贋作・日本武尊吾妻鑑
一視信乃
贋作・日本武尊吾妻鑑(ヤマトタケルノミコトアズマカガミ)
一段
日本神話の女神さまみたいな
「僕って絶対、前世は男だったと思う」
本気なのか冗談なのか、
一人称は僕だが、れっきとした女で、しかもかなりの美少女である。
肩の上で切り
目鼻立ちの整った顔は、少年のように凛々しくもあるが、自然に色付いた頬や唇は、少女らしく愛らしい。
濃紺のジャンパースカートに白い丸
少なくとも、見た目だけは。
そう、見た目だけは。
「前世の僕は男で、それも英雄色を好む的なヤツで、女を散々
男のオレがいったら、女性
それを、日高はよく口にする。
といっても別に、女がキライというわけではなく、ただ己が女であることが、不服なのらしい。
今すぐ男になりたいのではなく、男として一から人生をやり直したい。
そのような
もしかして何かあったのかと、時折心配にもなるが、マジに聞いたところで、笑ってはぐらかされるか、小バカにされるかのどちらかだろう。
それに、友達と楽しそうにイケメンの話とかしているところなんて、フツーの女子となんら変わらなく見えるし、そう深刻ではないのかもしれない。
愛想も調子もいいが、いまいち何考えているかわからない変なヤツ。
それが、日高だ。
「アズマはどう思う?」
不意に、日高がこちらを向いた。
隣の席だから面と向かうと、距離の近さに戸惑うが、平静を装い聞き返す。
「どうって、何が?」
ちなみに、アズマというのは、苗字ではなく下の名前で、
クラスの女子はみんな苗字で呼ぶのに、コイツだけは何故か名前で呼ぶ。
しかも、呼び捨て。
その方がしっくりくるからだというが、お陰で妙な誤解をされたりもして、はっきりいって迷惑な話だ。
まあ、いってもムダだから、もう諦めたけど。
「アズマが前世で、男だったか女だったかって話」
「知らないよ、考えたことないし。つうかオマエ、前世の記憶とかあるわけ?」
聞き返すと、呆れたように日高はいう。
「あるわけないじゃん、そんなの」
ああ、そうだよ、こういうヤツだよ、日高は。
「もしもの話だよ。もし本当に、前世があるならって」
「前世ねぇ」
多分この話題にも、あまり意味はないのだろう。
なんとなく思い付いたとか、そんな感じで。
それでもオレは、少し真面目に考えてみる。
前世のオレ……。
「やっぱ、男じゃないかな。どこにでもいる平凡な男。今のオレみたいな」
「平凡な男は、児童会長とかやんないし、ファンクラブもないと思うけど」
「なっ、そんなん小学生んときの話だろ」
児童会長は面白そうだからやったんだし、そういう面白いことしたりちょっと足が速いってだけで人気が出たりする。
さすがに中学生ともなると、そうはいかない。
「今でも人気あるじゃん。アズマの足があと20センチ長かったら、まさしく少女マンガの爽やか王子なのにっていわれてるし」
「足ってなぁ、せめて身長っていってくれよ。それじゃ、すげぇ短足みたいだ。つうか、オマエ、
今は放課後で、ここは教室で、そこにオレと日高がふたりっきりでいるのは、居残りをさせられているからだ。
日高が。
オレは、友達が用事終わるのを待っているだけで、課題はとっくに提出した。
「わかってるよ。あーもう、めんどくさい」
ぶつくさいいながらも日高が課題に向き合ったので、邪魔しないよう読みかけの本を開く。
これでも読んで待っててくれと、友達に渡されたマンガだ。
偶然にも前世がどうこういう話で、主人公は前世の光景を夢で見ていた。
夢かぁ。
そういや、前に変な夢を見たっけな。
「ふーん。どんな夢?」
いきなり合いの手を入れられ、オレは驚く。
「今、声に出てた?」
「出てた」
やべぇ。
小春日和があまりに心地よくて、自宅にいるような気分になっていた。
「で、どんな夢?」
しつこく問われ、渋々答える。
「夢の中で、オレ、女だったんだ」
表情だけで、日高が食い付いたのがわかった。
「それも、なんか妙な格好でさ。えーっと、日本神話の女神さまみたいなって、わかる?」
「わかるわかる。きっと可愛いだろうな、アズマなら」
「オマエ、今のオレで想像してないよな?」
「大丈夫。アズマ、僕より小さくて可愛いから、女装似合うよ」
最高にいい笑顔でいわれても、全然嬉しくない。
「女装じゃなくて、女になってたんだよ。まあ、確かに可愛いかったけどさ」
可愛いくて、しかも、胸がデカかった。
より正解に思い出そうと、目を閉じ、記憶を
そう、確か、今のオレよりちょっと大人で、優しそうで……。
「アズマっ」
急に肩を強く叩かれ、オレは我に返った。
見ると日高は立ち上がり、呆然と黒板の上の方を見つめている。
いったいなんだっていうんだ?
オレも日高の視線を追う。
そして、驚いた。
日高が、上擦った声でいう。
「さっきいってた、女神さまみたいな格好って、あんな感じ?」
そう、そこには、いつどこから現れたのか、まさしくそんな格好の女がいて、しかも、フワリと宙に浮いていた。
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