第16話

緑のエーサク 〔森の中の緑〕編



前編〔光の魔術師〕



木々野緑、この物語の主人公である。

身長170㎝の長身に体重56というスレンダーな身体に、トレードマークのポニーテールがよく似合う、知る人ぞ知る、ここ「緑野山高校」3年、現生徒会会長である。


今やトレードマークともいえるポニーテールや男勝りの性格、活発な印象は、すべてあの日を境目に始まったのであった。



話は2年前の入学式までさかのぼる。



入学式当日、三つ編みのお下げ髪、黒ぶちのメガネ、文学少女定番の姿の緑がそこにいた。

そう、彼女は高校に入るまでは、本と映画が大好きな自他ともに認める、文学少女だったのだ。


中学時代の彼女をよく知る、後輩に話を聞いてみた。


(プライバシー保護のため、映像を加工しております。)


「え?緑姉?そうそう、高校に入って別人みたいになっちゃった。中学の時は物静かで、よく映画につれて行ってもらってんだ。まさか生徒会に入って会長になるなんて、あれが高校デビューっていうのかな。」


遠くの方から、


「友生~!なにしてんの~!!2人共、どこか行っちゃうよ~!」


(作者)「あ…」


「もう、憂稀ったら、大声で恥ずかしい…、もういいですか?ちょっと急いでいるので。」


(作者)「あ、ありがとうございました…」


さて、話を戻そう。と言う具合に、緑は高校に入って今のような人物に変化したのだ。それはなぜか?その答えは部活動にあった。


緑は父親の影響もあってか映画が大好きだった。

よく父親について映画を見に行っていた。そして、いつしか女優に憧れるようになっていった。

しかし、憧れる反面、自分の引っ込み思案な性格、容姿などをわかってる緑は、誰にも言わず諦めていた。


高校に入り、部活動紹介の時、1本の映画が緑の瞳に飛び込んで来た。

それは映画というより映像に近かった。映画研究会の紹介だったのだが、セリフもなく、ただ森の中を撮っていた映像だった。

しかし、光の使い方が抜群に上手かった。計算しつくされた光量、角度、影の長さ、色など、自然の光を上手く使い、まるで木や草花が会話してるような錯覚に陥った。

一瞬で心を奪われた緑は、不覚にも諦めていた夢が蘇って来た。


「この人が撮る映画に、ほんの少しでもいいから出たい…」


緑は、迷うことなく「映画研究会」の扉を叩いた。


その映像を撮った人物こそ緑の運命を変えた

「森野 洋成」その人である。

緑が見た映像は、彼が高校生1年の時に、ある世界的なコンテストに出した物だったが、最年少ながら審査員特別賞を取った映像だったのだ。

そして森野はその業界では「若き光の魔術師」と呼ばれるようになっていた。


森野の映像に惚れ込み、映研に入る者も数多くいたが、あまりにも光に対してストイックな為、なかなか撮影が進まず、森野が卒業するまで完成した作品は1つもなく、いつしか森野は生徒の間で「光の魔術師」から「未完の森野」と言われるようになっていた。


それもそのはずである。森野がコンテストに出した映像は、15分の映像に対して中学3年間、高校1年間、計4年をかけて撮っていたのだった。


 ここで、その2人をよく知る後輩に話を聞いてみた。


「ああ、緑先輩と森野先輩のことか、よく知ってるよ。緑先輩のお母さんと私の母親は高校の同級生だったからな。 森野先輩は親父の仕事でまたに会ってたな。今はアメリカにいると聞いているが。

知ってるか?緑先輩はスレンダーに見えてもDカップあるんだぜ。それをきつめのスポーツブラで小さくしてるんだ。そっちの方が男女共に受けがいいんだとさ。涙ぐましい努力じゃないか。」


(作者)なんで緑さんは、そんな事を?



「それはだな・・・あ、ちょっと待て。」


彼女の目線の先にアベックが走ってきた。


「水川、待てって !」


その様子を見た彼女は、


「悪い、おもしろい・・いや、急ぎの用事が出来た。ここで失礼する。」


そう言い残し、彼女は2人の後を追った。



そして緑は映研に入部したのだが、緑の希望は叶う事なく、森野は高校を卒業し、アメリカに渡って行った・・・・












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