原色ばかりが強い古い洋画を見ているような、そんな錯覚を覚えます。
主人公の男は、学ぶ機会のない、意志も強くないし正義感のような、所謂「主人公らしさ」は何もありません。
機会があったという理由だけで犯罪に手を染め、そして騙され、命を繋ぐという悪運だけで辛うじて生き残っている、そんな男です。
生き方も衝動的で、後のことなど考えないか考えても浅いところしか至っておらず、当然のように追い出され痛めつけられる。
都合の良い展開どころか、都合の悪い展開ばかりです。
でも、それが人間性を剥き出しにして突き付けてくるようで、そのどうしようもない生き方の先を見たくて、読み進めてしまう。
そんな作品です。
エンタメとしては是非にとお勧めは出来ませんが、人間の弱く愚かな、それでもどこか惹かれてしまう一面を垣間見たい、そんな方は読んでみてはいかがでしょうか?
主人公は善人か、悪人か、何を目的としているのか。
小説を書く時にまず考える人物造形。
そうした作為をこの作品からはあまり感じられない。
言うなれば主人公は「人間」である。
光が当たれば影ができ、夜闇の底から月を探す、当たり前の人間。
主人公ラウロは運の悪い男だった。
幼少期から犯罪に巻き込まれ、悪化の一途を辿る転落人生。
この物語も、墓泥棒に加担しようとする彼の姿から描写が始まる。
やめておいた方がいい、と善良な人間なら思うだろう。
それでも彼はやる。他に生きる手段がないのだ。
そういう人間が昔、確かに生きていて、今もどこかに存在するのではないか。
時空と場所を超えて、手触りや匂いまで伴って、そんな感覚をもたらしてくれる、臨場感に満ちた作品である。
単に異国情緒を楽しむだけでもお薦めだけれど、キラキラした観光地は出てこないので、旅行ガイドを求める向きはご用心。
悪の連鎖に囚われ、泥に塗れながら生きる人間が、それでも何かを掴もうと立ち上がることがあるのか。
強烈な光と影に翻弄されて生きる、複雑な人間の在り様に興味を抱かれる方には、ぜひご一読をお薦めしたい。
何から何まですばらしいのだが、まずこれほどの内容をこの短さに凝縮している技巧に驚嘆せずにはいられない。純度を高めた稀代の蒸留酒のよう。血の色を思わせるルビーは、主人公ラウロの運命を定めるキー・アイテムとして登場し、人の世の悲しさと残酷さを物語る。
ラウロは悪党なのだが、邪悪には染まりきれないところがある。もとより悪党になりたくてなったわけではなく、過酷な生い立ちと環境が彼を今の彼たらしめているのだ。そのような彼がどのような結末を迎えるというのか、いつしか祈るような思いで物語を追っている自分に気がついた。
何ともリアルな語り口で、白い、まぶしいシチリア島の日差しのなかに自分も佇んでいるようで、その乾いた熱さえ感じられる筆致。ラストは秀逸というほかない。
この、ラスト・シーン。まさに珠玉。胸を震わせる感動が、長く私を痺れさせた。
星が3つしか付けられないのが残念である。この百倍か千倍は付けさせていただきたかった。
中世のシチリア島を舞台にしたミステリです。
太陽の光が降り注ぐ眩しい島のイメージとは裏腹に、ここでうごめくのは犯罪に手を染めた人間のどす黒い欲と業。
底辺で暮らしてきた若者の必死で泥臭い生きざま。
明るく強い光が刺すほどに濃くなるような心の暗闇、その陰陽のコントラストがこのシチリアという舞台に映えます。
淡々と低めのトーンで語られる描写にも中世の匂いが濃く漂い、重みのあるリアリティを感じます。ミステリ展開のみならず、この時代のイタリアの風俗や社会を写し取った臨場感ある部分も読みどころです。
主人公が盗んだルビーは、果たして彼にどんな人生をもたらすのか。
渋い後味を残すラストシーンまでその行方を追ってみて下さい。
