Girls girls girls
二人は、受付に向かう。3年生から始まった、ゼミの担当教官とそのクラスの生徒には、集まってもらうよう、鴨川署から先に連絡しておいている。
そこで、聖アヴィリオス棟の203を紹介してもらいへと向かう。チリひとつ落ちていない、というわけではないが、よく大学にある、壁になんとなくのこった汚れ、壁に無秩序に貼られた公式非公式のクラブやサークルの勧誘のビラなどは、皆無。
「飾磨さん女子大ってこんなんなんですか」
ちょっと興奮した感じの清家。
「知らんちゅーの、おまえ高卒だろう」
「だから、聞いてるんですがな」
「おれも女子大入るの、始めてや」
「なんや、先、言うてくださいよめっちゃ損したわ」
「損も得もないわ、あほ」と飾磨。
理科系がないぶん、実験系の教室がないせいか、ほぼ全部が同じ教室に見える。
遅い午後、大学の最後のコマはまだあるのかもしれないが、概ね、授業は終わっているようだ。
聖アヴィリオス棟の203号室には、教官一人と幾人かの女子学生が待っていた。
飾磨と清家は、入室した。開いている椅子に適当に座ると簡単に警察手帳を見せ、唐突に話しだした。
女子大生の中には、もうしくしく泣き出している
「自分がこのゼミの担当。准教授の
飾磨は、この教官と女子学生を分けて事情徴集すべきだったと思ったが、あとで分けよう。いや、いま分けるべきか。
浮田准教授は、まぁまぁ整った顔。多くの女子学生と浮き名を流してそうだ。すでに結婚済み。全部不倫扱いになるのか?。専門は何なのだろう。警察官やティピカルなサラリーマン相手だと見た感じで経歴が色々お思いうかぶものが全く浮かばない。
給料はどれくらい?。どんな家?。下世話なことばかり気しているように思うが、こういったプライバシーを暴くのが制服警官でなく刑事の仕事。
そして、だいたいそんな下世話なことで事件はおこる。
天気などの当り障りのない話をしにきたのではない。
「学生のみなさんは、あちらの教室に行ってもらえますか、この清家刑事とともに」
そう飾磨が言うと、一番驚いていたのは、清家だった。清家ちょっとは仕事しろ、と目線で合図。
ゾロゾロ清家を先頭に女子学生が出ていく。
「唐突ですが、緒方さんは、どういった学生でしたか」
「真面目なごく普通の学生でしたよ」死んだ人をかばった。ごく普通の返答。そういった話はマスコミ相手だけで充分。こちらは聞きたくない。でもそれが世間の常識。
「このゼミでも目立った感じですか」
「そうですね、、スーパー内部じゃないから成績は良かったですね」
「スーパー内部!?」
「ああ、附属の小学校卒で中等部や高等部出身ってことですよ」
「緒方さんはそうじゃないと」
「そう、ここだけというか、みんな知っていることですが、後から試験受けて入った子ほどよく出来るんですよ、中学より、高校。高校より、大学ってね。学生もみんな知っていますよ」
「なにか、他の子と違った点はありませんでしたか?なんでもいいんです」
「まぁ、よくできましたね、頭がいいというか、要領がいいというか、ここのスーパー内部の子は受験を経てないし、他の私学と比べてもあんまり外から取らないんで、みんなぼんやりしている子が多いんですよ、卒業後も家事手伝いとかも多いし。就職活動もそんなにガツガツしてないしで、それに比べると、世慣れているというか、、、」
「まわりの学生ともちゃんとやっていましたか、打ち解けてって意味ですが、その、ゼミでも浮いてたとか、、」
「さぁ、そこまでは、私にはわかりかねますね、学生たちに直接聞いてください」
「変なことを聞きますが、誰か、浮田さん、あなたも含めてだれか、他の教員と緒方さんが関係してたとか、噂でも聞いたことはありませんか」
浮田は大笑い。
「ドラマの見過ぎですよ。そんなふうにやってたら女子大なんて成立しませんよ」
