第13話
〔緑のエーサク〕
〔水の想い…風の歌…〕第13幕「初デート」
テストの発表も終わり、一段落ついた11月のとある日曜日、デパートの前でショーウインドーを見ながら前髪を直す清美の姿があった。
「ちょ、ちょっと早く来過ぎたかな?ま、まあ、負けたわけだから、早く来て待ってるのが当然よね。」
清美は予定の時間より1時間近く早めに来ていた。そしてそんな清美を少し離れた物陰から見ている人物がいた。
「ねえ、憂稀、待ち合わせって10時じゃなかったっけ?」
「うん、たしかこの間そんなこと言ってたよね。」
憂稀と友生である。風見と清美が気になって、こっそり覗きに来ていたのだ。
テスト勝負の結果は、ご覧の通り清美の負け、約束通り、早速風見とデートになったのであった。
「でもさ、あの時、水川さん少し変だったよね。」
友生が憂稀に問いかけた。
「そうそう、水川さんたら、顔を真っ赤にして目を閉じたまま突っ立っていたもんね。何かの儀式かと思ったわよ。」
そう、清美はみんなの前でキスされると思い、風見からのキスを待っていたのだ。
そんな清美に、風見は日曜日の待ち合わせ時間と場所を告げると、そそくさとその場所を後にしたのだった。
ちょっと拍子抜けの清美だったが、本当の約束を家に帰って思い出し、風見と付き合える事が嬉しいやら、みんなの前でキスを待ってた自分が恥ずかしいやらで、どうしていいかわからない状態であった。
待ち合わせ時間の10分前、風見がやって来た。
「お、おはよう風見君。」
清美は少しうつむき加減に挨拶をした。
「早いな水川、さすが優等生。ほら、これ。」
風見は缶コーヒーを取り出すと清美に渡した。
「カフェオレでよかったんだよな。」
「え!?なんで知ってるの?」
「なんでって、この間友生達と話してるの聞いてさ。遅くまで勉強する時もブラックは飲まないって言ってたじゃん。頭使うと糖分が無くなるから砂糖とクリームは必要なんだろ?」
「そ、それはそうだけど…」
清美は、風見が自分の事を知ってくれてるのが、嬉しいやら照れ臭いやらで顔を赤らめ下を向いた。
清美は缶コーヒーを受け取ると、一口飲んだ。
「あ~、あったかい~。美味しい~~」
清美の笑顔を見ると、風見も缶コーヒーを開け、一気に飲み干した。
空き缶を捨てようと、ごみ箱を探してる風見に、清美が尋ねた。
「ねえ、今日はどこに行くの?」
「ん?ああ、実はさ、水川に探して欲しいというか、選んで欲しい物があるんだ。」
「選んで欲しい物?」
「ああ、実は昔からお世話になってる親戚のお姉さんがいるんだけど、今、アメリカに留学してて、この年末に帰って来るらしいんだ。だから、今までのお礼の意味も兼ねて、何かプレゼントしたいんだけど、女の人にプレゼントなんてしたことないから、何をプレゼントしたらいいのかわからないんだ。
相談しようにも、草村はあんなだろ?友生や神成はアニメグッズが多いし。そこでだ、水川に頼もうと思って。
お前はセンスもいいし、良いもの選んでくれそうだからな。頼むよ、水川。お礼はするから。」
風見は両手を合わせ、頭を下げた。
「そんなに頼まなくても…、ホントに私が選んでもいいの?」
「もちろん、お前じゃなきゃダメなんだ。是非頼む。」
もとより清美は断るつもりはなかった。大好きな風見に必要とされている。それだけで嬉しかったのだ。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
「あ、ちょっと待って。」
清美は残っていたコーヒーを飲み干した。
と、同時に風見が手を差し出し、
「捨てて来てやるよ。」
清美に空になった空き缶を差し出すよう促した。
半ば強引な風見に、悪いと思いながらも、
「うん、じゃあ…お願い…」
清美は風見に空き缶を手渡した。
その時、清美が口を付けた所が風見の手に触れた。それを見た清美は、
「あ!こ、これって間接キス?!」
清美は赤くなり、一人モジモジしていた。
空き缶を捨てて帰って来た風見は、清美の肩を「ポンッ」と叩き、
「よし、じゃあ行くか。」
そう言うと、2人はデパートの中に入って行った。
そんな2人の様子を寒さに耐えながら見ていた友生と憂稀は、
「いいな~、水川さん。ボクもあんな彼氏欲しいなぁ。」
「うんうん、欲しい欲しい。ねぇ友生~、あたしにも暖かい飲み物買って~」
「そっちかよ、まったく憂稀は…ほら、ボク達も行こう。中で買ってあげるから。」
「ホント!?ありがとう。友生、大~好き。」
憂稀は友生の腕にしがみつき、デパートの中に入って行った。
そんな4人の様子をデパートの向かい側にあるマクドナルドの2階からコーラを片手にずっと見ていた人物がいた。もちろん、草村育枝である。
草村は4人が来る前から、この場所に陣取り、気づいた事をメモしながら観察していたのだ。
そして、4人が中に入るのを見届けると席を立ち、草村も4人の後を追った。
風見はデパートに入るやいなや、すぐに一軒の店に入った。というのもあらかじめ何件か、女性の好きそうなグッズのある店をチェックしてたのだ。
店内を歩き回る風見に、清美は気になっていた事を聞いてみた。
「ねぇ、風見君。その親戚のお姉さんて、歳はいくつなの?」
風見は少し考えるように上を向いて答えた。
「え~っと、今年大学4年だから、7月で22歳かな?」
「へ~、大学生なんだ。けっこう近いんだ…」
「ん?何か言った?」
