ひたひたと胸を満たすこの余韻。まさに人生の深みそのもの。

 何から何まですばらしいのだが、まずこれほどの内容をこの短さに凝縮している技巧に驚嘆せずにはいられない。純度を高めた稀代の蒸留酒のよう。血の色を思わせるルビーは、主人公ラウロの運命を定めるキー・アイテムとして登場し、人の世の悲しさと残酷さを物語る。
 ラウロは悪党なのだが、邪悪には染まりきれないところがある。もとより悪党になりたくてなったわけではなく、過酷な生い立ちと環境が彼を今の彼たらしめているのだ。そのような彼がどのような結末を迎えるというのか、いつしか祈るような思いで物語を追っている自分に気がついた。
 何ともリアルな語り口で、白い、まぶしいシチリア島の日差しのなかに自分も佇んでいるようで、その乾いた熱さえ感じられる筆致。ラストは秀逸というほかない。

 この、ラスト・シーン。まさに珠玉。胸を震わせる感動が、長く私を痺れさせた。

 星が3つしか付けられないのが残念である。この百倍か千倍は付けさせていただきたかった。

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