中世シチリアの乾いた闇から、男は立ち上がるのか。
- ★★★ Excellent!!!
主人公は善人か、悪人か、何を目的としているのか。
小説を書く時にまず考える人物造形。
そうした作為をこの作品からはあまり感じられない。
言うなれば主人公は「人間」である。
光が当たれば影ができ、夜闇の底から月を探す、当たり前の人間。
主人公ラウロは運の悪い男だった。
幼少期から犯罪に巻き込まれ、悪化の一途を辿る転落人生。
この物語も、墓泥棒に加担しようとする彼の姿から描写が始まる。
やめておいた方がいい、と善良な人間なら思うだろう。
それでも彼はやる。他に生きる手段がないのだ。
そういう人間が昔、確かに生きていて、今もどこかに存在するのではないか。
時空と場所を超えて、手触りや匂いまで伴って、そんな感覚をもたらしてくれる、臨場感に満ちた作品である。
単に異国情緒を楽しむだけでもお薦めだけれど、キラキラした観光地は出てこないので、旅行ガイドを求める向きはご用心。
悪の連鎖に囚われ、泥に塗れながら生きる人間が、それでも何かを掴もうと立ち上がることがあるのか。
強烈な光と影に翻弄されて生きる、複雑な人間の在り様に興味を抱かれる方には、ぜひご一読をお薦めしたい。