12 招き寄せる力
車に乗り込んだ僕は、どうしようかと本気で悩む。
先輩は、知り合いにでも聞け的なこといってたけど、あの大学に通ってる知人なんて一人もいないし、そもそも僕、友達いないからなぁ。
高校の同級生で、いつもボッチな僕をやたら気にかけてくれてたお節介委員長なら、顔広そうだし、そういう知り合いもいるかも。
彼にメールを送ろうとし、その手を止めた。
ダメだっ。
いつも彼からのお誘いを既読スルーしてるのに、こんなときだけ頼ろうとするなんてよくない。
とりあえず、学校まで行ってみようか。
僕は車を発進させた。
さすがに大学の駐車場へ停めるわけにもいかないから、近くのスーパーに停めさせてもらって、そこから歩いて行くのがいいかな。
でも、まだ早いし、お店開いてなかったりして。
そんなことを考えていたら、うっかりスーパーの前を通りすぎてしまった。
あー、くっそー、やっちまった。
仕方ないので直進し、一旦国道へ出て引き返そうとしたとき、何かの強い思念を感じた。
それはほんの一瞬だったけど、今でも胸がざわざわとする。
僕は、目についたコンビニの駐車場へ車を停めた。
僕には生まれ付き、人には感じられない何かを感じてしまう力がある。
それは、僕の意思とは関係なく一方的に訪れるもので、何かの声が聞こえたり、時にはその姿を見てしまうこともあった。
子供の頃はそれが普通だと思っていて、見聞きしたものを人に話し、家族からも薄気味悪がられていたけど、今ではそれが異常だってちゃんとわかっている。
そして、そう認識するようになってからは、そういったものの存在を意識的に無視するよう努めてきた。
そのお陰か、それとも成長によるものか、そういう感覚は年々鈍くなってきたけど、完全に閉じたわけではないし、それに、無視すればするほど余計に構ってくるものもある。
僕が先生と出会ったのも、そういうヤツらに襲われていたときだ。
そのとき、先生はいった。
あなたの力はとても素晴らしいもので、訓練すれば人のために役立てることも出来ると。
だから、僕は高校卒業と同時に、先生の元へ弟子入りしたんだ。
さっき感じたのも、そういった人ならざるものの思念だった。
今は感じないところをみると、あのときたまたま波長が合ったのだろう。
精神に乱れがあるときに、感じやすいみたいだし。
でも、あれは何だったんだ?
強い怒りであり、深い哀しみでもあり、戸惑い、不安、後悔、嫌悪に憎悪。
あらゆる負の感情が、ぐるぐると渦巻いていた。
あれが、勾玉の邪気?
それとも、それを追っていったという『ごりょうさん』の想い?
呼び掛けたら、応えてくれるだろうか。
僕には、波長が合う存在を、善悪問わず招き寄せる力もあるらしいから、この感覚が残っているうちに呼び寄かけてみれば――。
一瞬とはいえ、波長は合ったんだ。
地道に探すより、その方が早いかもしれない。
どこか人気のない場所で――そうだ、御霊社、あそこがいい。
自分が閉じ込められてた所へ、来てくれるかわからないけど、一か八かやってみよう。
僕は、昨日の公園に車を置き、一人で山を登った。
先輩に連絡しようかとも思ったけど、感覚が乱されそうだからやめておく。
まずはヤツを呼び出し、話をしよう。
対話に応じないなら、不動明王の力を借りて動きを封じ、それから先輩に来てもらえばいい。
大丈夫、やり方はわかる。
御霊社まで来た僕は、念のため護身法真言などをしっかり唱えてから、さっきの思念に呼び掛けた。
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