々だった憂稀が元気よく手を挙げた。


「ね、友生もやるよね?友生は優しいから、困ってる草村さんを、放っておけないよね?水川さんもあんなに上手いんだから、書かないともったいないよ。花咲さんも、自分で漫画が作れるんだよ、こんな機会めったにないよ。一緒にやろ。」


「もう憂稀ったら~…」


呆れたように友生がつぶやいた。


アルバイト料はともかくとして、もう一つの特典は、憂稀以外の3人には、まったく意味がなかった。友生は早い段階で宿題は終わらせている。それを残り3日で憂稀が写すというのが、毎年の恒例となっていた。

香も、ちゃんと計画的に宿題は終わらせている。

清美にいたっては、夏休みに入ると同時にほとんどの宿題は終わらせて、予習に入っていた。


「ボクは、もともと手伝ってもいいかな。って思ってたんだ。」


友生に続いて香も、


「あ、あたしもっと手伝いたい。草村さんと漫画作りたい。ね、清美ちゃんも一緒にやろ?」


「え、ええ。いいわよ。私もけっこう楽しかったから。」


「やった~!」


1番喜んだのは憂稀だった。


「よし、決まりだな。また詳しい日程が決まったら連絡する。」


「お、おい、草村。俺達はどうすんだ?」


まるで、俺達もここにいるんだぞ。とばかりに風見が聞いてきた。


「あ…、男子諸君はもう結構。必要ない。撮影に励んでくれ。」


草村はキッパリと答えた。


それからほどなくして、エーサクの面々は草村の部屋を後にした。


そして、誰も居なくなった部屋で、草村はもう一つ、新しい漫画を書きはじめた。


「よし、これでこの夏コミは勝てる…」


草村は不敵な笑みを浮かべ、ニヤリと笑った。





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