清美が「大学生」の後を小声で言ったものだから、風見には聞き取れなかった。
「う、ううん、何でもない。大学生なら、まだ可愛い系でも大丈夫だよね。」
もう少し2人の関係を深く知りたかった清美だが、ここは、風見の役に立つ事だけを考え、プレゼントを探す事に専念した。
いろんな店に入りまくる風見と清美を見ていた友生は、ふと疑問が湧いた。
「ほらほら、憂稀。2人が店から出たよ。ボクらも行こう。」
「見て見て友生、似合う~?」
そこには帽子を被り、オシャレなサングラスをして、コートを纏いモデルばりにポーズを決めていた憂稀が立っていた。
友生は大きくため息をつき、
「変……」
「え~?!カッコイイと思ったのにな~」
「だいたい、寒くなってきたとはいえ、デパートの中は暖房も効いているんだから、そんな暑苦しいカッコしてる人なんて…… あ、いた…」
友生の目線の先には、帽子を深く被り、サングラスにマスク、なおかつロングのコートを纏った人物が柱の陰に立っていた。
その人物は何か一点を見つめているようだった。
「どれどれ?」
憂稀がその人物を見つけると、
「ん~?!、ん~~ん?!あれって?」
そう言うと、その人物に近付いていった。
「ん~~~~ん?!」
「ちょ、ちょっと憂稀ってば!」
憂稀がその人物の目の前まで行き、「ん~~~ん?」と言いながら顔を覗き込もうとすると、その人物は 顔をそむけた。
「ちょっと~、憂稀、失礼だよ。」
友生が憂稀を止めようとしたとき、憂稀がその人物のサングラスを取った。
「あ~!やっぱり香ちゃんだ!」
そこにいたのは、清美の友達の花咲香だった。
そこへ、遅れてやって来た友生が、
「花咲さん、どうしたの?そのカッコ?」
香は困ったような下を向いた。すると憂稀が、
「香ちゃんも、二人が気になったんでしょ。」
「う、うん。清美ちゃんが男の人と2人きりでデートするなんて初めてだから、気になって…
清美ちゃんのあんな格好初めて見た。」
「じゃあ、一緒に後をつけようか。」
「う、うん…」
煮え切らない香の返事に友生は尋ねた、
「どうかしたの?」
「う、うん。清美ちゃんと風見君て、ホントに恋人同士になったのかな?って」
「どういうこと?」
憂稀も話に入って来た。
「うん、朝から2人の後をつけているんだけど…」
「私達と一緒だ。」
「もう、憂稀は口を挟まないの。で?」
「うん、あたしもデートしたことないからわからないんだけど、見てると
風見君の買い物に清美ちゃんが付き合わされてるだけみたいに見えて…」
それを聞いた友生は、もやもやとしてた物が一気に晴れた。実は友生が感じていた違和感はそのことだったのだ。
お互い、初めてのデートとはいえ、定番の映画や遊園地ではなく、デパートを歩き回るというのは少し不自然さを感じていたのだ。
「そんな事ないよ!だってあの時風見君が、みんなの前で告白したじゃない。」
2人の意見を真っ向から否定したのは憂稀だった。
なぜなら、もし仮に友生達の言う通りで、風見が清美の事を友達としか思ってなく、ただの買い物だったとしたら、風見を諦めた友生にチャンスがあると思ったからだ。
自分から離れて行くかもしれない友生を、黙ってみてるわけにはいかなかった。
「わたし、ちゃんと聞いたよ、風見君が水川さんに「俺と付き合ってくれ!」って言うところ。
「うん、ボクも確かに聞いたよ、「付き合ってくれって」言ったのを。
ただ、その「付き合う」の意味がボク達が思ってるのと違うとしたら…」
「いやいや、そんな事ないって、これが風見君が考えたデートコースなんだよきっと。」
「そうなのかなぁ、まあ、人それぞれ考えは違うから…」
「そう、そうだよ。ほ、ほら、レストランに入って行った。デートっぽくなってきたじゃない。」
憂稀は必死に風見を弁護しつつ、2人を追ってレストランに入った。
3人は、風見達が見える、入口付近に席を取り、2人の様子を見ていた。
「今日はいろいろ引っ張り回してごめんな、疲れたろ?」
「ううん、平気。可愛い小物とか見れて楽しかった。」
「水川のおかげで、良いものが買えたよ。これなら喜んでもらえるよ。ありがとな、やっぱり水川に頼んでよかった。」
「ううん、たいした事してないし…か、彼女なんだからあたりまえ……」
水川は下を向きながら小声で呟いた。
「今度はさ、水川の買い物に付き合ってやるから、いつでも言いなよ。」
「うん、でも買い物より、映画や遊園地に行きたい…かな…って。」
水川がボソボソと言っていると、
「悪い、ちょっとトイレ行ってくる。」
「あ、うん。」
そう言うと、風見は席を立ち、トイレに向かった。途中、店員と何やら話をしてるようだった。
そんな2人の様子を見ていた憂稀達は、
「ほらほら友生、あの2人いい感じじゃない。香ちゃんも考え過ぎだって。いくら風見君が鈍感だって、〔付き合う=彼女〕ってわかってるって。」
とは言った憂稀だったが、確固たる核心がなかったので直接聞こうと思っていた。風見がトイレに行ったのは、憂稀にとってチャンスだった。
「わたし、ちょっとトイレ行ってくるね。」
「ちょっ、ちょっと憂稀!」
止めようとした友生だったが、その言葉をすり抜けるように、憂稀はウインクしながら席を立った。
「憂稀ってば、よけいな事しなきゃいいけど…」
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