Talk is cheap shut up and dance
その日の夕方の、捜査会議は長くなりそうだった。そして荒れそうだった。
ついでに、
一応、この会議で初動捜査での全ての証拠がこの鴨川署で一番大きな会議室のここ捜査本部に集まったことになる。
またもや、配られるクリップで纏められたA4の異様な束。庶務の女性警官が宇治茶のティーバッグとともに、配って回る。
資料を配布する女性警官に対し。
「なみちゃん、結婚して綺麗なったん違う、妊娠したし?」と
さすが、女性警官、そのレベルのセクハラに動じる”なみちゃん”ではない。
荒尾は相変わらず、定番の
壇上には、府警本部捜査一課一班班長、高崎管理官と、いつも土気色で顔色の悪い大園鴨川署署長。そして、ホワイトボードに、プロジェクター。
「全部。目を通すのは、大変だろうが、一応、全部読んで欲しい」と高崎管理官。
「今日は、自分で読まへんのかいな」と小さい声で荒尾。
「歳取るとちーちゃい字は大変やわ」とも荒尾。
一期で集まれた刑事内々でもう噂になっていることが、公式に纏められて書かれているだけと思ってもまちがいではない。
只の、刑事同士の内輪でのミスがおこらないようにするための、情報共有化。だれでもどの組織でもする。
多少、本音と建前はあるだろうが。
高崎は、かいつまんで、ホワイトボードを使って、説明しだした。学校のHRのように書記役の女性警官までいる。
「被害者は、
不思議と荒尾が茶々を入れない。
「真冬に薄手の服装で外套を着用していなかったことからいって、
「殴られて、ふらふら歩いてきたかもしれんぞ」と荒尾の茶々。なら緒方美月はゾンビだ。
高崎は無視し続ける。
「鑑識によると、該当地域はタイル張りになっており、、又。一昨日、当該運動公園少年野球の試合が行われており、特別な足跡、その他、特別な遺留物はみつからなかったそうだ」
ここで、少し、高崎管理官は間を置いた。
壇上では、大型プロジェクターが用意され、別紙で動画を静止画に書き出した別紙のA4の束が刑事たちに回された。
「先に、防犯カメラの方から、やりたい」と高崎。
「結論から先に言うと、あんまり芳しくない」
刑事全員から自然と出るの重い溜息。
「一つは、自分自身、思い込みや勘で捜査をしたくないからだ。決定的になるような、画像映像はない、正直言って」
「一つも見せんとよう言うで」と荒尾。
「あとで、各自、全部見られるようにまとめておくが、先ずこの要旨を見て欲しい」
会議室がくらくなり。のけぞって、座っていた飾磨も少しきちっと座った。
「まず、最初に言っておくが、この遺体が遺棄されていた北山池運動公園だがもちろん防犯カメラがあったが、犯人は土地勘があるのか、もしくは
プロジェクターには、4面マルチで区切られているものの、白黒舗装道路しか写っていない画面が永遠と続く数字表示の時間の表示だけが、狂ったように回転している。早回しになっているのだ。
一様に大勢の刑事の落胆のため息。
「しかし、なんで北側の駐車場だけ防犯カメラがないんや、」と荒尾のコソコソ声。これは、高崎管理官にも聞こえている様子で、
「公園の北側には、墓地があり、そことの兼ね合いらしい」
「墓地ね」と荒尾。
「続いて、この運動公園のい西側を通り東側に抜けられる、一車線の道路があるのだが、たまたま、アパートがあり、防犯カメラがあった。その映像だが、、4台の車がその夜。およそ、通過している。この防犯カメラはアパートへの侵入者を録画するのが目的なので、道路を走る車をしっかりと撮影しきれていない」
プロジェクターに映し出された、映像も荒く、ヘッドライトが二つで辛うじて、車だと分かる程度。車種、色、ナンバー、など、判別できるレベルではない。
「続いて、運動公園の南側の細い一車線の細い道路だが、ここには、カメラがない。」
「自動車教習所や大手チェーンの紳士服販売店があるはずですが」
暗い中、だれか刑事が発言した。現・鴨川署の勤務か、元・鴨川署勤務の刑事だろう。
「なかった」高崎の声は小さい。聞き取りにくいほどだった。
「紳士服販売店の入り口しか移していなかった」普通そうなのだ。自分たちのための防犯用であって、公共のための防犯カメラではない。それを殺人事件に流用しようとしている時点ですこし警察は都合が良すぎるのだ。
