第20話
緑のエーサク〔ご当地ヒーロー編〕
第3話〔帝王と呼ばれたい男〕
「むかし、むかし、あるところに、二人の可愛いおんなの子がいたそうじゃ。」
「アハハ、なにそれ?上手い上手い。」
憂樹が手を叩いて喜んだ。
風見は呆れたように、
「はい、はい、お前と緑先輩のお母さんな。」
草村は何事もなかったように話を続けた。
「そして、その二人のおんなの子の友達に、自分の事を「帝王」と呼ぶ男の子がおりました。」
「子供のくせに「帝王」だと?一体どんなワルガキなんだ。」
風見はビックリしたように言った。
「その男の子の名前は「大川哲也」(仮名)小学3年生」
「仮名かよ!」
憂樹が、さ○~ずの 三村バリにツッコンだ。
それを見た草村は、ナイスツッコミとばかりに、親指を立て、憂樹にウインクをした。
それに気付いた憂樹も、「ウンウン」と首を振った。
そして、草村は何事もなかったように話を続けた。
「最近の小学校は英語の授業は当たり前になりつつあるが、当時私の親が小学生の時は英語の授業は全く無かったらしい。
中学生から英語の授業が始まるから、高学年の小学生は塾に行っていた人も何人か居たらしいがな。
だから、低学年で英語を喋れたら、クラスでヒーローになれるだろうな。
そして、その大川君には2つ上のお姉さんが居たんだ、そのお姉さんは英語の塾に行っていた。と、いうことは?
もうわかっただろう。そのお姉さんが、大川君に英語を教えたんだ。
そして次の日、その事件が起こった。英語を教えてもらった大川君は調子に乗ったのか、英語を知ってる自分を特別だと勘違いしたのか、事もあろうに自分は「帝王」だとクラスで言い始めたんだ。」
そして草村は、コップに入ったジュースを一気に飲み干すと、自ら回想シーンに入って行った。
大川「おはよう!家守(草村母)、森林(緑母)今日から僕の事は「てーおー」と呼んでくれ。」
家守(草村母)「てーおー?」
森林(緑母)「なにそれ、変なの。」
大川「なんだお前ら、知らないのかよ、英語だよ、英語。イニシャルって言うんだ。」
家守「え~?!大川君、英語わかるの?!スゴい~。」
森林「イニシャルって?」
大川「アメリカでは、自分の名前を言う時は、まず名前を言って、つぎに苗字を言うんだ。「哲也大川」ってね。そして、その名前と苗字の最初の文字を言うのがイニシャルなんだ。」
森林「スゴい~、大川君尊敬しちゃう。」
大川「アハハ、大したことないよ、このくらい。
だから、テツヤ オオカワで「てーおー」、家守は「ヤモリ スミカ」だから「すーやー」で、森林は「モリバヤシ コズエ」だから「こーもー」がお前らのイニシャルなんだ。」
大川君は、どや顔でイニシャルの話をした。そして、その話は瞬く間にクラス中に広まった。
「??????ちょっ、ちょっといいか?草村。 」
草村の話を止めたのは風見だった。と同時に話を聞いていた全員が顔を見あわせた。
「なんだ風見、これからが話のオチなのに。」
「いやいやいや、その話のオチはここにいる全員がわかってると思うぞ。その大川君は、もしかしてバカなのか?お姉さんにウソを教えられたんじゃないか?」
「そんなことはないぞ風見、大川君は真面目で素直な子だったらしいぞ。
大川君のお姉さんも真面目だったらしいからな。
ただ、偶然のイタズラというか、岡山県ならではの偶然というか、いろんな要素が重なって、大川君の悲劇は起きたんだ。」
「大川君の悲劇?」
「いろんな要素?」
憂樹と清美が、首を傾げながら草村に尋ねた。
「大川君のお姉さんは、ちゃんとした発音を教えたんだ。「T(ティー)、O(オー)」ってな。
「それがなんで「てーおー」になっちゃったの?」
今まで静かに話を聞いていた、香が口を開いた。
「それはだな、お姉さんはちゃんと紙にローマ字を書いて「TETSUYA.OKAWA」名前と苗字の最初の文字と言ったんだ。だから、「ティー、オー」と発音したにも関わらず、大川君には「てーおー」と聞こえたんだ。もともと「大川」の「おー」と「OKAWA」の「オー」は同じ発音だからな。しかも、お婆さんの「てーてーてー」とかもよく聞いていたから、「てー」は身近な存在だったんだろう。さらに親も「てーおー」と発音してる大川君を誉めらたらしいんだ。」
「え~?なんで間違ってるのに誉められたの?親なら間違ってるときはビシッと言わなきゃ。」
憂樹がチョップの真似事をしながら言った。
「まあ、今の時代は間違いに気づくかも知れないが、英語の「英」の字も知らない小学生がいきなり英語を言ったんだ、「ティー」の発音が出来なくても不思議はないだろ。」
「それは、まあ、そうだけど。たしかに今でも幼稚園児が「T」を「てー」って言っても違和感ないかもな。」
風見が納得したように頷いた。
「それから大川君はどうなったの?いくらなんでも間違ったままって事はないでしょ?」
清美が心配そうに聞いてきた。
「さすがだな、水川さんの言う通りだ。いくら英語を習ってない小学生でも、クラスの中には何人か、お兄さんやお姉さんが居て「イニシャル」を知ってる奴は居るもんだ。