「そうですね、一応確認のため伺いますが、2月1日から、2月2日にかけての夜は、なにをされていましたか」
浮田の目に少し警戒と真剣味が加わった。
「アリバイですか?」
「他意はありません、また記憶がなくても構いません、規則で確認のため関係者全員に訊いているだけです」
「一日の晩から二日の朝って月曜日から火曜日ですよね、、普通に仕事して、家に帰って、テレビ見て、風呂入って寝ましたけど、これじゃアリバイになりませんよね」
「いや、それで結構です、お手数駆けてどうもすいませんでした、又、なにかあると違う刑事が伺うかもしれませんが、協力してください」
「いや、いやこちらこそ、教え子が殺されたわけですから、必ず犯人を逮捕してください」
それは、あんた自身でもか、飾磨は心の中で言った。
予想通り、隣の教室で清家は、にやけていただけで、世間話しか、女子大生たちとしていなかった。泣いていた学生を慰めたりしていたぐらいだ。
こいつは、京都府警から正式に減給すべきだ。で、飾磨は、清家を大学の事務室に行かせて、緒方美月の出席状況などの公的な記録を調べるように命じる。
飾磨は、冷徹に一人づつ、尋問のように部屋に呼んで訊ねることにした。大学と教室だけは、いやというほどあるし、警察の中でも交通課の次に嫌われるのが刑事の仕事だ。
最初にきた子は、ものすごく小さい
「ここでの話は、全部秘密になるんで、安心して話してね」最初は優しく言って、後から厳しく訊ねる作戦。
堀田希は、コクっとうなずくだけ。
「緒方美月さんってどんな人?」
堀田希は、無言で眉をしかめ、首を傾げる。四月から勉強してもう二月のはずだが、まだつかめていないらしい。
「緒方美月さんはよくわからない人だったのかな」
「頭いい感じ?」堀田希が答えた。語尾が上がる。これもガーリー風の演出?。
「なるほど、、」ようやく、会話成立。
「緒方さんと仲良かった?」
堀田希は、首を振る。
「そうか」堀田希はこのポイントで、緒方美月との関係のシャッターをおろしたいらしい。
「緒方さんは、誰と仲が良かったのかな?」
「誰ともって感じ?」絶対断定はしないタイプ。
「それって、あんまり緒方さんがみんなと馴染んでなかったってこと?」
しかし、ものすごい勢いで、頭を振る堀田希。自分がマズイことを言ったことに気づいたらしい。
「緒方美月さんって誰か男性と付き合ってたか知ってる?」
堀田希は、無表情でものすごい沈黙。しばらく時間が経つ。
「わからない」堀田希のものすごく小さい声。
わからないということは、緒方美月が誰かと交際をしていたことを否定する理由をも持ち合わせていないということでもある。
「最後に、これみんなに訊いているんだけど、2月1日の夜から2月2日の朝にかけて、どこでなにをしてたの?おぼえてなくてもそれでいいよ」
「おばあちゃんちかな」
「なるほど、協力ありがとう」警察は甘くない。違う刑事が違う用件で堀田希の祖母の家を尋ねウラは確実に取る。
次は、
飾磨が尋ねる前に藤原栞のほうが、先に尋ねてきた。
「美月は、苦しんだんですか?」
藤原栞は涙目で訊ねる。
「新聞やニュースで言っていた通りだと思うけど、自分らにも詳しいことは知らされてないんだ」
嘘をつくのも刑事の仕事。しかし、苦しんだかどうかは、本当に刑事でもわからない。医者も医学的な推測であってわからないだろう。
「緒方美月さんってどんな人だった」
「美月、かわいそう」それは、確実に言えるだろう。
飾磨は急に質問が浮かばなくなった。
「藤原さんはこのゼミで美月さんと一番仲良かったの?」
「そうじゃないけど」嘘泣きの疑い10%増し。
「このゼミだと誰が一番仲良かったの?」
「美月ってあんまり、誰かと仲良くするタイプじゃなかったから」
藤原栞の長い黒髪がセクシーに揺れる。
