ひとりの女性の死を通して、人と人の結びつきや無貌の感情を描いたよい作品でした。幼い主人公の淡々とした語り口で、死をきっかけにふだんとは違う顔を見せる人々の姿が浮き彫りになります。蝉の抜け殻を集めるのが好きだったというのもとても印象的で、それに対する各人の対応の違いがまたおもしろいです。よい作品をありがとうございました。
どんな人も、もし死んだら幸せでいてほしい……まして、苦しんだ人生だったのなら……多くの人は、この世で寂しさを抱いているのだから……まだ小学生の主人公が、人生で初めて人の死を経験する。それが優しい年上の従妹、由永さんの自殺。主人公が、亡くなった由永さんの家族や友人を観察する。それが自殺した由永さんに寄り添っているように見える。そこに優しさを感じる。どんな人にも、寂しさを埋めようとする何かがある。それが空蝉。人の心に寄り添える作者にしか書けない小説だと思う。
きっとどこにもない。でも蝉の脱け殻は何か?何を意味しているのか?それを考えるほどに思考の沼に落ちていって、それが醍醐味だと思いました。命の尊さ、自殺の原因、気になることは断片的に、確かに存在しています。けれどこの小説を通して考えたいのは蝉の脱け殻の意味、そこだと思います。空っぽになってしまった脱け殻、でも外側にはリアルな蝉が縁取られていて、本物に似た偽物というか、胸をわしづかむようなものに思えます。その脱け殻が放り出されたとき、捨てたのは脱け殻だけだったのだろうか。心臓を抉る物語です。
小学生の私から見た死。それは唐突で、慌ただしくて、だけれども静かでした。物語の中では、自死を選んだ人間自身よりも、近くにいた人間の心情が小学生の視点で丁寧に描写されています。由永さんは蝉の抜け殻を集めるのが好きでした。空蝉とは何を意味しているのでしょうか。一生懸命生きようとしたけれど、なお死を選ばざるを得なかったことでしょうか。蝉の抜け殻を集めるように、近くにいた人々がもうこの世にいない人間に思いを馳せることでしょうか。答えは提示されていません。ただただ、読み終わったあとに静かに感動が押し寄せてくるのです。
小学4年生だった当時を振り返りながら語られるこの『空蝉(うつせみ)』という物語は、その語り口の魅力だけで、物語を読む楽しさを教えてくれる。小学校4年生の主人公の視点に徹底的に寄り添って、物語がかたられる。小学校4年生にとって「わかる」現実だけが丁寧に丁寧に語られる。美しい語り口は、ただそれだけで魅力的だ。
大切な人を失ってもその事実を受け入れ、人は乗り越えなければいけない……そんなことを教えてくれる作品です。生きるということは決して楽しいことばかりではなく、時には悲しい出来事やつらい経験もあります。しかしその一方で、家族や友達の大切さを実感出来る、そんな人とのつながりをテーマにした作品です。 特に家族や友達など、大切な人を失った方にこそおすすめ出来る、短編小説と思いました。
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