Wake me up before you go go.

 飾磨翔馬しかましょうまは鴨川署の捜査一課の刑事。階級は巡査部長。捜査一課とはいへ所轄はどんなに頑張っても所詮府警本部の使いっ走り。どこにでも居る嫌な奴。自治会、近所、嫁にも嫌われた。中肉中背。おっさん。30代後半。大卒。離婚歴あり。子供は、一女一男。親権は妻へ。高額の養育費を支払い中。職場では大卒高卒はほぼ関係なし。離婚歴は警察官としては勲章。仕事熱心な結果。但し、人事評価には疑問が点がつく。女を上手く扱えないやつ。切れやすい奴。人生破綻者。離婚理由の推測は容易。だれも触れないし、飾磨も詳しい経緯は言わない。養育費の額も不明。どうせみんな職場の給料は同じ。これも推測は容易。ただし、離婚の話を持ち出したやつは確実にボコる。これ男の掟。スキなスポーツは子供の頃は、野球。生粋の阪神ファン。関西で阪神ファン以外ありえない。好きな選手は新庄、久慈、遠山。三流大学に行って、アメフトと出会う。そして恐怖のエッジラッシャーとしてDEデフェンス・エンドで2回生よりスターター。三部リーグのサック王を三年間務める。これリーグの記録にして、部の創設以来の記録。寿司は回転寿司、焼肉は食べ放題で充分。ワインは南米産の一瓶400円以下、ウィスキーを一気飲み。焼酎は嫌い。アル中一直線。公務員としての警察官を選んだが、刑事になったのが、人生の大失敗。そのため離婚。後悔、死ぬほど。現在警察業務はあくまでも仕事と割り切る。組織としての警察を憎んでいるタイプ。

 配られた携帯でいつもより早く起こされ、ボロボロの公務員宿舎から飯も食わず、昨晩買ったコンビニのペットボトルの烏龍茶を飲むだけで、鴨川署へ直行。徒歩10分。

 鴨川署は、近々、繁華街に近い、二条署に吸収合併される形で廃止になる。府警内の予算の事情。もしくは、知事、府議会の都合。飾磨に関わり一切なし。

 大きな事件らしい。 署への刑事の集まる人数でわかる。

 機動鑑識班はもう臨場してていて、鋭意証拠採取中。

 署内で一番大きな会議室には、ホワイトボード。大量の机、大量のパイプ椅子。大量のポッド。大量の粉末コーヒー。大量の宇治茶のティーバッグ。どちらも量販店の激安特価品。そして人ではなく物としての大量の刑事。

 捜査の指揮をとるのは、府警本部捜査一課の高崎たかさき管理官。もう五十手前。ノンキャリア叩き上げ。超真面目。階級は警部。長身。短髪。太眉。ひげの剃り跡でヤスリがけ可能。将来、上手くいけば、ノンキャリアの目標としてど田舎のC級の署長になれるかどうか。誰にも内面を探らせない城壁を心に築く。まさに万里の長城。飾磨は、警察官になりたてのころ、南丹の花園署でこの高崎と勤務したことがあるが、飾磨にはほとんど高崎の記憶がない。最初の任務地、経ヶ岬あたりから快速列車ぐらいで京都市内へ帰ってきた男。まさにタイトルどおり寒い国からきたスパイ。だれとも付き合わず、ヤバイ話もなし。目立たずコツコツ、昇進試験を受けるタイプ。仕事一本で警察官の鏡。誰も見てないところで容疑者を殴るタイプ。そしてだれにも知られないうちに出世するタイプ。好きなスポーツは柔道。どんな活躍をしたかは誰にも不明。年に一回の全日本柔道選手権大会が心の支え。

 会議室の中にコーヒーとお茶と成人男性の悪習が立ち込める。シェーブローションに男性用コロン。安シャンプー。車の芳香剤。みんな同じ給料、みんな同じ匂い。全てにうんざり。

「捜査は、ごく初期の聞き込みが全てだ、全員その点に留意して取り組んで欲しい」

 捜査は、初動がほぼすべて。これ鉄則。だれも二週間前の水曜日ことなど覚えていない。先週の水曜日ですら怪しい。人の記憶など一昨日の夜ぐらいが精一杯。みんな自分のことで精一杯。飾磨も同じ。高崎管理官ですら同じ

「これより、聞き込みの担当の割当を発表する、、、」

 ようやく、おっとり刀で鴨川署の署長、大園おおぞの署長が会議室にはいってきた。 みかけは、どこにでもいる親父。これまたノンキャリア組。悲しき地方採用。市バスで終点まで座っているタイプ。一生京都から出られないタイプ。又出ようとも思っていない。署長にまで慣れれば御の字。家族は一見円満だが、子どもは大学まで鉄拳で制裁し家族全員には密告を推奨し超圧政を施くタイプ。大園本人自身が親に他人さまから給料もらうまでずーっと殴られてきたタイプ。頑固な巨人ファン。好きな外野手は高田繁。

 しかし、それにしても大園の到着は遅い。捜査の事実上の指揮は高崎管理官が取るが、建前は、大園署長が捜査本部長となる。

 なぜなら、偉いから。長たるもの、どこの世界でも偉い人間が担当しなければならない。 しかし、名義貸しだけで、なにもしない。記者発表の時、重しとして座っているだけ。

「以上、それでは、各自取りかかって欲しい」

「おう」とも、無言のため息ともとれる返答で、云十人の刑事たちが立ち上がり、会議室をおっさん臭とともに入って来た時と同じように出て行く。 

 飾磨のパートナーは清家宏和せいけひろかず高卒。階級は、巡査。典型的体育会系。未婚。大男にしてマッチョ・デブ。常時食べてる。加齢と職務のキャリアに比例して体重増加中。近接格闘なら最強。元ラグビー部、ポジションはロックならびにフランカー、但し過去形。でも、どうやってもナンバー8エイトになれないタイプ。ラグビーでは国体の兵庫県選抜だったのが自慢。ただし、県の選抜チームでは不動の控え、それは公然の秘密にして永遠の心の傷。今は完全にプロップの体型。酒は安焼酎を冷蔵庫にリットル単位で常にキープしているタイプ。こんな男がどうして刑事になれたのか京都府警の七不思議。オリックス、ファン。好きな選手は福本豊に糸井嘉男。阪急電車で通勤、上桂在住。一応飾磨の後輩。警察で縦関係は最重要事項。要領が悪く報告書が遅いタイプ。普段はよく喋るが、言語による現場での問題処理能力ゼロ。現場ではほとんど弾除けか捜査対象、尋問対象への威圧、圧倒が専門。飾磨は人事評価として警備課SP転属を強く推薦す。

「飾磨さん、いきましょか」

 言われなくても飾磨は行く。


Just go fo' broke.

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