Bad animals

 鴨川署に戻ると、すっかり日暮れ、清家せいけが自販機の前のソファーにひっくり返っていた。

「いよー兵庫県代表のフランカーの清家せいけくん」

と軽く、飾磨しかまソファーの隣りに座る。

「どこへ行っていたんですが飾磨さん、ビデオの整理サボって」

「さぼって!?」

 飾磨も割り込むように腰を下ろし、清家の右側頭部を軽くフック。

「自分やっと休憩もろて休んでんのに痛いですって」

 飾磨は、そのまま清家の太い頭と首をヘッドロック。

「サボってたっての撤回しろ」

「だって、手伝うっ荒尾あらおさん言うてたのに来なかったじゃないですか」

高崎たかさき管理管から本部一課の刑事の運転手を拝命しててん」

「ほな、そう言うてくれたらいいのに、、」

 飾磨も、どかっと大きくソファに座り直す。

「ビデオの量、エグいのか」

「エグいなんて量ちゃいまっせ」

「21世紀型捜査の宿命やな」

「一期の捜査員半分ぐらいたっているんとちゃいますか」

「ふーん、ちゃんと写ってんのか」

「さー、自分が見まくったのには、あんまりしっかり写ってなかったけど、、。不審者もいなかったし」

「こういうのも、本部一課がおいしいとこ取りするんやろうな、おれが、ここの一課に入ったばかりの頃、荒尾あらおさんよう言うとったわ、おれもよう知らんけど」

「ボク、もうあのずーっとじっと座って画面見続けるの耐えられないんですよ」

「じゃあ、警官やめろよ」

「そんな」

「パチンコ屋の自転車と原チャリ整理か、景品交換所やな、外にあるとこなんか寒いなか、けっこう辛そうやぞ」

「―――警察続けます」

「えらい、えらい。みんなギリギリで警官サツカンやってんねん」

 飾磨は、そう言うと、ソファから立ち上がると。

「ほな、おれ、も手伝うかな、ちょっと観ときたいし」

 と言って、さっきまで清家が居た会議室へ、入っていった。

 冬なのに、むっとする部屋の空気。

 恐ろしい数のモニター。何十台ものPC。DVDケースの山。飾磨はちょっとからかい半分に入ってきただけなのだ。

 そして、みんな目を真っ赤にしたモニターと同じ数の刑事たち。これが一番怖い。

 所轄で土地勘がある飾磨は、全部見る必要はない。ポイントの店舗。ポイントの住所の住居だけざっとチェックする。

 苛ついてる刑事が露骨に不機嫌そうに飾磨を見る。

「所轄が何や?」

 さっと、絡んできた刑事の所属と階級をチェック。北堀川署からの応援。一期か二期だけの応援。同じ所轄。見た感じ、一課じゃない。勤続は飾磨より上。

「管理官から言われてきました」

 これで、北堀川署の刑事は、表情が変わる。

「冗談ですよ」と笑って飾磨。北堀川署の刑事の表情が露骨に変わる。

「あほ、俺と変われ、お前んところの事件ヤマやろ、写ってる通った車の車種を全部記録しろ」

「すいません、別の用事、管理官に言いつけられてますんで」

 北堀川署の刑事の表情がもう一段回険悪になるが、氷のようにもとに戻る。誰も管理官には逆らえない。

「北山通りなんかチェックしても無駄ですよ、夜中でもバンバン車走ってますから,

それに、その店のカメラ、公園のほうには死角でしょ」

 そういうと、飾磨は、首をすくめてすぐに部屋を出た。

「貴様ーっ」飾磨の後ろで怒号が飛んだ。

 しかし、DVDが一山ないことには気づいていた。管理官本部が持っていったらしい。

 北山池運動公園の東部の住宅街のDVD-RWの山がない。

 

 夕方には、捜査会議がある。接続業社や、携帯関係の証拠を取りに行った東京組が帰還するのだ。おそらく、先に高崎管理官と打ち合わせてから、飾磨らひら刑事にはまたまたA4数枚で報告される。美味しいところは本部の一課が持っていく。手柄も出世も本部の一課だけ。

 飾磨は、鴨川署の捜査一課の自分の部屋に戻ると、自分の席にどかっと座る。一課にはほとんど人居ない。ほぼ全員がこの事件にかかっていて、出払っているのだ。

 昼間、運転手を勤めたときに、くすねた、緒方美月おがたみづきの写真をポケットよリ出す。

 隣に写っている男は、木屋町の表拓人おもてたくとでは決してない。メガネをかけひ弱そう。十代後半から三十代前半まで年齢不詳タイプ。大学生タイプ。何処かで見たことのある顔立ち。飾磨はそれほど人覚えがいい方ではない。自信はない。

 緒方美月の打ち解けた笑顔のほうが気になる。幸せとはここにあるといいたいような笑顔だ。その横にいる、冴えないこの男。

「誰やねん、お前は」


Who hell are you?

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