これも、少しおそれていたが、一番困るパターン。大学から受験で入ってきた学生で誰ともあまり付き合いがないパターン。
「君から見て、美月さんってどんな感じの子かな」
「かわいそう」
この質問は大失敗。減俸もの。友人の死で友人の印象のすべてが上書きされている様子。
「死ぬ前の話だけど」
藤原栞の長い沈黙。全員もう二十歳は過ぎてる、死者に対する言葉ぐらい選ぶ。しかも、相手は、近所のおばさんでなくて、京都府警の本職の刑事だ。
「美月は、強い人。頑張ってた」
おお、これは、ビンゴの情報かもしれない。
「なにに頑張ってたの?」
食い気味で重ねて訊ねる。
「いろんなことに、、」
うーん、またボヤケた。
「それって、サークルとか、クラブとかバイトとかの話かな」
「そこまでは、知りません、でもバイトはしてたかな」
「何のバイト?」
「家庭教師か、塾の講師」
「唐突で悪いんだけど、緒方美月さんが、誰かと付き合ってたとか知ってる」
藤原栞の表情が若干固くなった。しかも、答えが遅い。これは、知っている。
「知りません」
これは、嘘だ。
「その真逆で、恨まれていたとか」
「知りません」これは、早い。Aクイックの速攻。
「これは、みんなに規則で聞いているんだけど、一日の夜から2日の朝にかけてどこでなにをしてた?」
「私、
残念ながら、家族にアリバイの証言能力はない。
「捜査への協力ありがとう、、。」
窓の外を見るともう日がとっぷり暮れていた。冬の日暮れは早い。
次の彼女がゼミの最後の一人だった。
一言、気が強そう。美人とはいえない器量は万人並。どことなく清潔感はある。年上や教師にも間違っていることは、きっちり言うタイプ。同性に好かれるタイプだろうか。
ただし、正直かどうかはわからない。きっちりしているだけに緒方美月の名誉と嘘を守る方にきっちりするかもしれない。
予断は許されない。
「こんにちは」
長井麻樹はあいさつから入ってきた。飾磨は虚を突かれる。
「こんにちは」
飾磨も、少し疲れてきて、話が直截になってきた。
「君なりに、緒方美月さんを説明してくれる?」
「どういう意味ですか?」
「どんな人だったか、今警察も調べているんだよ、助けてほしいなって思って」
「人なんて、説明できないしょ」
「そうだね、でも、君が感じたというか、見た緒方美月さんって、どんな感じの人なのかなって思っててね」
鋭かった長井麻紀の目が少し穏やかになった。
「ズルい人でした」
うん!?。要領がいいとズルいはダブる。よく言うか、悪く言うかの違いだ。
「ズルいって、例えば」
「具体的にはいいたくありません」
これは、任意の事情徴集だ。いいたくないってことは、知っているってことだ。
「なにか、誰かが被害を受けたとか」
この質問は今日一番のヒットだったかもしれない。
さぁ、答えてくれ。頼む。
「全てをめちゃくちゃにしました」
「ずべてって、」
「人間関係です」
「男女の?」
「こんなこといいたくないけど美月は嘘ばっかりついていました」
「例えば」
「具体的には、いえないけど、私には、分かるんです。嘘、嘘、嘘ばっかり」
しかし人間とは、そういうもんだ。飾磨自身も嘘ばかりついて生きてきた。
親への嘘から、始まり。友人への嘘。教師への嘘。上司への嘘。そして常に一番落ち込む自分への嘘。
「私が言って絶対言わないでくださいよ」
「ああぁ、秘密は絶対に守る、約束する」
「美月は色んな人と付き合ってました。手玉にとってっていうか、とっかえひっかえ私達にも、そのたびに嘘ばっりついていました。前はそんなじゃなかったけど」
長井麻紀にもアリバイはなかった。
「具体的に誰かと付き合いだして、変わったってこと?」
「たっくんって人です、
Don't blame to anybody.
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