たとえばホープ・ダイヤモンドの如く、あるべき場所から動かされるたびに、不幸を招き、死を呼ぶ。そう、それこそに、人は魅了される。悪人であればあるほどに。
悪党や小悪党や凡人。
赤い宝石に向かって、囲んで手を伸ばすように、幾人もの行動や言動が重なる。あっちこっちに所有されながら、その周囲に災難を散りばめさせる。関係無関係を問わず。
そして、波乱を呼ぶ。
文學表現の鮮やかさ、言い回しや言葉の選択に見える作者の教養深さが魅力的。
物語を描く。
文章を書く。
どちらにも秀でておられます。
美しいワインは色だけでなく、香りも、味も、極上なのですよね。
この作品の舞台となっているシチリア島には、世界でも有数の活火山として知られているエトナ火山がある。作中のキーアイテムとして出てくるルビーの指輪には、この火山の神が遣わした使者のようにも見えた。
ルビーの指輪を求めて争う者たちの心の中。欲望まみれかと思いきや、ふとした時に見せる優しさや孤独から解放されたい気持ちも描かれていて、読んでいて不思議と心地良い気分になってくる。特に、ラウロと呼ばれる主人公は、その時代の人間臭さというか、狡賢さと弱さが上手く出ていて、話を追うごとに味方したい気持ちになってしまう。
心地良いタイミングで完結となっているが、エトナの神がルビーの指輪を再び遣わして、新たに人類へ与える試練なんかも期待したくなる作品です☆
中世という舞台設定から、何やらファンタジックな感じを受けて読み始めましたが、そんな優しい感じは一切なく、生きる事に執着する主人公の周囲で起こる悪意の連鎖が凄まじかったです。
人間の本音の部分を書いておられるのだなと感じました。
ラスト近くで主人公の心情が若干変化するのですが、それすら普通に生きていると誰にでも起こりうる変化であり、彼が特別な人間だと示唆する物ではありません。
これからも主人公は自分の思うまま生き続けて行く。
それだけなのだ、人とはそういうものなのだというメッセージが隠されている気がしてなりません。
こういう設定の物語、大好きなので凄く面白かったです!
イタリアにあるシチリア島。時代は現代ではなく古い設定で描かれています。奴隷商人が普通にいる時代です。
主人公であるラウロが墓荒しをするシーンから始まります。物語は進行に緊迫感があり読み耽ってしまう面白さ。裏切りや野蛮な行為が主人公を容赦なく襲います。墓荒しという悪行をしているラウロ。彼もまた生きる為に必死です。
私は読んでいて、いつ主人公が死んでしまうのかハラハラしました。それほど淡々と物語は展開していきます。癖になる面白さです。
そして、なんと言っても主人公の悪運の強さと、天に見捨てられたかのような運の悪さ。それに彼の性格が加わり独特なストーリーが展開されます。
これほどまで、おどろおどろしい世界感を描いているのにラストの清々しさは一読の価値あり。
本作は詩・童話・その他に分類されていますが
確かにミステリーでもあり、歴史・時代・伝記っぽくもあり
最後に恋愛要素まで入って来るので、分類が難しいです。
舞台は中世のイタリア、泥棒稼業に身を置くラウロという男が主人公
このラウロがどう見ても泥棒には向いていない人物。
運がいいのか悪いのか、とにかくラウロの人生は行き当たりばったりです。
大司教の墓から奪った赤いルビーの指輪を巡って、いろんな人生ドラマが展開されますが、
最後には真っ当に洗濯されたラウロに読者は安堵することだと思います。
今の題名が『シチリア島奇譚(仮)』なのですが、
もう(仮)のままで表したほうがラウロの人生そのものじゃないかと
思ったりもしています。
放っておけない愛すべき悪人、ラウロの物語、面白かったです。