この南側の細い道路の次の南の道路は、東西二車線の北山通りだ。しかし、道路二本分遺棄現場離れている。
「この北山通りには、松ケ崎駅の北口、大手レンタルDVD店TATUYA、コンビニが存在し、ありとあらゆいるものが当該時刻に撮影されているが、一人一人の認識は困難である。また、女性を連れて、帰り男性のみという組み合わせも確認されなかった以上、配布した報告書記述されているとおりだ」
集まった刑事は、読むのに忙しくて、返事や質問などほぼ出来ない。
「結局、防犯カメラはあまり役に立たなかったということやろ」荒尾が言った。高崎管理管から返事や注意がない。
まさにそのとおりなのだ。
飾磨は、ここ数年の防犯カメラに頼りっきりの捜査がそもそも好きではない。
なに自分が古いタイプの刑事というつもりもない。
ただ、定点の一箇所からしかも斜めで撮って奥行きとか不審者の身長とかいつも正確に把握できるのかと露骨に思う。
画像が白黒の場合、着衣の色、車の色、など、すべて濃い色、薄い色でしかない。
「ただ、公園の真東にあたる学生アパートの住人の一人が、車の停車音と発車音を夜中に聞いたと証言している」
色めき立つ捜査会議室全体と刑事たち。
「ビンゴや」
荒尾が声を荒げ、飾磨の座っているパイプ椅子の背を蹴った。
「しかし、該当する位置の防犯カメラには写っていない」と高崎管理官。
「えっ」と清家。
「聞き間違えか」失望のため息が部屋を覆い尽くす。
「三組で、時間、人を変え、聴取しなおしたが、証言は毎回変わった、確度はかなり低いと思われる」
何度もひつこく刑事に聞かれると、ないもの、や、聞こえないはずのものを聞く目立ちたがりの善良な市民はどの事件にもいるものだ。
普通人は、よっぽどのことがない限り、会話があれば、相槌をうちたがる。
それが人だ。
そして、何度も確かめれば確かめるほど、証言はどんどんあやふやになる。
これも、捜査のセオリー、何度も聴取を重ねればいいというものではない。
しかし、そう証言したものが居たことは確かなのだ。
「どんな車の音ですか」
飾磨が発言した。
「おい、ちゃんと手を上げてから、訊け」大園署長の制止。
「すんません」
「小型車か、軽自動車、割りと小さいエンジンの車だったと答えている」
「ドアの開閉音は」もう一度飾磨。続けて飾磨が尋ねたので、大薗署長は露骨に不満そうだ。
「聞いていないそうだ」
「もうええ、飾磨、これは、ハズレれやぞ」と荒尾。
半分以上の刑事を割いて、防犯カメラが外れなのは正直痛い。締め切った真冬とはいえ、近隣の住民が不審な音を聞いていないのも痛い。
高崎管理官が、視線を大きくめぐらし、
「おい、
「はい」
「被害者の携帯の接続状況と結果だが、平塚頼む」
「はい、」と言って、頭の良さそうな、刑事が立ち、ものすごい量のA4用紙をめくりながら話し出す。おそらく、詐欺や知能犯、経済事件などのホワイトカラー・クリミナルを扱う本部捜査二課からの
「一応、みなさんに渡した資料は通話とメールのこの一週間の全部です」
「こんなん全部目通せへんぞ」と荒尾。
清家は熱心に読んでいる。えらい、えらい。
「一応、一ヶ月分取ってきましたから、共有資料としておいておきますので、あとで、チェックしてください。なにより、気になるのは、表拓人とのLINEとメールです。複数のグループ分けがなされていて会話はほとんど私的なものですが、、」
飾磨は中谷のほうを見る。表拓人がなにかを隠していたのは、明らかだ。中谷は怒り狂ってるか、最初から、高崎管理官と折込積みで叩きにいっただけか?。
「表拓人からLINEないしメールで連絡が入ると、、暫くして、」
「緒方美月のほうから、現着の返信」
この繰り返しだ。
「なんや、これホテトル嬢の履歴か」と荒尾。
私信が主な連絡と完全に分かれていて、一つのグループは、ほぼ業務連絡と言ってもいい。
「出会い系か、売春の斡旋やな、、」と荒尾。
今度ばかりは荒尾が正しい。
「この件に関してはもう鴨川署と本部の生活安全課に通達してある」
ややこしくなってきそうだ。
「もう一回、表拓人を叩く、返答によっては、任意で署にひっぱる」
最初に、一課の中谷と表を接触させたのは、表を警戒させるだけでまちがいだったのではないか。
Stuck with it.
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