第14話
〔緑のエーサク〕番外編14
〔水の想い…風の歌…〕第14幕「誤解」
憂稀は、風見に清美の事をどう思っているのか聞こうと席を立ち、清美に気付かれないように遠回りをしながら、トイレに向かった。
風見がトイレから出て来ると、そこには憂稀が壁にもたれて待っていた。
「お!?神成??!な、何してんだ?こんな所で…」
「えへへ、友生とデートの途中。そんな事より、あなたたちこそデートしてるんでしょ?」
「え?デ、デート?そ、そんなんじゃないよ。水川に買い物に付き合ってもらっただけだよ。」
「あ~、やっぱり… でも、みんなの前で告白したじゃない。「俺と付き合ってくれって」」
「あ~、あの賭けの時の事か、いや、だからあの時はどうしても水川に買い物に付き合ってもらいたかったから、そう言っただけなんだけどな。俺嫌われてるみたいだから。」
「何言ってるの、男子から、付き合ってくれって言われるのは、「お前の事が好きだ、俺の彼女になってくれ」っていうことなんだよ。」
「え?そ、そうなのか?」
「それはそうと、風見君は水川さんの事どう思っているのよ。」
「ど、どうって?」
「好きか嫌いかって事よ。」
「お、俺は…す、好きだよ、水川の事… でも水川の方が、どう思っているか…」
「風見君、バカじゃないの。」
「ば、バカって、お前の方が頭悪いじゃないか!」
「ホント、風見君て恋愛のテストがあったら、赤点確実だね。水川さんが、ここに居るって事は、風見君の事が好きだからに決まってるじゃない。」
「そ、そうなのか?」
「あたりまえでしょ、さっきも言ったけど、風見君がその気はなかったとはいえ、風見君の「付き合ってくれ」にOKしたんだから、水川さんは風見君の彼女のつもりでいるわよ。」
「で、でも俺はまだ告白してないけど…」
「ホント、じれったいわね。じゃあ、ちゃんと伝えて来なさいよ。」
「そうは言っても… なんて言ったらいいんだ?」
「そんなもん、素直に自分の気持ちを言えばいいのよ。「お前の事が好きだ、俺の彼女になってくれ」って、ちょっと言ってみなさいよ。」
「で、でもいきなり恋人って…最初は友達からじゃないのか?」
「も~!あんたは昭和の化石か!今の女子はすぐに恋人になりたいの。」
「そ、そうなのか。」
「そうよ、わかったら言ってみて。」
「お、お前のこ、事が…好き…好きだ、彼女になって欲しい…」
風見がそんな状況にあるとはまったく知らない清美は、
「わたしも、今のうちにお手伝いに行っておこうかな?」
そして清美も席を立ち、風見と憂稀がいる、トイレに向かった。
それを見ていた友生は、
「あ、水川さんもトイレに行っちゃった。も~憂稀ったら何やってるんだろ、早く帰って来ないと水川さんに見つかっちゃう。」
トイレの前では、
「はい、声が小さい、もっと大きくハッキリと。」
憂稀がここぞとばかりに風見をイジッていた。
「あれ?この声って神成さん?」
水川が聞き覚えのある声に反応し、トイレの入り口付近を覗いた。
「俺、お前の事が好きだ!俺の彼女になってくれ!」
「はい、OK!いいわよ。」
「え?!何?…あれって、風見君と神成さん?風見君が神成さんに告白?神成さんもOKした?…
え?で、でも風見君は私が好きなんじゃないの?ど、どういうこと?私はただ買い物に付き合わされただけって事?」
清美が訳のわからないまま突っ立っていると、視線を感じた憂稀が清美を見つけ目が合った。
「あ、水川さん…えっと、これはね、ち、違うの…」
「み、水川…」
清美は動揺する2人を目線から外し、
「私、帰る…」
そう言い残すと足速に玄関に向かった。
「あちゃ~、ほら風見君、追い掛けて、追い掛けて、水川さん絶対誤解してるから。そして、ちゃんと捕まえてさっき言った自分の気持ちをぶつけてきなさい。ほら早く早く。」