だから、大川君の話も、あっという間に広がって、あっという間に間違いに気付いてしまったんだ。どや顔だった大川君も恥ずかしさのあまり、真っ赤になって、その日はずっと下を向いていたらしいんだ。そして次の日から学校に来なくなり、何日か経って転校したんだと……。」
草村の話が終わると、部屋の中が重苦しい空気になった。そして、その重苦しい空気をはね除けるように口を開いたのは、また草村だった。
「と、言うのはジョーダンだがな。」
「え!?」
「え?」
「え?!」
「え~??」
全員、一斉に草村を見た。
「ジョーダンって、どこからどこまでが作り話なんだ?まさか全部って事はないよな?」
風見が睨むように草村を見た。
「アハハ、まさか~、いくら私でも、こんな面白い話を思いつかないぞ。
あっという間に広がって、あっという間に間違いに気付いたまでは本当だ。でも間違いだからといって、誰も大川君を責めたりはしなかった。まあ、からかう奴は居たみたいだかな。でも逆に、大川君的イニシャルが面白いと、学校中で流行ったんだ。
それで大川君は、一躍ヒーローになったとさ。」
「それから?それから?」
憂樹が夢中になって聞いてきた。
「それからは学校で大川君の名前を知らない生徒は居ないぐらい人気者になったそうじゃ…………
と、言いたい所だが、実は大川君、4年生になる前に父親の仕事の都合で転校してしまったんだ。それからは私の母親も何十年も会ってなかったんだと。」
草村は風見をチラッ見て話を終えた。
「へ~、そうなんだ。と、いうことは、大川君的イニシャルでいうと、あたしは「ゆうき・かみなり」だから、「ゆーかー」で、友生は「ともき・かみじ」だから、「とーかー」そんでもって風見君は「しょう・かざみ」で「しーかー」、水川さんが「きよみ・みずかわ」で「きーみー」、香ちゃんが「かおり・はなさき」で「かーはー」、氷河君が「とおる・ひょうが」で「とーひー」、最後に草村さんが「いくえ・くさむら」で「いーくー」っと。」
憂樹はノートに全員のイニシャル?を書き出した。
「ちょ、ちょっと、なにメモしてるのよ!」
清美がノートを奪い取ろうとしたが、憂樹はすぐにノートを抱き抱え後ろを向いた。
「だって~、面白いんだもん。これって、あたし達だけの暗号にしない?
もし、誰にも知られずにみんなを探すときに便利でしょ。「きーみー!どこ~?」って。」
「やめてよ、恥ずかしい。ていうか、なんで私が迷子になってるのよ!」
「まあ、まあ、お前ら落ち着けって。」
風見が憂樹と清美の間に割って入った。
「ところで草村、この大川君が、これから作る「ご当地ヒーロー」のモデルだったんだよな?
ど~も、ヒーローっぽくない気がするんだが。」
「わかってないな、風見は。この大川君的イニシャルの話があったからこそ、ご当地ヒーロー「超蓮人TTT」の話が出来たんだ。大川君が強かろうが弱かろう、頭が良かろうが、バカだろうが、関係ないんだ。」
そう言い切った草村に憂樹が反論した。
「違うよ、大川君は学校中のヒーローになったんだよ。大川君的イニシャルのおかげで。もう大川君は、あたしのヒーローでもあるんだから。」
「なに言ってんだか…」
清美がタメ息まじりに呟いた。
「あ!それから、夏休みに岡山に行こうと思ってるんだが、出来ればみんなにも来てほしい。撮影もしたいしな。一週間ほど母親の実家に泊まり込みなんだが、どうかな?」
草村には珍しく下手に出てみんなに聞いた。
「う~ん、お母さんに聞いてみないとわからないわ。」
清美は本心では行きたかった、風見と一週間、同じ屋根の下に居られると思うと、つい顔がにやけるのであった。
「あたし達はオッケーだよ。ね~、友生。 」
憂樹が友生の肩を抱きながら言った。
「また、勝手に決めて…一応親に聞いてみないと。」
「まあ、無理なら無理で構わないぞ、背景だけでも撮影出来れば、あとはなんとかなるからな。でも、一応ご当地グルメのヒーローだから、ご当地グルメは食べまくるつもりだ。下津井のタコは絶品らしいし、瀬戸内の海には「ママカリ」という魚がいて、その名前の由来が、その魚があまりにも美味しくて、家のご飯が無くなり、隣の家にマンマ(ご飯)をカリに(借りに)行くことからマンマカリ「ママカリ」になったらしいからな。
他にも、B級グルメでベスト3に入った「蒜山焼そば」「ホルモンうどん」も食べたいな。
あとデザートは、桃とマスカットってとこか。まあ、来れなかった奴には後でタップリと感想を聞かせてやるから、心配はしないでいいぞ。」
草村が満面の笑顔で話した。すると風見が、
「お前、本当にイジワルだな。そんな話をされてここにいるメンバーが我慢出来ると思うか?」
憂樹がヨダレを垂らしてる顔を見ながら言った。
「詳しい事は決まったら連絡するから、この話は置いといて、さて次は肝心の配役の話をしようか。」
そう言うと、草村は机の引き出しから、マル秘と書かれたプリントを取り出した。
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