憂稀は風見の背中を強く押した。
「お、おう…」
「行け~!風見~!押し倒せ~!!」
憂稀は風見の背中を押しながら叫んだ。
「あ、水川さんが、こっちに来た、香ちゃん、隠れて。」
友生は清美に見つからないよう、頭を下げて下を向いた。
「清美ちゃん、なんか泣いてた。」
香は清美の涙に気が付いていた。
そして、友生がトイレの方を向くと、清美を追い掛けて来た風見と目が合った。
「あ!ヤバっ」
すぐに目をそらした友生だったが、風見は今それどころではなかった。
風見が店から出ようとすると、店員から呼び止められ、何やら話をすると、友生を指差し店を出て行った。
風見が店を出てすぐ、店の照明が少し暗くなり、花火が付いた少し大きめのケーキが友生達のテーブルに運ばれて来た。
そして店員は迷うことなく香の前に置いた。そして一言、
「誕生日おめでとうございます、清美さま。ごゆっくりどうぞ。」
そして友生をチラッと見て、
「優しそうな彼氏ですね。」
「え?!ちがっ…」
香は訳のわからなかったが、とりあえず店員にお辞儀をした。そして友生も何が何やら訳がわからなかった。
店の照明が戻り、ケーキの真ん中に書いてある文字を見ると「HAPPY BIRTHDAY to 清美」と書かれてあった。それを見た香は、
「あ!そうだ、今日は清美ちゃんの誕生日だった。」
「え?そうなの?」
「うん、毎年2人でケーキとか食べてるんだけど、今年は部活とかデートの事とかで忘れてた。たぶん清美ちゃんもデートの事とかで、いっぱいいっぱいになっちゃって、忘れてるんじゃないかな?」
「でも翔君は知ってたんだ、今日が水川さんの誕生日だって事…」
そこへ、憂稀が帰ってきた。
「も~!憂稀ってば、何をやらかしたんだよ。水川さん、泣いて出て行っちゃったよ。」
「大丈夫、大丈夫だって、ちょっとした誤解だから。二人共、両想いなんだから大丈夫だって。たぶん…」
「たぶん?」
「い、いや、あれよあれ「雨降ってカチンコチン」てやつ?」
「それを言うなら「雨降って地固まる」だよ。」
「そう、それそれ。それはそうと、このケーキは?」
「店員さんが持って来た。風見君からだって。」
憂稀が「HAPPY BIRTHDAY」の文字を見つけると、
「私の誕生日はもう終わったわよ。友生も違うし、香ちゃん誕生日なの?」
「ち、違うよ。ほらここ、ここ。」
香が指差したチョコレートの板には清美の文字が書かれていた。
「たぶん翔君がサプライズケーキを用意してたんじゃないかな?」
「ふ~ん、案外やるじゃん、風見のやつ。」
「でも、このケーキどうしよう…清美ちゃん出て行ったし…」
すると憂稀が、
「仕方ない、私達で食べちゃおう!」
「だ、ダメだよ憂稀。水川さん帰って来るかもしれないんだよ。」
「でも帰って来ないかもしれないし、それに店員さんも見てるし。」
「うわ~、店員さんがずっとこっち見てる。このまま食べないわけにもいかないな。」
「そうそう、水川さんには謝って、また新しいケーキでお祝いしたらいいんだし。」
「ま、まあ、仕方ないか…」
それを聞いた憂稀は早速ナイフでケーキを切り分け3人で分けた。
そして3人一緒に「せ~の」でケーキを食べた。
「あ~、美味しい~幸せ~」
「ホント、美味しいや。」
「うん、美味しい~、清美ちゃんに、ちょっと悪い気がするけど…」
3人共、満面の笑みを浮かべていた。
「そういえばさっき、あたしと上地さんアベックに間違われたよ。「優しそうな彼氏ですね」って。」
「え!?なんですって、友生は私の彼氏なんだから、取っちゃダメ!」
憂稀が凄い勢いで友生に抱き着いた。
「いや、そもそもボク「「彼」じゃないんだけど…」
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